C級の雨
闘技場の砂地。風が石壁に当たって散る。
対面の三組の生徒が、腕を組んだまま口を開いた。
「才能【言霊】? 声出さないと何もできないやつだろ」
観客席も静かだった。二勝二敗の最終戦。それでも、ベンチに座らされていた言霊に期待する空気はない。
レンはノートを開いた。C級の欄に並んだ三つの名前を、指でなぞる。
目から日常の温度が消えた。
ノートを閉じた。
◇
開始の合図が闘技場の石壁に跳ね返った。
レンの足が砂を蹴る。右手を突き出す。
「《烈火》」
声が空気を切った。赤い光弾が闘技場を走り、熱が砂を焼く。
相手は声も動作もなく防御壁を張った。光弾が弾かれ、火花が散る。防御壁は揺れてもいない。
「——その程度か」
レンは息を吸った。次。
「《凍牙》」
白い槍が地面から突き上がった。冷気が砂地を裂き、相手の足元を凍らせる。
さっきと属性が違う。軌道も違う。
相手の目が見開かれた。
「……は? なんで——」
防御の切り替えが遅れた。氷の槍が防御壁を掠め、肩口を叩く。体勢が崩れる。
レンは間を空けなかった。相手が立て直すより先に、息を吐く。
「《震鳴》」
空気が割れた。
音の塊が正面から叩きつけ、防御壁が軋み、亀裂が走り——砕けた。衝撃波が体を押し飛ばし、背中が砂地に叩きつけられる。
砂が舞い上がり、ゆっくりと落ちた。
静寂。
観客席のざわめきが、遅れて広がった。
「あの威力で……三発とも種類が違う……?」
倒れた相手が、そう呟いた。
◇
レンはノートを開いた。
《烈火》《凍牙》《震鳴》。三つの名前に、横線が入っている。
「C級はこういう時のためにある」
静かに、独り言。
観客席から声が漏れている。「火と氷と衝撃波?」「名前を変えるだけで属性が変わるのか」「聞いたことないぞ」
教師席の端で、誰かがペンを走らせていた。レンは気づかなかった。
ノートを閉じて、砂壁にもたれる。
B級は一発も使っていない。
ベンチに戻ると、ガルドが腕を組んだまま闘技場を見ていた。レンと目が合って、すぐに逸らした。
掲示板の対戦表。決勝の相手は、一組だった。
レンはノートを開き直した。B級の欄を見る。九発。どれも時間をかけて練り上げた名前だ。
——一組のエースにC級は通じない。わかっている。
指が、一つの名前の上で止まった。
次回「B級の一撃」
ブックマーク・感想いただけると励みになります。




