222:密会-2
「前提として、代行者と一口に言っても、その実力や能力の方向性は様々です。エオナさんや『ジェノレッジ』の代行者の方のように極めて戦闘能力が高い方も居れば、僕の様に直接戦闘能力はお察しと言ってもいい程度の代行者も居ます」
「お察しねぇ……」
まあ、ヤマカガシのレベルは50。
となれば、私などに比べれば実力が劣るのは事実だろう。
けれどお察しねぇ……まあ、深くは問わないでおこう。
「そして代行者の中には能力特性上、一般人社会と深く関わる必要がある方も居ますし、そもそもとしてこれまでの付き合いから切っても切れない縁を築いている人も居ます」
「『悪神の宣誓』直後の混乱期でお世話になったとか、そう言う話かしら」
「そう言う話もありますね」
普通の人との縁が切れない代行者か……まあ、これも居て当然だろう。
私などは既に適度な量の光と水さえあれば生命活動に支障を来たさない存在となっているし、タイホーさんなども円と維持の神サクルメンテ様の代行者なのだから生命維持くらいは出来るかもしれないが、このレベルが代行者ならば一般的と言うのは無理がある。
つまり、代行者としての役割云々以前に、必要な衣食住を満たすことを考えるのであれば、大多数の代行者は社会との関わりを絶つ事は出来ないと言う事だ。
「具体的には?」
「転移直後の戦闘でPTが壊滅して、状況に絶望した友人たちが自殺して、そんな中でも自分の事を励まし、立ち直るまで支えてくれた普通の人たちを見捨てられる人が多数派だと思いますか?」
「思わないわね」
ましてや、それが今の自分を形成するにあたって欠かせない人物となれば……まあ、見捨てるのは無理だろう。
と言うか、そこで見捨てられず救おうとするからこそ代行者に選ばれたのかもしれない。
イナバノカグヤさんは。
「話を進めましょう。エオナさんも知っての通り、クレセートに居る代行者は身元や安全の保障の都合もあって、権力者の誰かを後ろ盾にするようにしています。エオナさんの場合は……一応、カミア・ルナ巡礼枢機卿がそう言う立場だと思われてますね」
「現実はだいぶ異なるけどね」
ヤマカガシは私の言葉を聞き流すと、幾つかの名前を挙げる。
で、その通りならば……
私はルナことカミア・ルナ巡礼枢機卿。
タイホーさんは教皇様。
マクラはメスイメタ枢機卿。
ヤマカガシはロムスタ枢機卿。
イナバノカグヤさんはセキセズ枢機卿。
と言う繋がりになっているらしい。
尤も、マクラとメスイメタ枢機卿は基本的にお互いに不干渉を貫く方針。
ヤマカガシは微妙に黒い笑みで問題ないと言っていた。
で、タイホーさんと教皇様の間に問題があるとは思えないので、やはりイナバノカグヤさんとセキセズ枢機卿とやらの間に何かがあるとみるべきだろう。
「イナバノカグヤさんが立ち直った村は兎と細工の神ラビトリワク様の本神殿もある村であり、セキセズ枢機卿が管理している村でもあるようです」
「へぇ……」
一気にきな臭さが増した。
「具体的に従わなければどうこうするとは言っていません」
「でしょうね。言ってくれれば私もマクラも実力行使で黙らせる事が出来るわ。イナバノカグヤさん自身もね」
「ですが、相手は直接的には何も言わず。しかし、態度やちょっとした仕草から、そう匂わせる手法を取っています。だから、僕も教皇様も、それどころかルナリド様自身も動けないわけです。そして、そんな状態でイナバノカグヤさんは高価な細工物を不自然なほどに安い値で卸したり、何かしらの細工が必要な箇所で力を貸さざるを得ないようになっているようです」
「つまり、上手くやっているわけね」
なるほど、セキセズ枢機卿は上手く立ち回っているらしい。
疑いの目を向けられたところで、証拠さえ掴ませなければいい。
完全にNGとなるような行動は取らずに、解釈次第で言い逃れが出来るように動いているわけだ。
「僕からの追加情報としては、セキセズ枢機卿の周囲では、純粋なルナリド神官でないものを遠ざける方針が強くなっている。そう言う意味でも怪しい人物ではあるね」
「なるほど」
そして、教義を歪ませる例の攻撃も受けている、と。
となると、ルナリド様をメイン信仰としていないイナバノカグヤさんならば使い倒せるだけ使い倒せばいいとか思っているのかもしれない。
「つまり、今回の件の黒幕とは僅かながらに繋がりがある可能性がある上に、消えてもメリットの方が多い人物と言う事ですか」
「さて何のことでしょうか?」
「何の事かな?エオナ」
うん、セキセズ枢機卿がどういう立ち回りをしているのかがよく分かる二人の態度である。
「まあ、他に調べる先もない。となれば、私の方でも問題を起こさずに探れる範囲で探るのが正道ではありますね」
私が今考えている方法が上手くいく確証はない。
だが、最初に調べて、動いてもらう先としては妥当だろう。
それに……式典直後にあった自爆テロ未遂の実行犯たち、少しずつ正気を取り戻しつつある彼らの口からもセキセズ枢機卿の名前は上がっている。
調べる価値はあるだろう。
「で、どうして私にこの話を?マクラやタイホーさんには通達済みでしょうけど、ルナやシュピーはまだ知らないと思いますが?」
「そこは実力や注目度の問題だね」
「それにエオナさんなら、僕らのような利用しようとした者はともかく、犠牲になろうとしている普通の人を見捨てたりはしないと思っていますから」
「なるほどね」
そして、私の思考パターンもよく分かっている、と。
まあ、スィルローゼ様の代行者として無辜の民を見捨てる訳に行かないのは事実だし、私自身見捨てたいとも思わない。
だから、こういう目的でなら二人に利用されるのは受け入れる。
「では最後に一つ。エオナさん」
「何かしら」
「例え何があろうとも、僕は蛇と策謀の神グロディウス様の代行者として恥ずかしくない立ち振る舞いをしています。この事はどうか心に留めておいてください」
「そう、分かったわ」
私はヤマカガシの真剣な眼差しを伴う言葉にこの先何があるのかを想像する。
まあ、何があるか分かっていれば……対処は出来るだろう、たぶん。
「それじゃあ『フィーデイ』に戻りましょうか」
そうして私は教皇様とヤマカガシを『フィーデイ』に戻した。




