221:密会-1
無事に会食は終わった。
そしてノワルニャンたちと合流したルナたちはクレセート内に存在している『満月の巡礼者』の拠点に移動。
そこで夜を越す事となった。
私が見た限りでは『満月の巡礼者』クレセート支部とでも言うべき建物は随分としっかりとしていたし、人員も十分な面々が揃っていた。
あれならば、大丈夫だろう。
「では、明日の朝、食事が出来次第お呼びします」
「ええ、よろしくお願いします」
で、私はルナたちを送り届けた後にルナリド神殿に戻り、私の部屋として用意された一室へと移動した。
「さて……」
私は眠る必要がない。
だから、明日の朝まで適当な方法で時間つぶしをする必要がある。
普段ならば『エオナガルド』に意識を移して、そちらで行動するところだが……今日は窓からは立派な月が見えていて、部屋の中を仄かに照らしているし、月の光によって生じた影から人影が生じ始めている。
なので、時間つぶしについて深く考える必要はなさそうだ。
「用は何でしょうか?教皇様、ヤマカガシ」
「君は本当に驚かないね……」
「現れる位置と正体が分かっていて驚けという方が無理でしょう」
「流石はエオナさんですね」
人影の正体は土の蛇を左腕に巻き付けた教皇様。
どうやらルナリド様の魔法によって、影から影へと移動する魔法のようだ。
そして教皇様の腕にあるのは蛇と策謀の神グロディウス様の魔法によって作られたと思しき土製の蛇型ゴーレムであり、ヤマカガシの声はゴーレムの口から聞こえている。
「それで用件は?表向きの用件もなしに、夜間、女性の部屋に、密かに、男性が、訪れると言うのは、そう言う疑いを持ってくださいと言っているようなものですから、早めに明言してください」
「簡単に言えばこちら側からの情報開示だ。会食の場では話すわけにはいかない内容も多かったからね」
「なるほど。なら、この場を一時的に切り離した方が良さそうですね」
私は手首から茨を伸ばすと、それで教皇様とヤマカガシに触れる。
そして、二人の姿が『フィーデイ』に居る私の目の前から消え、『エオナガルド』に居る私……エオナ=マネージの前に現れる。
「此処が君の中の世界、『エオナガルド』と言う訳か」
「その通りです。ああ、部屋の外には出ないでください。一時的にお招きしただけの貴方たちに多くを見せることは私は望みませんから」
「分かった。僕たちとしても聞き耳を立てられることなく話が出来るならそれで構わない」
「スーツ姿のエオナさん……」
何故か微妙に呆けているヤマカガシは放っておく。
私は『エオナガルド』産の果物を絞って作った眠気覚ましも兼ねたジュースを教皇様に出すと、それを飲みながら話を始めることにする。
「単刀直入に言ってしまえば、ルナリド様の教えに対する攻撃に対抗することは難しい」
「ルナから教義に対する攻撃が行われている事は聞いていましたか」
「勿論聞いていた。そして、カミア・ルナ巡礼枢機卿に話を聞く少し前から、僕自身もクレセートに違和感を感じて調査はしていた。だが、成果は芳しくなく、説法によって歪みを正すのも上手くいっていない。だから、対抗することは難しいという他ない」
「なるほど。教皇様の言葉でも届かない、ですか」
どうやら教皇様は元から一部のルナリド神官が別の神に仕える人へ、信仰だけを理由に悪感情を向ける件について知っていて、手は打っていたらしい。
だが、それが上手くいっていないと言う事は……。
「軽微の洗脳、と言うところですか」
「そう言う事だろうね。無意識レベルで認識を歪めてきているんだろう。具体的な内容としては……選民思想、いや、微かな優越感を与えるような形なのかもしれないね。一般的な人と言うのは、特別と言うものに弱いものだ」
敵が何かしらの手を打ってきている、と言う事だろう。
「根っこを叩かないと厳しいと言う事ですか」
「そう言う事だね。カミア・ルナ巡礼枢機卿と協力して、どうにか元凶を見つけ出してほしい」
「分かりました」
私の言葉に教皇様は何故か微妙そうな顔をする。
どうかしたのだろうか?
「エオナ、君は僕を疑わないのかい?君はルナリド神官でもあり、ルナリド神官ならば僕に対して疑いの一つや二つくらいは抱くのが当然だと思うのだけど」
「ああ、その事ですか」
どうやら教皇様は話がトントン拍子に進むことに違和感を覚えているらしい。
だが私にしてみればだ。
「ご心配なく。偽情報の可能性は当然考慮していますから」
「そうは見えない態度だけど?」
「それも当然の事でしょう。教皇様の言葉が事実であろうと、嘘であろうと、私のするべき事に変わりはない。スィルローゼ様の為に、放置しておけば大過となる事が見えている問題を解決する。ただそれだけですから」
「なるほどね」
「それに教皇様。貴方は生粋にして敬虔なルナリド教徒です。であるなら、どんな言動が自分とルナリド教徒にとって失われない利になるのかを理解している。だから私にわざわざ偽情報を流すようなこともしない。そう言う話です」
「……。そうかい。君は本当に代行者なんだね。エオナ」
一通りきちんと疑い、論理的におかしくない事を確かめた上での発言である。
だから、教皇様には信じてもらえていないかもしれないが、何も問題は無いのだ。
「それでヤマカガシ。貴方がここに居る理由は?護衛ではないんでしょ」
「勿論僕は護衛ではありません。僕がここに居るのは、エオナさんに僕から話があるからです」
「内容は?」
「端的にまとめれば、イナバノカグヤさんが枢機卿の一人から脅しを受けています」
そう言うヤマカガシのゴーレムは私に向けて真剣な眼差しを向けていた。




