275:ラス・イコメク-3-6
「ふんっ!」
私がニグロム・ローザを杭打機の要領でラス・イコメクに叩き込む。
減ったHPの量はドレインフィールドによる吸収との差し引きで、一発につき1%もないだろう。
だが、確実に削れている。
「ゴガアッ!?」
しかし、私の攻撃の衝撃でラス・イコメクの内容物が周囲に撒き散らされ、大半は私の茨が栄養として吸収消滅させるが、一部はモンスターの姿となって私に襲い掛かろうとする。
出現するモンスターの内約は先程までサロメたちに向けられていた芋虫や糞尿牛だけでなく、魔法全般に対して極めて高い耐性を持つ巨大百足や強靭な皮膚と顎を持つゾンビカバ、それどころか骨だけでありながら空を舞いブレスを放つスカルドラゴンまで居る。
そこに、マトモに一撃を喰らえば即死させられる吐瀉物人形も時折混ざっているのだから、質が悪い。
「『ルナリド・ムン・ワン・ボルト・ツェーン』!」
「絶対に近づけさせるな!」
「『ナトスリプ・ムン・フロトエリア・スリプ・ツェーン』」
「ここでエオナの拘束が外れたら全滅だぞ!」
「ブメッコオオォォ!!」
それをサロメ、ゴトス、マクラ、ビッケン、アイブリド・ロージスと言った面々が迎撃。
被害を受けつつも倒していく。
だが、今の状況は火力だけあっても駄目な物だった。
「「『ミラビリス・メタル・ラウド・ミラ=メイズ・フュンフ』」」
「装備の修復と応急細工完了!次っ!!」
「~~~~~♪」
だから、シュピーとシュピー=ミナモツキが短時間だけこの層に来て、敵の足止めに役立つ魔法を張る。
イナバノカグヤさんが絶え間ない戦闘で劣化していく戦闘能力の補修をする。
ゲッコーレイが歌い踊り続ける事で、全体の流れを少しでもこちら側に傾ける。
そうする事で、前衛だけなら数分で崩壊するような戦線を辛うじて維持する。
「ああもう!こちとらタフなだけのモンスターになってんだぞ!!」
「それでもやるしかねえだろうが!どう考えてもラス・イコメクが勝ったら俺らも死ぬ!」
「そうだぞ!死ぬのは嫌だ!!」
「「メエエェェ!!」」
「分かってる!!」
ワンオバトー、アユシ、スリサズの三人に、金毛の羊たちも戦いの場を駆け回り、他のメンバーたちよりも大柄な体を生かして時には盾となり、壁となりで戦いを補佐する。
もはや、この場においては元が如何なるものかは関係なく、とにかくラス・イコメクを倒そうとする者ならば誰もが味方であった。
なにせ、アユシの言う通りラス・イコメクが勝ってしまえば、ラス・イコメクが生まれたのでないモンスターたちは皆、殺されて取り込まれるだけなのだから。
「すぅ……はぁ……」
だがそれでも、それでも少しずつ削れている。
ルナたちが到着すれば、そのスピードは更に速まるだろう。
『くっくっく、本当によくやるわ。こうなれば意地の比べあいよなぁ。妾が先に倒れるか、貴様らが先に倒れるかのな』
そんな私たちの奮戦をあざ笑うように、口を開けないはずのラス・イコメクの声が戦場全体に響き渡る。
そう、ラス・イコメクは思念波によって周囲の生命体に自分の意志を伝える力をわざわざ得ていた。
目的は分かっている。
挑発だ。
だから、誰も耳を貸したりはしない。
そこまでの余裕はない。
「夜を再展開。『ナトスリプ・ファトム・ラウド・プレゼト=スリプ=コセプト・アウサ=スタンダド』『ナトスリプ・ムン・フロトエリア・スリプ・ツェーン』……眠れ、永久に。『ナトスリプ・ムン・ラウド=スリプ=エネミ・デス・ツェーン』!」
こちらの主戦力はだいたいがルナリド神官でもある。
だから夜と睡眠の神ナトスリプ様の代行者であるマクラが、コウモリの羽のようなものを大きく広げて、再び夜を生み出す。
そして、本来なら眠ると言う概念の無いアンデッドに眠るという概念を与え、その上で広範囲睡眠魔法と睡眠状態の敵を問答無用で即死させる魔法を発動して、何十と言う敵をまとめて葬り去る。
「『グロディウス・アス・セット・ピット・フュンフ』」
「せいっ!はっ!」
土の蛇を介してヤマカガシが魔法を発動、落とし穴を出現させて敵の足止めをする。
直にルナたちが着くのとこちらに余裕が無いと言う事で呼び戻したスヴェダが怨霊の矢を放って、急所を射抜く事で悶絶させ、場合によっては他のモンスターの進路に巻き込むことで葬っていく。
「攻撃の手を緩めるなあああぁぁ!!」
「「「おおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」」」
他の面々も攻撃の手を緩めず、尽きる事のないモンスターの波を処理していく。
何十分も、何時間もだ。
『で、分かっているのか?妾にはまだまだ手がある事を』
ラス・イコメクが再び思念波を放つ。
私にしか見えないラス・イコメクの目は笑っている。
そして、この言葉は事実だ。
ラス・イコメクはまだまだヤルダバオトから力を得る事が出来る。
『フィーデイ』に現れ、『フィーデイ』が滅びる事が確定する瞬間まではヤルダバオトは力を授ける。
悪と叛乱の神とはそう言うものであるからだ。
『さて、次は如何なる能力を得ようか。ドレインの強化か?モンスターの強化か?単純に妾の身体能力を高めて拘束をぶち破ってやるのも一興かのう?』
私は再びニグロム・ローザを突き刺す。
だがラス・イコメクの言葉は止まらない。
思念波による発言に体の状態は関係ないからだ。
メンシオスの黒い霧による浸食の痛みさえ我慢できるのであれば、何事も無いように発する事が出来てしまう。
「とっととぶっ倒れなさい!ラス・イコメク!!」
ラス・イコメクの討伐が出来るまで後何時間かかるかも分からない。
下手をすると何日もかかるかもしれない。
それが分かっていながらも、私は私の中に流れ込んでくる魂たちの叫びにそう言わずにはいられなかった。




