43話
「さあ、始めましょうか。私のために最高の『刺激』を見せてちょうだい、クロエ」
カトリーヌが期待を込めて告げました。
「任せてください」
真剣な面持ちで、クロエは市販のデザートワインの入ったワイングラスに口を付けました。
パリストンの片隅で、歴史を揺るがす「最高の一滴」を作るための実験が始まりました。
まずクロエは、見本となる市販のデザートワインを一口だけ口に含みました。味の記憶を呼び覚ますための儀式です。そして、水の入ったデカンタを手に取りました。
「……いきますよ」
クロエの体から魔力が発せられ、デカンタの中の水がゆっくりと回転を始めました。
透明な渦は淡く色づき始めます。渦の回転がおさまった時には、見本と同じく琥珀色に変わっていました。
「おぉ……!」
三人の感嘆が重なりました。カトリーヌとラピエルが実際にクロエの魔法を見るのは初めてです。二度目の目撃となるディアヌも、少し驚いています。
「楽しみね。それでは早速頂くわ」
「もちろん」
ディアヌがそれぞれのワイングラスにワインを注いでいきます。
「……? 前の時より、香りがいいわ」
最初に気づいたのはディアヌでした。グラスを回し、鼻先で香りを確かめた彼女は、驚いたようにクロエを見ます。
「ねえクロエ、何か変えた?」
「前回と同じように作ったつもりだけど……」
首を傾げるクロエに対し、ディアヌは自身の分析を口にします。
「そうだとしたら多分、クロエがデザートワインの味に慣れてきたんじゃないかしら。ほら、クロエはワインが得意じゃないでしょ? それが魔法に影響を与えたのかもしれない」
「言われてみれば……口に含んだ時に、前よりは嫌な匂いじゃないなって感じた気がする」
ふたりのやり取りを聞いているのかどうかも分からないほど真剣な表情で、グラスの中のワインを見つめていた執事のラピエルが、優雅な手つきでグラスを傾けました。
「……美味しい。素晴らしいです。やはりアルコール度数は、通常のデザートワインを遥かに凌駕する高さです。しかしながら、これこそがこの『酒』の個性。薄めて殺すべきではない、このまま突き進むべきです」
「私もそう思うわ」と、優雅な貴婦人カトリーヌが頬を上気させて同意しました。
「むしろ、こちらの方がより『物語』を感じるわ。洗練されていながら、どこか狂気的なまでの力強さがある……。ええ、最高よ。私はこれ、大好きだわ」
大人たちが魔法の酒の魔力に当てられ、熱っぽく感想を言い合う中――
「……美味い」
当の製作者であるクロエは、議論に加わる様子もなく、ディアヌが用意した『鴨肉のロースト』を幸せそうに頬張っていました。
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