272:ラス・イコメク-3-3
「やっぱり駄目だったわね。まあ、炎使いの前に火気厳禁な見た目で来るのだから当然だけど」
爆炎が晴れて、焦げ一つないサロメが姿を現す。
「そうね。と言うより、これで火に弱いモンスターが来ていたら、逆に色々と疑う必要が出てくるわ」
私も炎の外に姿を現す。
サロメと違って身に着けている物や皮膚に焦げが出来てしまっているが、この程度なら数秒で治るので、問題は無いだろう。
「キチュ?キッチュウ?」
ラス・イコメクの生み出した芋虫も攻撃前と変わらない姿と腐敗臭で姿を現す。
その姿は何かしたのかと言わんばかりである。
「キッチュア!」
「HPは……殆ど減っていないわね。火属性耐性かしら?」
芋虫がサロメに向けて糸を吐き出す。
なので私はサロメと芋虫の間に割って入り、拳甲で糸の先端を上から叩く。
すると、糸は素直に叩き落され、地面に突き刺さり、金属のような光沢を有する柱となって固まる。
先端に正面から触れると固化すると言うところだろうか。
「試せば分かるわ。『ルナリド・ムン・ワン・ボルト・ツェーン』」
「ギッチュ!?」
サロメの杖から蘇芳色の矢が放たれ、芋虫の頭に突き刺さり、芋虫の体を反らせる。
「ギチュ?」
「ダメージ軽減系。それもかなりの高倍率ね」
「本格的に足止め目的ね。これは」
が、芋虫は何事もなかったかのように、頭の向きを直すと、矢が突き刺さったままこちらを見ている。
ラス・イコメクが生み出し、腐敗臭とガスの貯まった体の時点でそうではないかと思っていたが、どうやらこの芋虫もアンデッドではあるらしい。
「向こうは……」
「さて、有象無象共の処理は小鬼共に任せるか。好きに暴れろ、我が血に眠りし奉ろわぬ者どもよ」
「「「ーーーーー!!」」」
「『満月の巡礼者』切り込み隊長の力、見せてやらあぁ!!行くぞお前ら!!」
「「「おおおぉぉぉ!!」」」
「キツそうだけど、任せるしかないわ。この手のはボス担当班に被害が出ないように処理するのが鉄則よ」
リーダーをビッケンに変えたラス・イコメク本体のチームは、紫色の表皮を持った鬼のゾンビたちと、半透明で蘇芳色の体を持った鬼のゴーストたちを処理しつつ、ラス・イコメクに攻撃を仕掛けている。
かなりキツそうではあるが、こちらの芋虫を向こうに合流させるわけにもいかないので、任せる以外の選択肢はないだろう。
他の特別な個体を差し向けられた面々についても同様である。
「キチ!キチチ!キチキュア!」
そうして向こうの状況を確認している間にも芋虫は攻撃を仕掛けてくる。
どうやら芋虫の糸には幾つかの種類があるようで、先端に正面から触れると固化するもの、極めて粘着性が高いもの、毒が混じっていて着弾の衝撃で中のガスが弾けると同時に周囲に撒き散らされるもの、網のような形で放たれる物もある。
だがいずれも攻撃力は低く、私一人でも十分に対処可能であり、サロメは攻撃に集中する事が出来ている。
「『ファウド・ウド・ワン・ボルト・ツェーン』」
「キッチュ?」
「効いてないわね」
しかしサロメの攻撃はほとんど通っていない。
この芋虫が被ダメージの何割かを無かった事にするタイプの能力を有しているためだろう。
おまけにだ。
「『スィルローゼ・プラト・エクイプ・イパロズ=チェイス・フュンフ』」
「ギッチュ!?」
私は魔法をかけた上で芋虫を殴りつけ、軽く吹き飛んだ芋虫は傷口に生じた薔薇の花が咲くと同時に放たれた衝撃波によってさらに吹き飛ぶ。
が、ダメージは一切入っていない。
「高倍率のダメージ軽減に固定値でのダメージ削減も入っているわよね。これ」
「『ルナリド・シャドウ・ワン・スライス・ツェーン』」
「ギッチュ!?」
「そうね、おまけにこっちの攻撃の威力が高いほど、軽減率が上がっているわ。これ」
追撃でサロメが影の刃を生じさせて攻撃、深く切りつける。
だが、威力は間違いなく先程の木の矢よりも上であるのに、与えたダメージはほぼ変わらない。
いや、下手をすると少ないかもしれない。
「面倒ね」
「面倒な奴よ」
適量型、とでも称せばいいのだろうか。
相手の防御力を貫けない攻撃は論外、けれど相手を一撃で倒せるような攻撃も無効化される、だから適切な量のダメージを積み重ねるしかないと言う極めて厄介なタイプの壁だ。
「『スィルローゼ・プラト・エクイプ・ソンウェプ・ツェーン』。せいっ!」
「ギチチ、ギッチュアッ!?」
「はい、面倒くさい要因追加ね」
「正に嫌がらせ特化ね」
そして、面倒くさいことにこの芋虫、短時間に連続で攻撃を仕掛けると防御能力全般が跳ね上がるようになっているらしい。
拳甲の指先を鞭化して五連撃を仕掛けてみたが、二発目からの手応えが碌な物ではなかった。
「継続ダメージで削るのが一番マシかしらね。『バンデス・ヒト・ワン・スコッド・ツェーン』」
「ちょ……」
サロメが対象に火傷を負わせる魔法を詠唱する。
詠唱は止める暇もなく完了して、熱気が芋虫の周囲に発生する。
「ギッ……」
「火は……」
「あっ……」
そうして当然のようにガスに引火して爆発した。
どうやら、火傷を起こす程度の熱ですら反応するような、極めて可燃性の高いガスであるらしい。
あるいは、火属性であるなら問答無用で反応するのかもしれない。
なんにせよだ。
「本当に面倒くさい相手ね。コイツ」
「こうなってくるとラス・イコメク本体と違って攻撃が温いのも、面倒くさくなってくるわ」
「ギッチュアアァッ……」
向こうで高笑いしながらビッケンたちを踏み潰そうとしているラス・イコメクが、私とサロメを始末あるいは足止めする為に生み出しただけあって、とにかく面倒な芋虫のようだった。
「サロメ」
「分かったわ」
「キチキチ……」
なのでまあ……
「『スィルローゼ・プラト・ワン・バイン=ベノム=スィル・ツェーン』」
「任せたわ。エオナ!」
「キチュ!?」
私が魔法によって芋虫を拘束すると同時に、サロメには他の援護に向かってもらった。
芋虫は生み出された経緯からサロメの事を狙い続けるようになっているようだが、動けなくしておけばサロメが狙われることは無い。
「じゃ、後は地道に殴りましょうか」
「ギ……ギ……」
そして私は芋虫を始末するべく拳を振り上げた。




