B級の一撃
闘技場の空気が違った。決勝。二組対一組。
シオンが一勝目を取った。ガルドが二勝目を取った。だが三戦目と四戦目を一組が取り返して、二勝二敗。昨日と同じ展開だ。
ただし昨日と違うのは、今日はレンが最初から出場順に入っていたこと。ガルドが黒板に五人目としてレンの名前を書いた時、誰も文句を言わなかった。
最終第五試合。一組のエースが目の前に立っている。ヴァン・クレイド——この国の王子だと聞いている。腕を組まず、構えもしない。ただ真っ直ぐにレンを見ていた。
「【言霊】か。面白いな」
舐めた声ではなかった。興味だった。C級連射を、この男は見ている。
レンはノートを開いた。C級のページ。
◇
「《灼風》」
熱を帯びた風刃が走る。相手は片手を振った。風刃が横に逸れ、石壁に当たって散った。
「《裂閃》」
続けざまに光の刃。相手が指を弾くと、光が割れて消えた。見てから対処している。反応ではなく、読まれている。
「種類は多いが、一発が軽い」
声に余裕がある。C級の速度も威力も、この男には足りない。
観客席から声が落ちてきた。
「やっぱりハズレか」
「さっきと同じだろ、あの程度じゃ届かない」
レンの手が止まった。ノートのC級の欄を見ている。
——閉じた。
ノートを、閉じた。
相手の目が動いた。レンが構えを変えたことに、気づいている。
息を吸った。砂と石の匂いが、肺の底まで落ちる。
ノートは閉じたまま。もう見る必要はない——その名前は、頭に刻まれている。
——決勝だ。カッコよく決めたい。
右手を前に突き出す。足を踏み込んで、全身の重心を拳に乗せた。
「——《天穹雷断》」
闘技場が、鳴った。
空気ではない。石壁が、砂地が、天井が——場そのものが震えている。指先から放たれた光弾はC級とは別の何かだった。音が遅れてくる。衝撃波が砂地を抉り、観客席まで風が叩きつける。
相手の防御が——砕けた。体が浮き、背中から砂地に叩きつけられる。砂塵が闘技場を覆い、ゆっくりと晴れていく。
教師席で、ペンが止まっていた。
◇
静寂。
それから、歓声が弾けた。
レンはノートを開いた。《灼風》《裂閃》に横線。ページをめくる。《天穹雷断》にも、線が刻まれている。
手が震えていた。恐怖ではない——指の先から肩まで、熱が走っている。
「……いい名前だった」
噛み締めるように、呟いた。
——でも、おかしい。B級なのに、今のは明らかに強かった。何が違った。
右手を見た。さっき、カッコつけたくて全身でキメた。足を踏み込んで、腕を突き出して、体重ごと叫んだ。いつもより姿勢に力が入っていた。
……姿勢で、変わる?
ノートの端にペンを走らせた。短い走り書き。「ポーズ→威力に影響? 要検証」
観客席の隅。シオンの表情は変わらない。ただ、その拳が——白くなるほど、握られていた。
次回「名前の重さ ―シオン―」
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