227:情報交換-3
「鬼門ね……風水や陰陽道の話だったかしら」
「うむそうだ。まあ、鬼門を陰陽の境目であるが故に不安定になる方位、と捉えるのであれば、シリシウムや多神領域の方が鬼門に相応しい気もするが……ユブイ含めてそちらには別のメンバーがそれぞれに向かっているからな。拙僧たちは信じる他ない」
シリシウムは『フィーデイ』南東のエリア、土と守護の神ソイクト様を深く崇める都市であり、七大都市の一つで、全体的に落ち着いた雰囲気の街だ。
ユブイは『フィーデイ』南西のエリア、陽と生命の神サンライ様を深く崇める都市であり、こちらも七大都市の一つであるが、それ以上に最も多くのプレイヤーが集まっている大都市でもある。
多神領域は『フィーデイ』北西のエリアだが……都市間模擬戦争が常時行えるエリアとして設定された紛争地域であり、プレイヤーが興した国も含めて大小10以上の都市が覇権を争っているエリアでもある。
うん、シリシウムは大丈夫だろうけど、ユブイは人の多さから、多神領域はそう言う設定だからでトラブルが起きていそうだ。
「なんにせよ、拙僧は道中人助けをしつつ移動を続け、クレセートに辿り着いた」
「そして教皇様の直属になった?」
「うむ、どうやら教皇様は拙僧の事をご存じだったようでな。それに加えてサクルメンテ様の代行者となった事もあり、クレセート守護の任と引き換えに色々と便宜を図ってもらう事になった」
タイホーさんは大きく頷く。
便宜の内容としては……まあ、食事に道具、交渉など多岐に渡るだろうが、問題のある内容ではないだろう。
教皇様もタイホーさんも必要なら躊躇わないだろうが、自分が楽をするためにズルをするタイプではない。
「カミア・ルナ巡礼枢機卿とエオナほどではないが、色々とあったぞ。ファシナティオとか言うプレイヤーに魅了され続けていた人間の襲撃計画を潰したり、不甲斐ない神殿の神官戦士たちに戦い方の指導をしたり、ダンジョンの外に出てきたボスの始末も何度かやったな」
「イナバノカグヤさんたちと一緒に?」
「必要ならな。ただまあ、基本的には拙僧は単独で行動と調査をし、現地で協力者を募ってと言うパターンだ。拙僧が居なくなった後も自分たちだけで身を守れないと困るからな」
「流石はタイホーさんね」
どうやら『Full Faith ONLine』から『フィーデイ』に変わった程度ではタイホーさんの基本と言うか、性格は維持されたままであったらしい。
タイホーさんは『Full Faith ONLine』の頃から、困った人を見つけては親身になって相談し、解決の為の方法を提示して、自立できるように促していて、私もカニメデの件で出会って他の人と同じように助けられた。
スィルローゼ様と言う心の支えは当時既にあったが、それでもタイホーさんが居なければ私が完全に立ち直るのにはもう少し時間がかかっただろう。
「相変わらずの聖人さで、素晴らしいと思うわ」
「ぶわっはっはっはっ、聖女と言ってもよいエオナにそう言ってもらえるのは嬉しいな。が、拙僧如きではまだまだ聖人には程遠い。ま、そもそもとして酒も肉も躊躇いなく食らう破戒僧では聖人など何時までも無理かもしれんがな」
「くすっ、よく言うわ。貴方が聖人でなければ、誰が聖人なのやら」
「それこそ神のみぞ知る。と言う奴だ。拙僧には見当も付かんなぁ。ぶわっはっはっはっ」
うん、正直に言ってしまえば、この人は本物の聖人なのだ。
まあ、周りがどれだけ褒めても本人は大した事はしていないと言って、今の様に謙遜した上で笑い流してしまうのだが。
「それにだ。周囲にはどれほど聖人と言われようが、サクルメンテ様の代行者になろうが、拙僧は所詮個人だ。出来る事に限りはある。多少は誤魔化せても、手数の不足にはいつも悩まされているよ」
「……。そうね。私も全てを救えるわけではないわ」
タイホーさんは自分が助けられなかった人たちを思い出しているのだろう。
少しだけ目を細めている。
私は救えなかった相手は、救える可能性があったならば反省の材料に、救える可能性が無ければ素直に諦めて次を考える。
タイホーさんも基本は似たような物だとは思うが、性格として思うところは出て来てしまうようだ。
「エオナよ。改めて言わせてもらうが、今の拙僧はクレセート守護の任を教皇様から授かっている。それはつまり、状況次第では貴様と敵対する事も有り得ると言う事だ」
「そう。それで対策の類は?」
「まるで思いつかん。イナバノカグヤなど発狂間近なぐらいだった」
「でしょうねぇ」
教皇様が私対策を考えているのは何もおかしくはない。
と言うより、為政者の立場にあるものが、私に関する情報を得ておきながら何の対策も講じないという方がはるかに問題だろう。
自分で言うのもなんだが、今の私は地震や台風と言った自然災害の類に近いのだから、実際に対策できるかは別として考える事を放棄することは論外である。
「ま、安心しなさい。私は茨と封印の神スィルローゼ様の代行者として、何も知らぬ無辜の民を巻き込むことをよしとしない。そう言う戦い方をするとしたら……もう他に手段が無くなってしまった時よ」
「だろうな。そして、貴様がそう判断する時は、拙僧も同じ判断を下すしかない時だ」
そして、私対策と言うのは……災害並みの脅威を個人で有する存在への対策と言ってもいい。
それは絶対に必要だろう。
メンシオスにファシナティオと、実際にそう言う存在は居るのだから。
「とそうだ。その手の個でありながら大きな脅威となるもの繋がりで拙僧からエオナに一つ話しておくことがあった」
「何かしら?」
と、ここでタイホーさんが何かを思い出したらしい。
ワザとらしく手を打ってから、口を開く。
「『フィーデイ』には未だ現実化していないボスが多数居るぞ」
「は?」
そして告げられたタイホーさんの言葉に私は思わず間抜けな声を出してしまっていた。
10/30誤字訂正




