223:密会-3
「帰った?」
「帰ったわ」
さて、教皇様とヤマカガシはルナリド様の魔法によって私の部屋から去っていった。
置き土産の類は感知できないし、例えあったところでこの先の会話を聞く事は出来ないので問題は無い。
「じゃあ話し合いましょうか」
何故ならば此処は『エオナガルド』であり、『フィーデイ』とは異なる世界。
そして、『エオナガルド』の中でも特に厳重な警備が敷かれている円卓の間なのだから。
「まず大前提として、教皇様とヤマカガシは嘘は吐いていないわ」
「でもそれは全ての真実を明らかにしているという意味ではないわね」
と言う訳で、私たちの中でも特にはっきりと分かれつつある9人で、先程の教皇様たちから得た情報を基にした会議である。
「ええ、その通り。意図して隠している情報と言うのは当然あると思うわ」
教皇様とヤマカガシは私を利用しようとしている。
それは間違いない。
だから、話していた言葉は真実であるが、より正確には真実をある一面から捉えた上で独自の解釈を挟んだ後に言葉として出したものである。
だから私に知られたくない情報は隠しているし……場合によっては教皇様とヤマカガシが得ている情報自体が、黒幕がワザと流した偽情報あるいは知られていた方が都合のいい情報である可能性すらある。
まったく、権謀術数の世界は魑魅魍魎の巣窟であるとしか言いようがない。
「それでもセキセズ枢機卿を調べる必要があるのは確かよ。他に手がかりもないし、イナバノカグヤさんに圧力をかける事で兎と細工の神ラビトリワク様の力を自分にだけ都合のいいように使っている可能性はかなり高いから」
「捕捉情報よ。『エオナガルド魔法図書館』でラビトリワク様について少し調べたけど、世話になった人間を見捨てられるような教義ではないわ。むしろ、その手の不義理を嫌っている様子すら見られるわね」
「なるほど。ならば、ラビトリワク様の代行者であるイナバノカグヤさんが従う他ない状況にする事は可能そうですね」
それでも私たちがやること自体に変わりはないと言うか、他に動きようがないのも事実である。
それと、今後どう転ぶにしてもイナバノカグヤさんが自由に動き回れる様になっていた方が良いのも確かだ。
「そうなると問題はどうやって調べるかね」
「表立って動く事は出来ないわね。下手をすれば、私たちの行動が原因で被害が生じかねない」
「となると……やはり、あの方法か」
「そうなるでしょう」
調査方法については……まあ、やはりあの方法しかないだろう。
後でゴトスに話を付けておくとしよう。
「で、ヤマカガシの言っていた蛇と策謀の神グロディウス様の代行者として恥ずかしくない振る舞いってのは何なの?」
私たちの視線がエオナ=ライブラリに殺到する。
「グロディウス様のスキルブックは『エオナガルド魔法図書館』にも少ないわね。だから詳細は分からない」
「ふうん」
「けれど、調べてみた限りでは利用できるものは利用するし、敵ならば幾らでも騙すし裏切る、目標の達成を第一としている印象は受けたわね」
「ああなるほど」
エオナ=ライブラリの言葉に私の中で幾つか合点がいく。
それならばヤマカガシの立ち振る舞いにも納得がいくと言うものだ。
「つまり、何かを仕掛けてくるって事ね」
「真っ当にいけば、今回の目標はルナリド神殿を脅かしている敵の排除。でも、敵の正体は未だに不明。それなら私を嵌めて、敵の姿を露わにするくらいの事は有り得そうね」
「で、あわよくば自分は矢面に立たずに排除を完了させる、と」
「ま、実力的に仕方がない面はあるわね」
ヤマカガシのレベルは50。
直接戦闘能力は本人はお察しと言っていたが、決して低くはないだろう。
だがそれでも私とヤマカガシ、どちらが矢面に立って直接敵と殴り合う展開にするべきかと言われれば……まあ、私だろう。
事前に一回騙しますと言われているようなものであるし、致命的な物でなければ流れに乗った方がいいだろう。
「と、私からも情報よ」
ここでエオナ=ジェイルから例の自爆テロ犯四人についての情報が出てくる。
どうやら、四人とも幾らか落ち着いた上に、会話を重ねることによって自分たちの思考のおかしさに気付いて、何があったのかを話し始めてくれているらしい。
で、彼らの証言で何が重要かと言われればだ。
「緑色の髪に緑色の目の女?」
「それってまさか……」
「十中八九G35でしょうね」
自爆テロ犯四人の内の一人が、自爆テロを決行する切っ掛けになった誤ったルナリド様の教え。
それを授けた流れの神官の容姿がG35そっくりのものであった事。
これがまず一つ。
「推定G35の手口としては、ほぼ教皇様の推測通りね。ただ……どうにもG35は『フィーデイ』が元々はゲームの世界である事や、ルナリド様たちでなく悪と叛乱の神ヤルダバオトを生み出した何者かがこの世界を生み出した事と言った、厄介な真実を利用して相手の心に隙間を生み出した上で、その隙間に付け込んで操っているようね」
「妙ね。あの子も私と同じで人の心の機微には疎い方だと思っていたけど」
「例の神の血の影響かもしれませんね。私たちと同じように人に関わる何かに聡くなったのかもしれません」
もう一つは迂闊に教えればどう転ぶか分かったものでない情報……元NPCたちには可能な限り伝えるべきでない真実を利用している事。
これも重要な事だ。
「いずれにせよ、なるべく早い内に敵を捕捉した方が良さそうね。このままだと、手の打ちようが無いわ」
私たちが一斉に頷く。
「では、まずはゴトスを外に出す準備を始めましょうか」
そして私たちは動き出す。
敵を特定しなければ、戦う事も出来ないのだから。




