クラス編成試験
練習場の中央に、男が立っていた。
腕を組み、目を閉じている。身じろぎひとつしない。周囲に淡い光の膜が浮かんでいた——防御障壁だ。試験官が自ら張った壁に、新入生が一人ずつ魔法を撃ち込む。この成績で一組から四組に振り分けられる。
最初の生徒が前に出た。手をかざす。火球が障壁に吸い込まれて、光が散った。試験官は目を開けもしない。
「次」
水の槍、風の刃。どれも障壁に触れた瞬間に弾かれ、砕かれ、消えた。
雷の才能を持つ生徒が一歩前に出る。広間にざわめきが走った。上位の才能で、将来有望とされている。青白い電撃が障壁を叩く——光の膜が一瞬だけ明滅した。だが試験官の足は動かない。腕を組んだまま、「次」とだけ言った。
プロの壁だ。新入生の魔法では、揺らすことすらできない。
列の最後尾で、レンは手帳をひらいていた。周りのローブの縁には才能ごとに色の違う線が入っている。赤、青、黄。レンの縁だけが白い。
「最初の試験には、いいやつで出たい」
ページをめくる。指が止まる。急ごしらえの名前を飛ばして、時間をかけて練り上げたページを開いた。
「——これだ」
手帳を閉じる。前に出た。
練習場の砂を踏む音が静まった場に響く。好奇と同情の視線が背中に刺さった。試験官がうっすら目を開ける。形だけ、受ける構え。
レンは息を吸った。砂と石の匂いが肺の底まで落ちていく。
右手を前に突き出す。
「——『蒼穹裂破』」
空気が、裂けた。
指先から放たれた衝撃波が障壁に叩きつけられる。着弾の瞬間、砂が舞い上がった。
試験官の靴底が、石畳を擦った。障壁に蜘蛛の巣のような亀裂が走り、光の膜がびりびりと震えている。修復が追いつかない。試験官の目が開き、あの涼しい顔が——変わった。
練習場の空気が凍りついた。
「ハズレ才能で……障壁を?」
誰かの声。答える者はいない。
レンは手帳をひらいた。さっき叫んだ名前を見る——『蒼穹裂破』の文字の上に、横線が一本。自分で引いたのではない。刃物で紙を切ったような細くて鋭い線が、文字を横切っている。手帳が勝手に刻んだ一度きりの証。
一度きり。鑑定官はそう言っていた。レンは横線を指でなぞった。何十もの名前が並ぶ中で、線が入ったのはこの一つだけ。残りの弾が、ひとつ減った。
口もとが、ゆるんだ。
「やっぱり、練り込んだやつは違う」
——蒼穹裂破。空を裂く名前を叫んだら、空を裂く力が出た。さっきの火の才能の生徒は火しか撃てない。雷の才能は雷だけ。でも俺は、名前の意味がそのまま効果になった。
名前で、効果を選べる。
試験官が腕組みを解いていた。初めて姿勢を変え、レンを見ている。成績表にペンを走らせ、教官席の教師に目配せをした。教師たちの間に、小さなざわめきが広がる。
レンの耳には届いていない。手帳を胸の前で握りしめて、空を見上げている。
この日、成績表に短い文字列が刻まれた。
——言霊、要観察。
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