225:情報交換-1
「「「却下」」」
朝食後。
事件の捜査のためにルナリド神殿に集まってきたルナたちとイナバノカグヤさんたちに向けて、私は今日一日自由行動をさせてほしいと言った。
が、その直後に全員から真顔で拒否されてしまった。
「そんなに否定しなくてもいいじゃない。部屋でじっとしていても、何も進展しないわよ」
「否定するに決まっているだろう。私が愚かにも自由行動を許した昨日、何が起きた……」
「そうでなくともアンタは被害者筆頭として、犯人に狙われているのが確定の身でしょうが」
「エオナ様、ルナリド神殿から出されているエオナ様のかん……警護の方が困るので、じっとしていてください」
私はそれに納得せず、ルナたちの説得を試みるが……これは駄目か。
ゴトスを目立たないようにする意味でも、私がクレセートに居ることをきっちりと周囲に示しておきたかったのだが。
「やる事がない、か。ならばエオナよ。折角だから、拙僧と情報交換でもしないか?『悪神の宣戦』以降にお互いに何をしていたのか、お前の口から聞きたい」
「む……まあ、いいけど」
タイホーさんが一歩前に出て、私を情報交換に誘ってくる。
まあ、確かにタイホーさんがこれまでに何をしていたのかは気になるし、タイホーさんが相手ならば妙な事にもならないだろう。
悪い話ではない。
だから私は受けるのだが……メイグイやヤマカガシが微妙そうな表情を浮かべている。
「昨日から疑問に思っていたんですけど、エオナ様とタイホー様ってどういう関係なんですか?なんだかギルマスやノワルニャンさんよりもよほど親しいように見えるんですけど……」
「そうですね。以前からの知り合いだったにしては、お二人とも妙に距離が近いように思えます」
「ああ、その事」
どうやら、私とタイホーさんの関係がどういう物か分からなくて、疑問に感じていたらしい。
「簡単に言ってしまえば、タイホーさんは私の師匠兼カウンセラーなのよ」
「うむ、この中ではノワルニャンと同じぐらいの長さか?」
「そうなるのニャ」
「師匠……?」
「カウンセラー……?」
「ま、私の個人情報が多々含まれているから、詳細は黙秘させてもらうわ」
私とタイホーさんの関係は割と深い。
私の支援役としての立ち回り、その基礎はタイホーさんに習ったものだ。
そしてリアルでの……と言うよりは現実の人間関係回りで相談をして、ほんの少しばかり手助けをしてもらったこともある。
詳細をメイグイたちに話したりはしないが。
「とりあえず覚えておいてほしいのは、タイホーさんは私が尊敬する数少ない人間の一人であり、タイホーさんが私と一緒に居るなら、勝手な振る舞いをする事は早々ないって事よ」
「そうだな。敵から仕掛けてきたのであればともかく、フラフラと何処かへ行かせることは無い」
「まあ、タイホーさんが居れば、確かに大丈夫だろう。私も保証する」
いずれにしてもタイホーさんが私に付きっ切りであるつもりなら、自分で言うのもなんだが、私も妙な事はしないし、出来ない。
流石にタイホーさんに本気で怒られたくはない。
「まあ、そう言う事なら……」
「じゃあ、お任せだねー」
「じゃ、私たちはとっとと行きましょうか」
「うむ、そうしてくれ。自覚して抑えている分だけ普段よりはマシだが、拙僧でも完璧は無いからな」
「ん?」
そうして、タイホーさんと私を残して、ルナたちは今日の活動を始めた。
聞き捨ててはいけない言葉も微妙にあった気もするが……まあいいか。
「ではエオナよ。拙僧たちも安全だが、目立つところに移動するとしよう」
「分かったわ」
で、私はタイホーさんに連れられて、クレセートの大通りが見えるルナリド神殿のバルコニーの一つに移動した。
「ふむ、よいお茶だ。肌のツヤが良くなるのを感じるな」
「ふふっ、スィルローゼ様のご加護たっぷりな自家製ローズヒップティーよ」
ルナリド神殿が私たちに付けている護衛の神官は部屋の外で待っていて、世話役は無し、来客の予定もないので、無関係の人間は誰も周りには居ないし、近づけば直ぐに分かる。
勿論、私たちの居るバルコニーはルナリド神殿の外から狙撃する事は出来るが、私もタイホーさんも防御の備えは万全となっているので、隠密性と正確性の両方を高めた攻撃では不意打ちであっても致命的な攻撃にはならないだろう。
そもそも今の私を殺すことはかなり難しいし、タイホーさんも似たような物ではないかと思うが。
「自家製か」
「自家製よ」
「自家製と言うよりはエオナの体から採れたと言った方が拙僧としては正しいのではないかと思うのだがな」
「自家製には変わりないわ。あ、昨日と同じ茶菓子とツマミならあるわよ」
「ツマミを出すなら酒も欲しいなぁ……あのジャーキーなどは酒によく合いそうだった」
「はいはいっと」
私とタイホーさんがどのような会話をしているのかは、魔法の類を使わなければ聞き取れないだろう。
しかし、魔法を使えば、確実に私とタイホーさんの警戒網にかかる事になる。
だから現状では、部屋の前に立っている護衛の神官たちに、何処かの枢機卿が放ったと思しき密偵が数人、こちらに聞き耳を立てているくらいで、妙な動きをしている者は居ない。
「じゃ、そろそろ聞くけれど、単刀直入に質問。『悪神の宣戦』直後、タイホーさんは何処に居たの?」
「ふむ、まずはそこからだな。拙僧は……」
つまり、基本的には何を話していても問題は無いと言う事だ。
「ローレム山地に居た」
そうして情報交換は始まった。




