226:情報交換-2
「ローレム山地……いつも通りの支援役と言う事かしら」
「うむ、そう言う事だ」
ローレム山地と言うのは『フィーデイ』の中心に聳える無数の山々があるエリアの事であり、出現するモンスターの戦闘能力はポエナ山地とペリビット海と言う『フィーデイ』の外に繋がっていくエリアと比べても遜色がないものである。
「より正確に言えば、ローレム山地の中心地点、シングラリ立坑の深部で拙僧は『悪神の宣戦』に遭遇した」
「……。そこで何かを見つけたりしたのかしら?」
そしてシングラリ立坑と言えば、ローレム山地最難関のダンジョン。
ローレム山地の中でも特に敵が強い場所であるが……それ以上に特徴的な事として、シングラリ立坑は『フィーデイ』と言う世界のちょうど中心に存在している事が挙げられる。
加えて、大型アップデートの度に少しずつ地下に向けて拡張されている事も合わさって、一部のプレイヤーは冗談交じりにこう言っていた。
『悪神ヤルダバオトが実装されたら、必ずこの場所が関わることになる』
と。
だから、私も思わず何かを見つけたのかと尋ねたのだが……。
「ぶわっはっはっは。そんな訳なかろう。いや、もしそうなら、拙僧は一躍物語の主役か名持ちの悪役と言うところで、拙僧としてもそう言うものに憧れが無いわけではない。ないが、普通にモンスターとの戦闘していたら、唐突にアラーム音と共にメッセージが表示されて飛ばされただけだ」
「そう、何も無いのね」
「ああ、特別な力を持っている者が行くならば話は別かもしれんが、拙僧程度の力ではあそこには何も感じられなかった。サクルメンテ様の代行者になってから改めて尋ねたが、その時も変わりはなかった」
「ふうん、そう」
どうやらシングラリ立坑の最深部には目を引くような物は何も無いらしい。
タイホーさんはローズヒップティーで割った酒を呑み、大声で笑いながら何も無かったと断言した。
「しかし、シングラリ立坑が特殊な場所なのは否定せん。あそこは『悪神の宣戦』以降も神の加護が色濃く残っているようでな、今はもう駄目だが、『悪神の宣戦』直後は死に戻り機能が生きていた。」
「死に戻り機能が?」
「うむ。『悪神の宣戦』直後に、それまで戦っていたモンスターに拙僧は一度殺されてな。その時に■と■■の神■■=■■■様が現れてな。その辺の説明をしてくださったのだ」
「ん?」
タイホーさんの言葉にノイズが混じり、聞き取れなくなる。
神様の内のどなたかの名前を挙げられたようだが……認識できていない。
「どうした?エオナ」
「いえ、タイホーさんが言った神様の名前を聞き取れなかったのよ。何故かは分からないけど、ノイズみたいなものが混じって聞こえたわ」
「それはまた奇妙な……いや、■■=■■■様ならば、認識できる相手を制限させるくらいは出来るか」
やはり名前にノイズがかかる。
「サクルメンテ様ではないのよね」
「違うな。拙僧が信仰しているサクルメンテ様、サンライ様、ラブチャリ様のいずれでもない。まあ、エオナは知るべきではないと、あの方自身が判断されているのだろう」
「それなら仕方が無いと言えば仕方が無いわね……」
どうやらタイホーさんに説明をした神様は、私に自分の事を認識させたくないらしい。
何故認識させたくないのかは分からないが……まあ、それならば諦める他ないだろう。
「ちなみに容姿は……」
ついでにタイホーさんがその神様の容姿や権能を説明しようとしてくれたが、見事にノイズがかかって聞き取れなかった。
どうやら、一切の情報を私に与えたくないらしい。
「ふうむ。やはり神様と言うのは凄いものだな……まあ、あの方たちは七大神やサクルメンテ様とはまた別格の方なのだろうが」
「あの方たち?別格?」
「ん?ああ、シングラリ立坑で死に戻りした際に会った神様は個々人の素養次第のようなのだが、『悪神の宣戦』直後は神様たちの側の準備が整っていなかったのもあるのだろう。拙僧はあの方だったが、他の者も自分が信仰している神ではなく、あの方か、乱と混沌の神イヴ=リブラ様か、トップハント社のロゴに描かれている水色の海月を模した神、プログラーム=コンプレークス様のいずれかだったらしい」
「それで別格、と」
「うむ、場所が場所と言う事もあったのだろうが、桁違いの速さで干渉を始めたようであるしな」
「なるほど」
タイホーさんが会われたどなたかは何も分からないので気にしないでおく。
イヴ=リブラ様は……スキルブックが途方もなく難解で、エオナ=ライブラリでも碌に読めていない神様だったか。
プログラーム=コンプレークス様は以前スィルローゼ様が仰っていた『Full Faith ONLine』のプログラム担当の方だろう。
それならば『Full Faith ONLine』の販売会社だったトップハント社のロゴに使われている海月の姿を使っていてもおかしくはない。
一度はお会いしたいし、敬意の念を抱いて止まないのだが……何故か、向こうは私に会いたくないらしい。
うーん、一体どこで会いたくないと思われてしまったのだろうか……まさかとは思うが、私の中にある神の血に関わりがある……と言うのは流石に考え過ぎか。
「ま、何にせよ、ローレム山地に居るプレイヤーについては問題ない。あそこに居るモンスターは元よりヤルダバオトではなくルナリド様たち寄りのモンスター。妙な思想と思考を有しているギルドやプレイヤーも居なかったし、地元の住民共々元気にやっている事は確かだ」
「そう、なら良かったわ」
話を戻そう。
ローレム山地については問題が無いらしい。
「で、拙僧はローレム山地でサクルメンテ様の代行者となってな。その後は……何かが起きるならば、『フィーデイ』全体の鬼門に当たるクレセート周辺でまずは起きる。そう踏んだからこそ、拙僧はクレセートにやってきたのだ」
だから、タイホーさんの話はローレム山地からクレセートへと移った。




