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【言霊】ハズレスキルと笑われたけど技名を叫ぶたびに規格外の威力が出るんだが  作者: お寿司


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13/40

名前切れ

 ペンが止まった。


「"烈……紅……" ——違う。先週使った系統だ」


 ノートの上半分が消し跡で潰れている。インクが滲んで、もう書けるスペースがほとんどない。レンはページをめくった。白紙。ここに新しい名前を並べるはずだった。


「拳を突き出して叫ぶなら、音は破裂音で……意味は打撃系で……」


 書く。『轟拳ごうけん』。じっと見つめて、口の中で音を転がした。


「……ダサい」


 ペン先でぐしゃぐしゃに消した。実技の時間が来ても、ノートの余白は埋まらない。


 レンは急造の名前を二発撃った。『鉄火てっか』と『迅破じんぱ』。どちらも的に当たりはしたが、対抗戦で叩き出した手応えとは比べものにならない。名前に確信が乗っていないのが、撃った本人にはわかる。


「おい、あいつ今日ショボくないか」

「対抗戦であんなに強かったのに、なんだあれ」


 聞こえている。聞こえているが、そこじゃない。


「叫ぶのは恥ずかしくないんだよ。名前がダサいから恥ずかしいんだ」


 クラスメイトが黙った。何人かが顔を見合わせている。


 レンにとっては当然の区別だった。


    ◇


「名前のクオリティが下がると、威力も落ちるんだよ」


 食堂。パンをちぎりながら、レンはシオンに言った。


「……当然では」


「当然じゃねえよ! 名前はセンスなんだよ! もっとカッコいいやつを作りたいのに、しっくりくるのが出てこない」


「……じゃあセンスがないのでは」


 レンの手が止まった。パンが皿に落ちた。


「……刺さった」


「……事実」


 凹んだ。本気で凹んだ。だが——脳の隅で、対抗戦の記憶が引っかかった。あの時、拳を突き出してキメポーズで撃ったら威力が跳ねた。身体の使い方が変数なら。


「……なあシオン。声の出し方って、関係あると思うか」


「……何が」


「威力に」


 シオンがスプーンを止めた。


    ◇


 放課後。練習場の壁にもたれて、レンはノートを開いた。


 さっきの実技を振り返る。『鉄火』と『迅破』、どちらもC級の急造で質は同じくらい。なのに『迅破』のほうが手応えがあった。


 何が違った。名前の質じゃない、ポーズも変えていない。——声だ。実技の記憶を辿ると、『鉄火』はさらっと口から出したが、『迅破』は腹に力を入れて叫んだ。


 レンは立ち上がった。壁に向かって、名前は使わずに声だけ変えてみる。腹の底から息を吸い込んで、一気に吐く。空気が震えた。


 今度は囁くように息を漏らしてみたが、練習場の空気はぴくりとも動かない。——やっぱりだ。ノートを開いて走り書き。


「声も変数だ」


 大きくハッキリ叫ぶと威力が上がる。溜めて一気に吐くと瞬間火力が跳ねる。ポーズと同じだ。身体の使い方が、確信を増幅する。


 胸の奥で熱いものが回る。だが同時に、名前のセンス問題は何も解決していない。声で底上げはできる。でも名前自体の質を上げないと、根本が変わらない。


 ノートを閉じた。名前のセンスを取り戻すヒントが、どこかにあるはずだ。


 図書室に入ると、古い紙と革の匂いが鼻に届いた。奥の書架に目を走らせながら、レンは棚の間を歩いていった。魔法史、属性理論、才能図鑑。手がかりになりそうな背表紙を探す。ふと、棚の一角を通り過ぎた。他の棚は本が不揃いに詰め込まれているのに、そこだけ隙間が均等に空いている。


 レンは気にせず、次の棚に手を伸ばした。

次回「噂」

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