42話
レストラン『ル・コック・ドール(金の雄鶏)』。クリーム色の石壁に、誇らしげに胸を張る黄金の雄鶏の看板が掛かっています。
知る人ぞ知る名店として客の絶えないこの店も、「貸切」の札が掲げられた今夜は静まり返っています。
シェフであるディアヌは、隣にいる黒髪の少女を責めるような目つきで言いました。
「……クロエ、ちょっと。今日は気楽な仲間内の集まりだって、そう言わなかった?」
「ちゃんと伝えたよ………」
道を挟んで反対側に止められた馬車から降りて来たのは、深い森を思わせるエメラルドグリーンのドレスに身を包み、シャンデリアの光を跳ね返すような宝石を纏った貴婦人、カトリーヌです。
その後ろには、純白のスーツ――夜会用の燕尾服を思わせる隙のない出で立ちの、巨躯の執事ラピエルが不動の姿勢で控えています。
「あれは上級貴族のパーティーに参加するための格好じゃない」
「立派過ぎると思うかもしれないけど、カトリーヌさんは普段から大体あんな感じなんだ」
「そうなの? なんだか少し不安になってきたわ」
「もしかして料理に自信が無いの?」
「ふざけたこと言うんじゃないわよ」
明らかな挑発に、ディアヌは怒った顔でニヤリと笑いました。そうしているうちに、優雅な歩き姿でカトリーヌが店へとやってきます。
「あら、素敵な店じゃない。この少し煤けた壁の質感、物語の舞台にぴったりだわ」
「……あ、ありがとうございます、マダム。ワインに合う最高の料理でお応えします」
「楽しみにしているわ」
カトリーヌが軽く顎を引くと、背後に控えていたラピエルが、無駄のない動きで内ポケットから重みのある絹の袋を取り出しました。
「ディアヌ殿。これは今夜の場を整えていただいたことへの、主人からの些少な『心づけ』です」
恭しく差し出されたその袋をディアヌが受け取ると、ずっしりとした黄金の重みが手のひらを沈ませました。
「ありがとうございます、どうぞ店内へ」
そこには目にも鮮やかな料理が銀の食器に盛られ、波打つ白いシーツの上に並べられていました。
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