267:ラス・イコメク-2-2
「オリクテオム!」
血管のような赤い筋が体中に張り巡らされたラス・イコメクは口から蘇芳色の炎を吐き出すと、ニグロム・ローザによる串刺しから無理やり脱し、炎を吐いたままで四つん這いになって戦いの場を歩き回り始める。
なので私たちはラス・イコメクから逃げ回りつつも、狙われていない人間が遠距離攻撃を仕掛けてダメージを与えていく。
「それにしてもよかったんですか?エオナさん」
「何がかしら?」
さて、先程の攻防はラス・イコメクが新たに得る能力として、一時的な無敵能力を得ると私が予想。
その対策として、『エオナガルド』の中に残されたままだったヤマカガシの土の蛇を探し出して交渉。
イベントの仕様などを利用した無敵を無効化する魔法を土の蛇経由でヤマカガシに使ってもらう事で制した。
なお、その魔法……『グロディウス・ファトム・ワン・イベト=スル・アウサ=スタンダド』は蛇と策謀の神グロディウス様の代行者であるヤマカガシ専用の魔法であり、効果のほどはセキセズ枢機卿との戦い中にヤマカガシが私の動きを止められるようにした事からも確かである。
うん、無敵能力に驕って隙だらけの姿を晒した相手に最高の一撃を与えられる、実にらしい魔法だと思う。
「ラス・イコメクの形態を進めた事です。封印が解けている事もあって、かなり厄介さは上がってますよ」
「そうね。段階が進めば、当然それだけ敵の攻撃は厳しくなるわ」
私ことエオナ=マネージはヘイトを稼がない程度に超遠距離から攻撃を行って、ラス・イコメクのドレインフィールド強化を行えないようにしつつ、ヤマカガシの質問に答える。
クレセートでの処理が終わったとかでルナとタイホーさんも含んだ第二陣がこっちに来ているようであるし、伝えられる情報は伝えておくべきだろう。
「でも、攻撃が激しくなる以上のメリットはあるのよ」
魔鬼王ラス・イコメクには幾つかの段階が存在していて、HPが一定量以下になると次の段階に移行。
姿が変わって特殊攻撃の種類が増えるだけでなく、攻撃の頻度や威力も激しくなる。
だから単純に考えるならば、第一段階で抑え続けるのが正解になる。
「ん?ラス・イコメクのHPが……回復しない?」
「そう、ドレインによる回復には、上限となるラインが存在しているって事よ」
しかし、メリットもある。
その内の一つはラス・イコメクに仕様として存在しているドレインによる回復の限界。
ドレインによるダメージは変わらずだが、この限界ラインを突破していれば、それ以上に回復されることは無い。
現にニグロム・ローザによる串刺しの傷跡はもう残っていないが、それ以上の回復はしていない。
このHPの低下は、こちらの援軍が来た後の討伐が楽になると言う意味で大きな意味があるだろう。
「ですが……」
「大丈夫よ」
ヤマカガシの声音に不安の感情が混じる。
どうやら、ラス・イコメクの攻撃が激しくなることによってこちらが壊滅するのを心配してくれているらしい。
まあ、一度仕切り直しを迫られたのだから、妥当な心配だろう。
だが、安心して欲しい。
私たちとて考えもなしに段階を進めたわけではない。
「ウスクチウス」
炎を吐き終わり、スパルトイの召喚を終えたラス・イコメクが歯ぎしりをした後に意味ある言葉と共に口から赤い糸のようなものを10本以上放つ。
その糸は最前線に立って攻撃を仕掛け続けているエオナ=フィーデイに向かって真っ直ぐに飛んでいく。
ウスクチウス……陰属性の攻撃であり、この攻撃で受けると、受けた際に残っていたHPとバフが全てラス・イコメクに吸収される効果があったはずである。
つまりは実質的な即死攻撃だ。
だが、即死とHP吸収以上に問題なのはバフも吸い取られる事であり、レギオンの量と質でかけられたバフが高いステータスを持つラス・イコメクに吸い取られれば、その後が大惨事になる事は容易に想像がつく事だろう。
だから、当然のように対策済みである。
「来なさい、メンシオス」
エオナ=フィーデイは全身からメンシオスの黒い霧を吹きだすと、そのままの状態でラス・イコメクの攻撃を受ける。
するとメンシオスの黒い霧もバフあるいは私の一部と認識されて、ラス・イコメクへと流れていく。
そして、ラス・イコメクが霧に触れた瞬間だった。
「zsmmfs。lptrjs!?」
ラス・イコメクは叫び声を上げながら仰け反り、吸収を止め、その場でのたうち回り始める。
ダメージは殆どないようだが、激しく不快ではあるようだ。
まあ、当然だろう。
有益な物を体に取り込もうとしたら、きちんと気を張っていないと魂ごと磨り潰される猛毒が流れ込んできたのだから。
「とまあ、今見てもらったように、こっちの段階の方が私たちにとってはやりやすい可能性すらあるのよ」
「なるほど」
これが第二形態に進める事を私たちが選んだ理由。
そう、対処できる攻撃が増える分だけ、今のラス・イコメクの方がやり易いのだ。
残念ながら火力不足でこれ以上削るのは厳しいが、耐久するだけならば、これで何とかなるはずだろう。
「ただまあ、現実化に伴って変化している部分が無ければの話だけどね」
「……」
「オレラワラ」
そう、何事もなければ。
例えば、今私たちの目の前で行われているように、ラス・イコメクが立ち上がって、自分の肋骨を数本まとめて砕き、スパルトイに変えながら降らしたりしていなければ、の話だが。




