220:会食-2
「単刀直入に言ってしまえば、私には神の血が混ざっているらしいのです。8分の1程だそうですが」
渋めのブドウジュースで唇を湿らせた私は先程までの話の続きを始める。
「神の血とは……また大それた妄言ね」
「神の血……」
「神……か。まあ、理論的にあり得ない話ではないか」
「へぇ、つまりアンタは元々そっち側とも言えるのね」
「情報源はどこかな?君の様子だと、君自身も半信半疑の様に思える」
私に神の血が混ざっているという話を聞いた他の面々の反応は様々だ。
イナバノカグヤさんはあからさまに疑っているし、ヤマカガシやルナは何かを考えこむ様子を見せ、シュピーは呆れつつも納得し、教皇様は話の続きを促している。
「情報源はルナリド様とサンライ様ですね。お二人の立ち話と言う形で、わざと聞かせたようです」
前菜のサラダは……中々のものだ。
新鮮な野菜に程よいドレッシングがかかっていて、この後の食事に備えさせてくれている。
「ふむ、その御二方ならばエオナに聞かせないようにするぐらいは容易いはず。となれば、やはりわざと聞かせたとみる方が適切であろうな」
「そうだねー、七大神の中でも別格のお二人だしー」
「なるほど。それならば無根拠に疑う方がむしろ難しいね」
ルナリド様とサンライ様の名前が出ただけで、イナバノカグヤさん以外の面々は納得顔になる。
まあ、あのお二人からの情報なら、無根拠に信頼してもいいくらいだろう。
わざわざ私を騙す意味があるとも思えないし。
「ただ、8分の1と言う濃さもそうですが、特殊な神であったことも確かなようです」
私は南瓜と人参のスープを口に運びつつ、ルナリド様とサンライ様から伝えられた情報を話す。
つまり、その神が人間に混ざって生活し、子を為し、死んだこと。
『悪神の宣戦』が起きなければ、神の血の発露は無かったこと。
お二人すらも把握しておらず、恐らくは『フィーデイ』の運営には関わっていないこと、だ。
「なんと言うか……本当に神だったのか?」
「神ではあったのでしょう。ただ、今の私が人の体や精神の構造に詳しくなっている程度の力しか持っていない辺り、ルナリド様たちに比べると木っ端のような神だったのも確かでしょう」
「名前とかは分からないの?アンタのご先祖様なんだし」
「分からないですね。曽祖父、曾祖母の誰かですが、私は一人の名前も把握していませんし。後、どうせ偽名だと思いますよ」
まあ、微妙な神だったのは確かだろう。
と言うのもだ。
「と言うか、『悪神の宣戦』を機に発露したって事は、それまでのアンタの行動に神の血の影響は出てないって事よね」
「そうなるわね。ついでに言えば、G35も神の血を引いているらしいけど、その辺りでの警告もなかった辺り、本当に大した力はないんだと思うわ」
「そうだな。神の血が原因で問題になるレベルの力を持っていれば、警告の一つくらいは発してもおかしくは無いし、もっと直接的な干渉になるか」
「フルムス攻略のファシナティオ封印の時の様に、と言う事だね。なるほど、筋道は通っているね」
私は魚のソテーをナイフで切り分け、フォークで口に運びつつ、シュピーの言葉に同意の頷きを返す。
事実として、私の行動パターンは『悪神の宣戦』前後でそれほど大きく変化したわけではない。
『Full Faith ONLine』の頃よりは多少生存を優先した立ち回りをするようになると共に、現実になって外れた制限を利用するようになったくらいのものだろう。
「しかし、エオナさん推定木っ端な神様の8分の1でも影響が出るなんて、神様の力はやっぱり絶大なんですね」
「それはそうだろう。拙僧は様々な神を知っているが、どれほど人に近く、人のように生きている神であっても、有している力は絶大だ。神話の中には神に対して勝利を収めるものもあるが、真正面から打ち勝つ神話は殆どなく、あっても打ち勝った者が元々特別である場合が大半。だからこその神なのだ」
と、ここでヤマカガシとタイホーさんが話題を少しずらす。
「そして、拙僧たちは代行者。その神の力を極一部ではあるが扱う事を許された者だ。当然、それだけ責任は重くなる。身勝手は……慎むべきだろう。仕える神の名を汚すような振る舞いは以ての外だ」
「そうね。それには同意するわ」
「いや、エオナがその辺一番怪しいからな……」
「そうかしら?」
「そうだとも」
私としてはスィルローゼ様の名を汚すような振る舞いを一般に見せた覚えは無いのだが……まあ、ルナにこう言われ、タイホーさんからも微妙に鋭い視線が飛んできている辺り、気を付けろと言う事なのかもしれない。
あ、このお肉美味しい、今度シンゴゼンに作ってもらってもいいかもしれない。
「私はミラビリス様の代行者じゃないわよ?」
「そこは単純にレベルの問題じゃないかなー。ツェーンの神託魔法の習得を考えたら、70はないと厳しいだろうしー」
「70……遠いわね……」
「仕える神様との間に縁があればツェーンでなくともお会いできて、代行者になれる場合もありますけどね。僕なんかがそうですし」
続けて、この場で唯一代行者あるいはそれに準ずる存在でないシュピーが声を上げる。
それに対してヤマカガシが気になる言葉を告げる。
「あら、ヤマカガシはそうなの?」
「ええ、僕の場合は元々の家がそう言う家だったためなのか、グロディウス様と縁があったようで。おかげで他に良い人が居なかったこともありますが、レベル50なのに代行者になってしまいました」
「興味深い話だな」
なるほど、縁さえあれば、必ずしもツェーンの神託魔法は必要ないのか。
だが、ある意味では当然の話なのかもしれない。
プレイヤーのレベルの高さと代行者としての素養は全くの別物。
となれば、縁の有無を重要視するのは至極真っ当な話と言えるだろう。
事実として私はレベル90未満だが、レベル90のスィルローゼ神官だって『悪神の宣戦』以前から居たはずなのだし。
「なるほどね。神々の世界の事情も人間の世界の事情と同じようで中々に複雑なようだ」
「そうですね。全てをお教えしていただけるわけではありませんし、お聞きになる訳にもいきません。それに如何なる事情が秘められていても、代行者のやる事にそれほどの変化がある訳でもないのですよ」
「と言うと?」
「代行者は己が仕える神の為に働く。それが第一と言う事です」
「なるほど、道理だね。七大神がこの世での影響を鑑みて代行者を御作りになられないのが残念でならないよ」
その後、私たちはデザートとして出されたアイスクリームを堪能すると、会食は何事もなくお開きとなった。




