265:一時撤退-3
「此処はどうだった?」
「あの時俺は……」
「もごう、もぐも……」
「いや、口の中を片付けてから喋れよ」
さて、一つ目の層に戻ってきたゴトスたちは直ぐに戦闘再開に備えた行動を始める。
内容としては……さっきまでの戦いの反省会、活力を得るための食事、傷の治療、疲労回復の睡眠、物資の補給、まあ色々だ。
なので、戦闘メンバーは勿論のこと、後方支援専門の面々もかなり慌ただしく動いている。
そんな全員に共通しているのは……覚悟を決めた顔。
『エオナガルド』が落ちればどうなるのかを理解しているためだろう、諦めた顔をしている者は居ないが、最後まで抗い続ける覚悟を決めた者の顔は多い。
これならば、再開直後に壊滅するのは避けられそうだ。
「エオナ」
「あら、ゴトス」
と、ここで治療が終わり、装備品を整備班に預けてきたらしいゴトスが私ことエオナ=マネージの下に駆け寄ってくる。
「いいの?作戦会議とかするんじゃないの?」
「それはせめて一時間くらい休んでからだ。全員ギリギリの状態だからな、こんな状態で反省会も済んでない内から次を考えても、碌な考えが出て来やしない」
「まあ、それはそうでしょうね」
ゴトスの言う事は正しい。
実際、今すぐに作戦会議を始めても有益な話し合いになることは無いだろう。
肉体が万全でない時に精神が万全である事などまず有り得ないのだから。
「それよりも聞きたい事が二つほどある」
「何かしら」
私はゴトスに連れられて、周囲に人が居ないエリアに行く。
どうやら、不特定多数の人間に聞かれたい話ではないらしい。
「エオナ、単刀直入に聞くぞ。ルナリド様たち神様たちの直接介入は望めるか?」
「不可能よ。条件が揃ってない」
「そうか……」
一つ目の話は追加戦力と言うには大きすぎる力が今回の戦いに加わってもらえるかと言う話。
これは残念ながら不可能だ。
「今、魔鬼王ラス・イコメクが居る場所は『エオナガルド』ではあるけれど、『フィーデイ』にもかなり近しい場所。けれど『フィーデイ』には影響を及ぼさないと言う場所。だから、介入しなければ『フィーデイ』が滅びてしまうと言う状況でなければ手を出せないルナリド様たちは手を出せないのよ」
「だが俺たちが負ければ、その時点で『フィーデイ』は……」
「正確にはラス・イコメクが『フィーデイ』に現れた時点で致命的なダメージを『フィーデイ』が受けて滅びるわね。でも、滅びが確定するまでは手は出せない。それが神様たちのルール。仮に今、手を出したら、ヤルダバオトとの全面戦争に突入よ。そうなったら一番得するのは……G35でしょうね」
「なんつう厄介な話だ……」
ルナリド様たちにもヤルダバオトにも立場や在り方と言う物がある。
どちらもそれに反する動きは出来ないし、するなら相応の理由が必要になる。
そして、神々が介入していいレベルにまで強大化した上にヤルダバオトから見捨てられたファシナティオは違い、ラス・イコメクはまだ神々の直接介入が許される強さでもなければ、ヤルダバオトから見捨てられたわけでもない。
故に、今回の戦いに神様たちが介入すれば……黒幕であるG35とリベリオン=コンプレークスと言う名前の元凶がその隙を突くように動き、自分の利益を確保するだけだろう。
ゴトスの言う通り、厄介な話である。
「分かった。なら、神様たちの介入は諦める」
「ええ、そうしてちょうだい」
何にせよ、神様たちの助力はいつも通りに魔法と言う形だけである。
「それでもう一つの話は?」
「俺たちのリポップは後どれくらい出来る?」
「そこはリスポーンと言っておきなさいよ」
「いや、リポップだろう。俺たちは分類上モンスターだしな。そして、コストについてはお前が払っていると俺は思ってる」
二つ目の話は戦闘中にやられたメンバーの復活について。
どうやら、ゴトスは気付いているらしい。
「そうね。普段と違ってこの数となると、流石に減りはしてくるわ」
そう、『エオナガルド』では本人が望まない限り、死ぬことは無い。
それは事実だ。
だが、ノーコストで失われた肉体を取り戻し、各種ダメージを無かった事に出来る訳でもない。
復活の為に必要なものは、私が保有しているリソースから取られている。
「でも安心しなさい。貴方たちが思っているほど私の底は浅くない」
「具体的な数を言え、それと普通に生きているプレイヤーを対象に出来るかもだ」
勿論、取られていると言っても微々たる量だ。
普段の私が何の問題もなく『エオナガルド』を維持できている事から、そこは察する事が出来るだろう。
「100回は壊滅しても大丈夫よ。それと、これから来るはずのルナやメイグイたちにも復活は有効よ。そこは感覚的に把握出来ているわ」
「そうか……」
おまけに先程得た血の滾り。
アレに合わせて私の中には人間の体の構造に関する正しい知識がこれまで以上に入って来ていて、復活の効率はこれまで以上に良くなっている。
なので、ほぼ間違いなく、復活させられなくなるほどリソースが枯渇する前に私自身が倒れる事になるし、それだけ死んでいたらゴトスたちだって心が折れるだろう、だから気にしなくても大丈夫だ。
気にしなくていい理由が本末転倒的な感じではあるが。
「だから安心して全力を出すといいわ。それこそ地形を破壊する規模の攻撃含めてね」
「分かった。検討はさせてもらう」
何にしてもゴトスたちの立てた戦術や戦略が私の力不足で行えないと言う心配はしなくてもいいし、そんな配慮を抱えた状態で戦える相手でもないのだから、遠慮なく全力を出してほしい所である。
「それじゃあ俺は作戦会議に戻る。連絡事項もあるだろうから、後で顔を出してくれると助かる」
「分かったわ」
そうしてゴトスは他のメンバーの元に戻っていった。
そして私も三つ目の層に居る私たちと同じように戦いの為の準備を始めた。
彼の協力は必須だろうから。




