271:ラス・イコメク-3-2
「戦闘開始いいぃぃ!!」
ゴトスの叫びと共にラス・イコメク……いや、万産界・皆産みの魔鬼王ラス・イコメクへと無数の攻撃が飛び始める。
そして攻撃だけでなく、味方を支援するためのバフに、先程の衝撃波と共に張られたドレインフィールドに対抗するための自動回復系の歌がゲッコーレイの声で響き始める。
既に場には私たちが張り巡らせた茨の領域が広がっており、十数本立てられた茨の塔からは鞭化した短剣による攻撃が絶え間なく飛んでいく。
「ふむ……」
対するラス・イコメクは微動だにせず、攻撃を仕掛けている周囲のプレイヤーたちを観察している。
私にはその動きがこちらの奥底まで見通しているようで、ひどく不気味だった。
だから、私は攻撃に加わらず、サロメの隣で拳甲と脚甲を身に着けた状態で構えを取り続けている。
「要は四人、いや、五人と言うところかの」
ラス・イコメクの声が響いた瞬間、私は背筋が凍えるような気配を感じた。
サロメも同じような気配を感じたのだろう、既に杖を構えていた。
「すぅ……」
ラス・イコメクが息を吸う。
「『スィルローゼ・ウド・フロト・ソンウォル・アハト』!」
「『ルナリド・ディム・フロト・ブラクウォル・ツェーン』!」
私が茨の壁を出現させ、その後ろにサロメが黒い影の壁を出現させて二重の防壁を作り出す。
「ぺっ」
「「っ!?」」
直後。
二重の壁に何かがぶつかり、轟音と共に衝撃波が撒き散らされ、茨の壁も影の壁も破壊される。
何がぶつかったのは、巻き上げられた土煙の為によく見えない。
「ぺっ、ぺっ、ぺっーのぺっ」
土煙の向こうでは別の方向に向けてラス・イコメクが何かを吐き出しているようだった。
その数は、私たちの下に放たれたものも含めて計五つ。
「ある意味元ネタ通りって感じかしらね……」
「元ネタ?」
サロメはラス・イコメクの元ネタを知っているらしい。
険しい表情をしている。
「イコメクをローマ字にして、逆から読めば、U,K,E,M,O,C,I。ルナリド様がツクヨミノミコトをモチーフ……と言うか、当人である事。ラス・イコメクの体からアンデッドとは言え、別の生命体が大量に生じる事。これらを合わせて考えれば、元ネタが保食神である事ぐらいは絞れるわよ」
「ああ、なるほど」
保食神……私の神話知識だとあまり馴染みはないが、ルナリド様……ではなくツクヨミノミコト様に切り殺された神様だったはず。
切り殺された原因は……ツクヨミノミコト様に口から吐き出した物を食べさせようとしたから、だっけ?
となると、今、ラス・イコメクが吐き出した唾は……ああなるほど。
「有象無象を幾ら蹴散らしても戦いは終わらぬからな。要となるものには死んでもらうとしよう」
土煙が晴れる。
「キチュ?キチュチュ?」
「確かに元ネタ通りね」
「そう言う事よ」
土煙に居たのは体長10メートルはあろうかと言う巨大な芋虫。
猛烈な腐敗臭を撒き散らすだけでなく、体内にガスを溜め込んでいる事が窺えるでこぼこの白い皮膚を持っており、その目は私とサロメの二人をしっかりと見定めている。
戦いを避ける事は出来ないし、無視するわけにもいかなそうである。
どう考えてもスパルトイより数段強いだろうし。
「悪いな。暫く指示は出せそうにない」
「安心しろ、こっちはこっちでどうにかしておく」
そして、周囲をよく見てみれば、守りの要として見られたらしいゴトスの前には半分骨になった大型の鳥がホバリングしている。
回復の要として見られたゲッコーレイの前には、家並みの大きさを持つ上に糞尿を垂れ流しにしている牛が立っている。
場の維持の要であるエオナ=トレインの前には、見るからに邪気を纏っている藁人形のような物体が仁王立ちしている。
で……
「カグヤはマクラが守るよー」
「お願いマクラ。アタシは細工の続きをしないといけないから」
「がーんばるよおおぉぉ!」
やる気に満ち溢れているマクラと、何かの装置……恐らくはこの場全体に作用して私たちを有利にしてくれるであろう柱状の物体を弄っているイナバノカグヤさんの前には深海魚のように半透明で骨が直接見えるグロテスクな姿をした巨大な魚のゴーストが浮いていた。
どうやら、ラス・イコメクは的確にこちらの重要人物を潰しにかかってきたらしい。
「分かっていると思うけど……」
「心配しなくても既に配置済み」
「こっちの心配をするなら、とっとと目の前のを片付けてくださいね」
当然私たちも相手に合わせて直ぐに動く。
スリサズに乗って、巨大化したニグロム・ローザを振るうエオナ=フェイスはそのままラス・イコメクへの攻撃を続ける。
ゴトスの下にはエオナ=マネージとエオナ=ライブラリの二人が向かう。
ゲッコーレイの下にはアユシ、ワンオバトー、アイブリド・ロージスを連れたエオナ=ジェイルが行く。
イナバノカグヤさんとエオナ=トレインの下に向かわせる戦力がないが……まあ、あちらは代行者だし、自分で何とかするだろう。
つまり、迎撃戦力は問題ない。
「キチュアアァァ!」
芋虫が私たちに向かって駆け出し始める。
「じゃ、絶対にアウトだと思うけど、とりあえず弱火で試すわよ。『バンデス・ファイア・ワン・ボル・アインス』」
「分かったわ」
そこへサロメが小さな火球を放つ。
そうして芋虫の手前1メートルほどにまで火球が到達した瞬間。
私たちも巻き込む形で周囲一帯が爆炎に包み込まれた。
12/14誤字訂正




