噂
「言霊のやつ、対抗戦でまじで勝ったらしいぜ」
「でも最近の実技見た? 威力ガタ落ちだよ」
「結局ハズレはハズレってことか」
廊下。すれ違いざまに声が飛んでくる。レンは聞こえているが、足は止めない。
——そこじゃねえんだよな。
名前のセンスを取り戻す手がかり。それだけが頭にある。昨日の図書室で収穫はゼロだった。才能図鑑も属性理論も、言霊について触れている本が見つからなかった。
今日は別の棚を当たる。
◇
図書室は空いていた。埃の匂いと、古い革の匂い。
レンは魔法史の棚から順にタイトルを追った。才能辞典、属性大系、大陸魔法通史。見覚えのない背表紙を引き抜いては開き、目次を指でなぞる。
——ない。
才能辞典を開いた。「言霊」の項を探す。索引から飛んだページには、たった数行しか書かれていなかった。
「古代の非効率な詠唱形式の一種。声に魔力を乗せて発動する原始的な魔法行使。実用に耐えた使い手の記録は乏しい」
以上。ページの残りは白い。
他の才能には数ページ割かれている。火魔法。氷魔法。治癒術。どれも細かく分類され、図解まで添えられている。言霊だけが、この扱い。
——なんでこんなに少ないんだ。
ハズレだから記述が少ない——最初はそう思った。だが1%の確率で出る才能なら、研究した人間がいてもおかしくない。誰もやらなかったのか。過去の使い手の記録が「乏しい」。乏しいのか、それとも——
レンは才能辞典を棚に戻した。奥の書架に向かう。
◇
奥の書架。古い本が並んでいる。背表紙の文字がかすれて読みにくい。
一冊引き抜いた。大陸魔法史の古い版で、目次に「声の魔術」の章がある。該当ページを開いた。
ページがなかった。
綺麗に破られている。糊の跡だけが残っていて、前後のページはそのままだ。この章だけが、抜かれている。
別の本を引いた。「才能研究紀要」と背表紙に刻まれている。言霊の項がある目次を見つけて、該当ページを開く。
また、なかった。同じように破られている。切り口が鋭い。手で千切ったのではなく、刃物か何かで丁寧に切り取られている。
また別の本を引いた。同じだ。言霊に触れた部分だけが、ない。
レンは本を開いたまま立ち尽くした。破られた痕と糊の残骸。前後の章は無傷だった。
「これ……焚書? 誰が、なんで」
次回「確信の法則」
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