270:ラス・イコメク-3-1
攻撃を撃ったのは黒焔少女アビスサロメで間違いない。
聞こえてきた魔法の詠唱は『ルナリド・ムン・ミ=ビフォ=スペル・アルテ=リピト・ツェーン』だったが、これは直前に使用した魔法をルナリド様の信仰値で用いる魔法。
となれば、放たれたのが火球である事と桁違いの爆発であったことからして、コピー元は火と破壊の神バンデス様のアルテ系攻撃魔法である『バンデス・フレイム・ワン・アルテ=バーン・ツェーン』だろう。
この組み合わせをするのは、私が知る限りではサロメくらいだ。
だが、それだけではない。
それだけではこれほどの破壊力は生じない。
他にも要素は組み合わさっている。
「さて……」
大量なんてレベルではない、レギオンをはるかに超える数の人間とアイテムによる一斉バフ。
これまでの戦闘で場に満たされた大量の木気による火気に対するバフ。
ラス・イコメクが得た木属性や金属性に対する耐性と釣り合いを取る形で低下した火属性への耐性。
巨大なモンスターに対して相応しいサイズの大規模攻撃。
いや、もしかしたら神憑りアイテムによって魔法の階級そのものも上げているかもしれない、クレセートならばルナリド様の神憑りアイテムを手にする方法があってもおかしくはない。
そして、私の知らない方法による威力向上もあったかもしれない。
まあ、なんにせよだ。
「死んだかしらね?」
「私は死んだわよ!」
「生きているじゃない」
「ルナリド様の自動復活魔法のおかげでね!!」
モロに炎を受けた私ことエオナ=フィーデイは灰すら残さず蒸発した。
私の最大魔法の十倍以上は威力がある魔法をこれと言った対策なしに受けていたら当然の結果である。
が、常々かけてあるルナリド様の自動復活魔法のおかげで蘇生、茨の門から悠々と出てきたサロメに対してツッコミをした。
と言うのが此処までの流れである。
「で?これで終わるなんて甘い話は無いわよね。エオナ」
「でしょうね」
私たちの前では完全焼却された戦いの場の状況を再度整えるために、他のエオナによる魔法の詠唱と、ゴトスたちによる壁の再設置が行われている。
何故そんな事をするのか、そんなのは決まっている。
「まだ、ラス・イコメクは生きているもの」
魔鬼王ラス・イコメクのHPは50%を切ったところぐらいで残っていて、生きているからだ。
「ただ、此処から先はゲーム時代を忘れた方が適切でしょうね」
「そうね。灰になったラス・イコメクが動き出す、なんてことはゲーム時代には無かった事だろうし」
今のラス・イコメクは黒い灰の山になっている。
ドレインフィールドは展開されていない。
動く気配もない。
だが、HPはしっかり残っている。
そんな奇妙な状態である。
「正規通りなら木乃伊の第三形態。蘇芳色のオーラを出し始める第四形態ってところだけど……想像がつかないわね」
サロメの言うとおり、ラス・イコメクの第三形態は全身に乾いた肉と皮が生じて木乃伊のような姿になり、周囲に重力変異を起こすと言うもの。
第四形態はそこに強烈なデバフを伴う蘇芳色のオーラの放出である。
他にも技の追加などはあるが、概ねはそんなところだ。
「動き出したわね」
と、ここで、灰の山が動き始め、戦いの場に居る全員が臨戦態勢を取る。
姿が明確になった瞬間を狙って、一斉攻撃をする腹積もりである。
私たちが動く一方で灰の山も動き続け、人の形を取り始める。
「ては……」
「っつ!?」
そうして灰の山の中から青白い物が見え始めた瞬間だった。
私、エオナ=フェイス、エオナ=ライブラリ、エオナ=マネージ、エオナ=トレインの五人は動き出していた。
それはまるで予知のような感覚であり、一瞬の遅れも許されないと私たち五人は揃って感じていた。
「「「『スィルローゼ・ウド・エリア・アルテ=スィル=エタナ=アブソ=バリア・ツェーン』」」」
私たち五人が揃ってスィルローゼ様の究極封印魔法を発動して、ラス・イコメクの灰の山を包み込む。
そうして包み終わると同時に……
「「「ーーーーー!?」」」
封印の中から放たれた衝撃波によって『エオナガルド』全体が揺れた。
「な、何が起きて……」
「被害の方は……」
「想定外の事態が発生!総員警戒を……」
封印によって攻撃が行えない状態であるのに、はっきりと感じられるほどの衝撃波が放たれる。
そんな有り得ない状況に対する混乱は直ぐに収まった。
「ほう、流石はヤルダバオトの奴が望んだ娘よな。良い判断をしている」
全員の耳に、いや、魂そのものに響かせるような声が聞こえてきたために。
「さて、矮小なる人間たちよ。不完全ながらも此処まで復活したのでな。まずは名乗ろう」
そこに居たのは身長30メートル前後の女巨人。
肌は死者のように青白く、髪は夜空のように黒く、額からは二本の角が生えている。
身に着けているのは際どい切れ込みが各所に入った貫頭衣であり、同性ですら惹きつけてしまうような蠱惑的な雰囲気を纏っている。
「妾の名は、万産界・皆産みの魔鬼王ラス・イコメク。この世の全ての命を取り込んで、現世を黄泉へと産み直す神である」
ラス・イコメクがそう告げた瞬間、私たち五人がかりで張った封印は内側から多少の残滓を残す形で破壊された。




