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王子は自分の感情を制御できている……はず

公爵家別邸のエピローグ的なものです。

「殿下! あれは一体どういうことでしたの⁉」


 もう外は暗いというのに、さらに暗い屋内へと引き換えされたかと思うと、公爵令嬢ゼリニカにそう迫られた。

 あれ――とぼけるつもりはないしとぼけると怒らせてしまうことも分かっているから素直に言うけれど、友人だと公言しているアレイヤを背後から抱きしめてしまった。


「どう説明すればいいかな……」


 ほとんど睨んでいると言ってもいい宰相補佐修行中のノーマンの視線だけで話させようとしている圧力をどこへ逃がそうかと画策してみるものの、悪手でしかないことは分かっている。

 誤魔化されてはくれない人たちだ。

 宰相補佐修行中のノーマンはもちろん、公爵令嬢のゼリニカも、伯爵令嬢のトワレスとララもそうだ。

 女性陣は特に、アレイヤとは友人の仲だからこそ、誤魔化せば悪い印象しか残らない。王太子の座に近い王族としては余計に。

 それに、自分自身どうしてしてしまったのかの説明ができない。


 アレイヤ・ノルマンドは友人だ。

 それ以外なら学園におけるライバルといったところか。


 他に言い表すとしたら、お気に入りの探偵。


 国にとっても魔力量の多い光属性は大切にしなければならない対象で、アレイヤの存在をまだ認められない勢力から守らなければならない相手でもある。


「殿下は、アレイヤ様のことを特別にお思いなのですか?」


 トワレスがゼリニカの後ろから聞いてくる。

 特別かと聞かれれば、特別と言っていい。

 友人らしい友人を作ることができない自分に、初めて対等に扱ってもらえる相手ができたのだ。特別な友人と呼んだって間違いではない。

 しかし、彼女らが聞きたいのはそういう意味の「特別」ではないと分かっている。

 残念ながら、そういう「特別」な感情は持ち合わせていない――はずだ。

 アレイヤを妻にするつもりはないし、アレイヤも嫌がると言うのも想像できる。

 求められている返答はそうじゃないんだろうな、というのはこちらを見る目が期待に満ちていることから明らかなのだが、やはりそういう感情は沸かない。

 その中で一つだけ言えることがあるとすれば……。


「ちょっとくらい、守ってる僕に恩恵があったってよくないか?」

「……殿下」


 アレイヤは他国から狙われている。

 隣国だけではない。毎日のように届く書状にはアレイヤに会わせろだのなんだのと書かれていて、父である国王は担当はお前だからとばかりに書状の管理を押し付けられる。

 アルフォンが真面目だった頃は割と自由に動けた。というより、継承権の問題で担がれるのを避けたくて自由に振舞っていた。さすがに兄の失態をなかったこともできず――証人になったし国王へ報告したのもレオニールだ――やるしかないと政務にやる気を見せればこれだ。

 学生の時間が終われば王子として生きなければ、と思っていたのももう昔のように感じる。

 気付けば生徒会長の任を与えられているし、差別的な思想はそこかしこに蔓延っているし、他国はアレイヤを狙い続けているし。


 正直、疲れる。


 疲れていてもアレイヤに責任はないし、どちらかと言えば付き合いが一番楽な相手でもある。

 光の魔力を持っている国内唯一の存在だからと王族との婚姻を望んではいないし、怠惰な態度はなくむしろ勤勉で、光魔法の探求には際限がない。

 他の国では光属性の少女が見目の良い男性たちを側に置きたがるなんて話を聞いたことがあるが、アレイヤはそんなことはしない。以前の光属性の女性のように周囲を魅了したりもしない。

 困ったことがあっても自身で解決できる範囲なら助けを求めようとしないし、手を差し伸べれば隣に並んで共に解決に向かおうとする。


「君たちが何を想像しているのかは知らないが、アレイヤは友人だ。それ以外の言葉で表すならば、唯一背中を預けられる相手と言ったところか」


 言葉にして、腑に落ちる。


「……アレイヤに、背中を預けてもらえたのが嬉しかったのか」


 僕は、と驚いて口元を手で覆う。


 あの時、足を滑らせたアレイヤの後ろにいたのはレオニールで、レオニールは何を気にすることもなく支えた。すぐに離れるかと思っていたが、レオニールに支えられたまましばらく動かないどころか、「抱きしめてあげようか?」の冗談に反抗したのか「やれるものならやってみろ」という態度だったのか、体重を預けてきたのだ。

 アレイヤ一人くらいなら抱えられる自信はあった。アレイヤは食べることをまだ恐れている節があり、体重も恐らく完全には戻っていない。

 だからこそ余裕で支えていたのだが、それでも無防備に体重を預けてもらえるなんて思っていなかった。


 レオニールは王子だ。

 王族だ。


 王族相手に婚約者でもない少女が、懸想もしていない相手にそんなことをするなんて、信用してもらえている証ではないのだろうか。

 立場も性別も関係なく。


「う、うわぁ……。友達に頼ってもらえたってだけでこんなに嬉しくなるの、ちょっと恥ずかしいな」


 あんまり見ないで、と暗い空間でも顔を赤くしているのだと分かる慌てように、ゼリニカもノーマンも、トワレスもララも表情が消えた。


「……そう、ですわよね。王族であってもレオニール王子殿下も年下の男の子……なのですね」

「落ち着いてください、ゼリニカ嬢。年下と言っても一つ下なだけです。ここまで少年であったなど……父に報告できませんよ」


 無理やり納得しようとするゼリニカは頭痛を覚えたのか頭を、ノーマンは溜息を吐きだしながら首を横に振る。

 現在の国王陛下に王位継承権のある子息は二人いて、長男のアルフォンは資格を剥奪されている。

 有力なのは第二王子であるレオニールになるのだが。


「殿下、本当にお友達が欲しかったのですね……?」

「力が及ばず、申し訳ない限りですわ……」


 レオニールとアレイヤの恋模様を期待していたララは、希望が薄い可能性を感じて溜息を堪えきれなかった。

 いや、まだレオニールの気持ちが変化するかもしれない。わずかな希望を見出したララの薄く笑った顔を見たトワレスは、見なかったことにした。



主人公アレイヤは早生まれ、レオニールは秋生まれくらいの気持ちで書いています。なのでまだ誕生日が来ていません。

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