260:ラス・イコメク-5
長期戦と言うのは、縄跳びに近いものである。
ほんの少し跳ぶ感覚がずれたり、着地場所を間違えたりする程度ならば問題は無い。
とにかく跳び続ける事さえ出来ればいいのだから。
だが、そのほんの少しのずれが積み重なる事によってリソースを浪費し、限界が来るのを早めてしまうのもまた事実。
だから、長期戦と縄跳びは近いものであると私は考える。
だが違いも当然あって、最も大きくて問題になる違いは……縄を回すのは自分ではなく敵という点だろう。
「zfjbxds!」
「ぬぐおっ!?」
戦闘開始からおおよそ一時間。
私たちのリソースは確実に削られ、疲労は蓄積していっている。
「回復を急げ!」
「スパルトイの処理が遅れてきているぞ!!」
削っても削っても回復されるラス・イコメクのHP、倒しても倒しても湧いてくるスパルトイたち。
盾役でも素直に受けてはいけない『オリクテオム』に、ラス・イコメクの腕を直接叩きつける攻撃。
密度の高さからHPで受けるしかない影の刃に、確実にこっちを磨り減らしてくるドレインフィールド。
「抑え込みにかかるわ!」
「頼むエオナ!!」
現在のラス・イコメクのHPは最大値の97%。
これまでに放たれた『オリクテオム』は5回で、『オレラワラ』によって召喚されたスパルトイは計40体ほど。
そして今私は茨の巨体を操って再びラス・イコメクの体を抑え込もうとするが……
「kでfjbf……」
「くっ、この……」
組みつき、抑え込むのは最初の時よりも確実に難しくなっている。
つまり、この一時間でラス・イコメクは成長を遂げていると言う事だ。
全く以って絶望的としか言いようのない状況である。
だがそれでも、私たちに攻撃の手を休めると言う選択肢は存在しない。
だから、私がどうにかラス・イコメクを抑え込んだところでゴトスたちが一斉攻撃を仕掛ける。
「オリクテオム!」
「退避っ!」
ラス・イコメクの口から炎が放たれる。
私は回避に成功。
ゴトスたちも魔法を利用したり、素早く駆けたり、場合によっては跳ぶ事によって避ける。
「くfsgj……」
「あっ……」
「スカーレット!?」
そこを狙われた。
大きく跳んでラス・イコメクの炎を避けた、第一チームの人間に向けてラス・イコメクが全力で手を振り下ろし、叩き潰した。
即死であり、荒野の地面には水が飛び散ったシミしか残っていない。
「エオナ!」
「リスポーンは出来てる!安心しなさい!!」
直ぐに一つ目の層に居るエオナ=マネージから、今やられたスカーレットがリスポーンに成功しているという連絡が入る。
それによって、ゴトスたちの表情にもほんの少しだけ余裕が出る。
だが、リスポーン直後にはデスペナルティとして15分間の大幅なステータス弱体が入ってしまう。
解除手段が無いわけではないが、それはまだこんな序盤で使えるものではない。
「第一チーム後退!第四チーム前進よ!!」
「「「了解!!」」」
エオナ=トレインが二つ目の層に繋がるゲートを解放。
ファロファ率いる第四チームが入ってくると共に、ゴトスたち第一チームが二つ目の層に移動。
戦線の再構築を開始。
第三チームと第四チームが再び召喚された11体のスパルトイの処理を行い、第二チームがラス・イコメクへの攻撃を行う。
「以降一時間ごとに一チームを入れ替えて対処!全員決して気を抜かないように!!」
これでゴトスたち第一チームは暫くの間休む事が出来る。
それは疲弊した精神の休憩だけでなく、HPの回復、装備の修復、アイテムの補給、戦いに必要な全ての補充を進める貴重な時間となるだろう。
「一応確認ですが、こちらの層に私たちが誰も居ない状態は拙いんですよね」
「誰も居ないのは拙いわね。と言うか、全回復している状態のラス・イコメクを放置するのも拙いわ。そうなるとラス・イコメクは吸い上げたエネルギーを100%自己強化に回す事が出来てしまう。そうなったら、倒すことはおろか再封印する事も不可能になると思うわ」
第四チームのリーダーであるファロファが私に近づいてきて、確認を取ってくる。
なので私は素早くそれに答える。
誰も居ないのは、特別面会区を作り上げている術式の仕様上、絶対にNGである。
それとラス・イコメクを『エオナガルド』の特別面会区に封印して放置しておくのも論外の行為だ。
それをしてしまうと、ラス・イコメクは私から吸い上げたエネルギーを全て自分の強化に費やすことが出来てしまう。
現状の生じてからそれほど時間が経っておらず、自然に学習した分と最大HPの大幅強化だけでも厄介なのに、それ以上の強化が施されたら……足止めすら出来なくなるだろう。
それでも後者については手の一つとして考えておく必要はあるが。
「分かりました。気を付けて立ち回ります」
「お願い。足止めが第一だと言うのを忘れないようにね」
なんにせよ、私たちは攻撃を続けなければいけない。
ラス・イコメクが致命的な能力を得てしまうのだけは阻止しなければいけないのだから。
ルナたちが辿り着いて、十分な火力を得られるまで凌ぎ続けなければいけない。
「スヴェダ。そちらの状況は?」
私はスヴェダに問いかけて、後どれくらいでルナたちがこちらに来れるかを問いかける。
返ってきたスヴェダの言葉は……
『……。第一陣の出発自体はもうすぐだと思う。けど……そっちに着くのは早くても夕方になると思う』
特別面会区に差し込む朝日にそぐわない程度には厳しい物であった。




