ハズレ才能
指を突き出して、叫んでいた。
テレビの中の少年が、たった一発の霊弾で化け物を撃ち抜く。技の名前が画面を貫く。布団の中で同じ形に指を構えた。なぜあの名前で力が出るのか。原理がわかりかけた時の、胸の奥の震え。法則を掴む感覚。あの興奮をもう一度味わえるなら——。
——目を開けた。石の天井が広がっていて、知らない空気の匂いがした。体が軽い。窓の隙間から白い花弁が風に乗って落ちてきた。
ここがどこかは、もう知っている。
石造りの大広間に受験者が並んでいた。足裏に石の冷気。天井近くでろうそくが燃え、油煙の甘い匂いが鼻についた。水晶柱が壇上に立ち、鑑定官が名前を読み上げるたびに歓声や溜息が広間を揺らす。王立魔導学院、鑑定の儀。ここで才能が決まる。
列が進んだ。【火魔法】、【治癒術】、【風魔法】——壇上に上がるたびに青い文字が灯り、拍手が起きた。一人だけ【雷魔法】が出て広間がどよめく。アンコモン。将来有望。
少年が水晶柱に手を触れた。
——熱い。
指先から腕を伝って、胸の奥に何かが流れ込んでくる。体の芯が震えた。叫びたい。今すぐ、名前を——声にして、この力を確かめたい。
頭上に青い文字が灯る。
【言霊】
広間がざわついた。
「言霊……?」
「あのハズレ才能じゃん」
「才能っていうか……才能ですらないだろ、それ」
同情の視線が少年に降りてくる。
——だが、その少年は泣いていなかった。うつむいてすらいない。
「やった」
レンは拳を握っていた。目が光っている。頭の奥で、名前のリストが回り始めていた——どれから試す。どの名前がどんな効果を引き出すのか。条件を変えたら何が起きるのか。
「魔法が、使える……!」
声が裏返った。まわりの同情が、とまどいに変わった。
「あいつ、笑ってないか?」
「喜んでる……?」
「レン・アシュフォード。言霊は、技名を声に出して宣言するたびに魔法が発動する。ただし——」
鑑定官が言葉を選んでいる。気まずそうだ。
「過去の記録では、威力が極めて低い。他の才能の魔法に遠く及ばず、しかも使うたびに消耗する。正直に言えば、実用に耐えた使い手はいない」
「あの」
レンが振り向いた。目が光っている。
「それ、技名を叫んで魔法を撃てるってことですよね」
「……聞いていたか? 威力が——」
「最高じゃないですか」
「……最高?」
「名前をつけて、声にして、叫ぶ。それで世界が動く。こんなカッコいいことないでしょ」
鑑定官が口を開きかけて、閉じた。咳ばらいをして、声を低くした。
「——それだけではない。一度使った技名は二度と発動しない。完全な消費型だ」
レンの笑顔が止まる。
「……え?」
「同じ名前では、力は応えない」
広間がしんと静まった。ハズレの上に使い捨て。だれも笑えない空気が落ちてくる。
レンは水晶柱を見た。【言霊】の文字がまだ浮かんでいる。
「——つまり」
顔を上げる。目の光は、消えていない。
「毎回、新しい名前を考えるってことだ」
ポケットから手帳を取り出した。角のすり切れた革表紙。ひらけば、びっしりと名前が並んでいた。めくってもめくっても続く。
「ストックなら、ある」
広間の空気が変わった。
鑑定官が首を振った。
「……才能は出た。合格は合格だ。——次。午後から実技試験がある。結果でクラスが決まる。撃てるもんなら撃ってみろ」
レンは手帳を閉じた。指が震えている。
——叫べる。俺の名前で、俺の声で、この世界の魔法を撃てる。
どの名前がどんな力になるのか。長さや響きで結果が変わるなら、それも確かめたい。全部。
待ちきれなかった。
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