273:ラス・イコメク-3-4
食事中に読むには不適切な描写が存在します。ご注意ください。
「ふんっ」
「ギチュ!?」
私の拳が芋虫の腹にめり込む。
拳から伝わってくるのはぶよぶよの皮膚にガス特有の弾力、鼻に刺すのは腐敗臭であり、刺激臭でもあるそれらは目にも影響を与えてくる。
拘束してあるので自発的な反撃は行えないが、その場に居るだけで影響を及ぼす力はそのままだ。
また、与えるダメージは微々たるものであり、討伐にはまだまだ時間がかかる事だろう。
「せいっ」
「ギッチュア!?」
まあ、問題は無い。
時間はかかるが、それだけの話。
ならば、芋虫にリズムよく攻撃と拘束を仕掛けつつ、現在の状況の確認をすればいい。
なので私は少しだけ周囲に目をやる。
「ふう、何とかなったわね」
「悪い、助かった……」
ゴトスは無事に討伐したようだ。
肩で息をしているが、大きな傷はない。
エオナ=マネージとエオナ=ライブラリの二人は当然問題ない。
「~~~~~♪」
「ブメッコウゥ!」
「うおらぁ!!」
「能力なしがつらい……」
「ガタガタ言わない!」
「ブモウッ!」
ゲッコーレイの方はまだ戦闘中。
アイブリド・ロージスがメインタンクとして糞尿牛を抑え、アユシがサブタンクになって排泄物から生まれた糞人形を抑えている。
まあ、あの分なら問題はなさそうだ。
「『バンデス・フレイム・エネミ=セブン・ボムランス・ツェーン』!」
「ーーーーー!?」
「だいたいは任せていいかしら」
「問題ないわ」
エオナ=トレインの下にはサロメ他復帰した面々が集まっていて、藁人形を全力で攻撃中。
藁人形らしく被ダメージの累積によるカウンター攻撃を有しているようだが、問題なく凌げているようだ。
「グウグウ……」
「このまま放置で」
「「「分かりました!!」」」
「よし、準備完了。次の仕掛けを始めるよ」
イナバノカグヤさんの所に居る霊骨魚は……完全に熟睡状態、いや、マクラによって悪夢を見せられているのか、時々のたうち回っている。
流石は夜と睡眠の神ナトスリプ様の代行者と言うべきか、完封状態のようだ。
また、イナバノカグヤさんは装置の設置を終えたらしく、私含めて全員の動きがほんの少しだけ良くなる。
「ファーム、そっちの状態は?」
『問題なし。二人のシュピーが中心になって動いてくれているから、死に戻りしたメンバーの戦線復帰含めて滞りなし。この分なら何日でも行けると思う。ついでに、ラビネスト村の方はメイグイが担当してる』
「大丈夫なの?」
『メイグイたちが着いた時点でラス・イコメクが復活していたからなのか、G35が自分から切ったのか、村の仕掛けは切れていたみたい。ただ、住民の記憶や拠点については綺麗さっぱりみたい』
「なるほどね」
後方支援と外についても問題は無い。
「残るは……」
私はラス・イコメク本体の方に視線を向ける。
「ふむ、制圧されたか。有象無象共も想像以上にやるようだのう……」
ラス・イコメクは二種類の鬼ごとプレイヤーたちを踏み潰して攻撃している。
二種類の鬼も、実体のある紫の鬼ゾンビはプレイヤーを殴り飛ばし、霊体の蘇芳色の鬼ゴーストはプレイヤーを魔法で殺害している。
だが、この場で死んでも死に戻りするだけであるため、倒れたプレイヤーは一つ目の層で治療と補充を受けた上でこの層に戻ってきて、それぞれの戦列に再び加わっている。
「何より煩わしいのは、潰しても潰してもきりがない事か。複製であるからこそと思っていたが、この場に仕掛けられたものであり、出自を問わぬとはな。これは元を絶つように動いたほうがいいか?」
戦闘は順調と言っていいだろう。
私の前に居る芋虫ももうじき倒れるし、倒し方は分かったから、また生み出されても大した脅威にはならないだろう。
しかし、油断は出来ない。
ラス・イコメクの呟きと視線の動きからして、既に私をどうにかしない限りは、普通の手段ではこちらの戦力が減らないのはバレている。
「ギ……チュ……アッ……」
「ようやくね」
と、此処でようやく芋虫が力尽きる。
他の戦列でも悪夢を見ている状態で放置されている霊骨魚以外は討伐されたようだ。
「うおらぁっ!」
「ぐっ!?」
と、ビッケンのいい一撃がラス・イコメクのアキレス腱に入ったようだ。
僅かにだがよろめく。
「ぐっ……どうやら余裕を見せている状況ではないようだな……いいだろう、妾の真価を見せるとしよう」
だがよろめいただけだ。
倒れるまではいかない。
そして、ラス・イコメクの頬と悍ましい気配が大きく膨らむ。
これは……拙い。
「トレイン!最前線のメンバーを退かせなさい!!」
「言われなくても!!」
直ぐにエオナ=トレインがラス・イコメクの近くに茨のゲートを幾つも開いて、問答無用でこちら側の面々を門の中に放り込んでいく。
「オボロロロロロオオオオォォォ」
「「「!?」」」
ラス・イコメクの口から茶色の吐瀉物が放たれる。
そしてラス・イコメクの足元に落ちたそれは自然の法則に従って、津波のように広がっていく。
しかも遠めに見ても固形物混ざりであるし、酸っぱいものを中心とした悪臭までもが漂ってくる。
完全にゲ□だ。
元ネタを考えればおかしくはない行動なのかもしれないが、ルナリド様の悪意を疑わずにはいられない姿でもあった。
いや、冗談と言うか現実逃避をしている場合ではなかった。
「なんだ、このゲ……ひ、ひあああぁぁっ!?」
「触れるな!死ぬぞ!!」
「こ、こんな死に方は……ひぎゃああぁぁっ!?」
「何なんだよこれはぁ!?」
見た目は完全にゲ□だが、攻撃は攻撃であり、しかも威力が高い。
避難させ損ねたメンバーが吐瀉物に直接触れてしまった瞬間に全身が溶け腐って死んでいる。
いや、それだけではなく……
「全員間違っても触れないで!その攻撃で死んだメンバーが戻って来れてない!!」
「「「!?」」」
死に戻りが阻害されている。
魂が死に戻り地点に行けていない。
では、彼らの魂は何処に行ったのか、そんなもの決まっている……。
「ふう、こんなところか」
広がった吐瀉物の一部が人型を取り始める。
「さて、妾が産み直してやるから、好きなだけ暴れ、好きなだけ殺せ。この世を死で満たすがよい」
ラス・イコメクは満足そうに微笑んでいる。
「「「ーーーーー!!」」」」
「行け、有象無象共」
人型は、内部に閉じ込められた魂の姿を象るように、今さっき飲み込まれて死んだ者たちと同じ姿をしていた。




