261:対処するクレセート-1
「カミア・ルナ巡礼枢機卿。ラス・イコメク討伐隊第一陣、無事に出発しました」
「分かった」
部屋の中に入ってきた男性神官の言葉にルナは一度頷くと、机の上に置かれたクレセート全体の地図に視線を戻す。
地図は複数枚存在していて、住居の一つ一つだけではなく細かい通りまで記載された物もあれば、下水道と上水道更には何処から手に入れたのか分からないが、隠し通路の類まで記載された物まであり、これ一枚あればクレセートの何処に何があるのかだいたい分かるような代物だった。
そして、そんな地図には何かの場所を示すように待ち針が何本も突き刺さっていた。
「新しいLIEC-1の出現を確認。場所は此処」
少女の聞く者をぞっとさせる様な響きを伴う声と共に待ち針が増える。
そこは空き家の地下で、既に何本かの待ち針が刺さっている場所だった。
「分かった。そこなら11番のチームが近くに居るな、連絡を」
「分かりました」
またかとは言わずにルナは指示を出し、指示を受けた誰かが魔法によって現場近くに居る神官へ連絡を飛ばす。
戦闘能力に優れたLIEC-2、LIEC-3と違い、LIEC-1は時間さえかけなければタフなだけのモンスター、対処チームの編成が終わり、配置も済んだ今ならば、ほどなく討伐は完了する事だろう。
だが、指示を出したルナにも、部屋に詰めている面々にも喜びの色は見えない。
「これで通算100体。大台に到達ですね」
「はぁ……潰しても潰してもキリがないな。これは……」
何故ならば、既に地図には無数の待ち針の刺し跡が残っているからである。
「……。101体目の追加が来た」
そして、今も生命力を感知することによって人目に付かない場所に現れたLIEC-1であっても探り出されるスヴェダの活躍によって、待ち針の刺し跡が一本分増えた。
「幸いにして、最初よりは状況は良くなっている。エオナの方にも、メイグイに先導させる形でサロメ、マクラ、イナバノカグヤ、シュピーと言った面々、それに別件の為に呼んでおいたゲッコーレイやビッケンのような実力者を送れた。向こうの状況も多少はよくなるはずだ」
「だが、スヴェダから漏れ聞こえてくるラス・イコメクの強化具合からして、拙僧たちもこちらの都合がつき次第向かうべきだろう。とにかく向こうに火力を次ぎ込まなければ、勝ちが生じない」
もはや慣れた動作で指示を出しつつ、ルナとタイホーはラス・イコメクと戦うエオナたちへの加勢をしたいと口に出す。
当然だ、『エオナガルド』の中に居る間にラス・イコメクの討伐をしなければ、自分たちも巻き込まれる形で『フィーデイ』が滅びるし、最低でもクレセート周辺の地域が死の世界に変わってしまうのだから。
しかし、そうだと分かっていてもルナたちがクレセートから動けないのには理由があった。
「だからと言ってクレセートのLIECを放置するわけにもいかないんですよね。街が壊されるだけならいっそ目を瞑ることも出来ますが、彼らが得たエネルギーはラス・イコメクに流れて、強化に使われてしまう」
「LIEC-1を放置してLIEC-2になってしまえば、人的被害も一気に増していくし、強化のスピードも上がる」
「……。そもそも、LIEC-1が集めたエネルギーがラス・イコメクのためだけに使われるとも限らない」
「だろうな。一体でも討ち漏らしを出せば、今後どこで何が生えてくるか分かったものではない。それこそ拙僧たちの手に負えないレベルのモンスターも含めてだ」
そう、G35の仕掛けたLIECである。
当初LIECはG35がクレセート各地に仕掛けたモンスター召喚のスクロールによって出現している、有限数の改造モンスターだと思われていた。
だから、倒し続ければ何処かで底が見えると判断されていた。
だが、倒しても倒してもきりがなく、おまけに虚空から唐突にスクロールが現れた事から、何処かに大本が存在していて、大本を絶たない限りは無限に沸き続けることが明らかになった。
その為にカミア・ルナ、タイホー、ヤマカガシ、スヴェダ、それとこの場には居ないノワルニャンはクレセートに留まり続ける選択肢を取る他なくなっていた。
「スヴェダ。確認だが、出現したスクロールとその大本を感知する事は出来ないんだな」
「残念だけど無理。スクロールから召喚されて初めて感知出来る」
「既に101……いえ、102体。LIECは無から生み出されていて、スクロールの作成と転移、そのどちらもクレセート内を対象にオートで行われていると見るべきでしょう」
待ち針の数が再び増える。
「で、魔法の性質的に考えて、転移ってそんなにコストが安い魔法じゃないんですよね。だから、マトモな方法で考えるなら、クレセートの何処か、悪くても街外れには大本があるとみるべきなんですけど……」
「戻ってきたのニャ……疲れたけど大本は見つかっていないのニャ……」
部屋の中に疲れ切った様子のノワルニャンが姿を現す。
既にLIECたちが現れてから約半日。
多くのメンバーに疲れが見えている。
だから早くこの状況に終わりを見出したいと誰もが思っていた。
しかし、スヴェダの感知にも引っかからず、ノワルニャンたち探索能力に優れた面々がクレセート中を駆け回ってもなお見つからないと言う厳しい状況だった。
「厳しいですね」
「まったくだ」
「本当ですね」
「にゃーん……」
「……」
部屋の中の空気が重くなる。
「そうだね。かなり厳しい。けれど、このまま手をこまねいているわけにはいかないよ」
そんな中現れたのは、三つ目のヨミノマガタマを身に着けたルナリド教皇だった。




