219:会食-1
「中へどうぞ」
案内役の神官の男性に導かれて、私たちは教皇様が待っている部屋へと入る。
部屋の中には細長い机と複数の椅子が置かれており、最も目立つ席には式典で見た立派な白い髭を伸ばした老人が、お付きのように見える若い男性神官を後ろに控えさせる形で座っている。
「ようこそ、おいで下さいました。エオナ様、シュピー様、カミア・ルナ巡礼枢機卿。そして、イナバノカグヤ様、マクラ様、タイホー様、ヤマカガシ様」
老人はそう言うと椅子から立ち上がり、私たち全員の顔を一度見まわしてから、少しだけ頭を下げる。
「こちらこそ招いていただきありがとうございます」
私もそれに合わせて少しだけ頭を下げ、ルナたちも私に合わせるように頭を下げる。
「では、厨房の者たちも今か今かと待っている事でしょうし、席へどうぞ。話は酒で喉を潤わせ、料理で舌を満足させながらの方がよろしいでしょう」
「ええ、そうですね」
老人の言葉を受けてルナたちはそれぞれの席に向かって歩き出す。
だが私は……
「エオナ?」
動かなかった。
「エオナ?貴方何を……」
「おや?エオナ様、どうされましたかな?」
その場から動かずに、私は微笑んだまま老人……ではなく、老人の後ろに控える若い男性神官へと視線を向ける。
私の行動にシュピーも老人は疑問の声を上げ、他の面々も手足を止める。
「「「……」」」
そして、部屋の中に気まずい空気が流れるわけだが……それでも私は男性神官へと目を向け続ける。
「はぁ……」
やがて何かを諦めたかのように男性神官は溜息を吐く。
「カミア・ルナ巡礼枢機卿。一応聞くけど、彼女には何も話していないだろうね」
「勿論話していません。ルナリド様に誓って」
「だから無理だと言ったのですよ。教皇様……」
「ぶわっはっはっは、やはりこうなったか」
「え?え?え?」
それに合わせるように困惑するシュピーを置いて、他の面々はそれぞれの表情を浮かべる。
さて、レベル的に仕方がないが、見抜けなかったシュピーの為に説明をするとしよう。
「そこの老人の方がお付きの方で、若い方がルナリド神殿の教皇様って事よ。シュピー」
「うん、そう言う事だね」
「は?はああああぁぁぁぁぁ!?」
私の言葉にシュピーは驚きの声を上げ、男性神官改め教皇様も私の言葉に肯定の意を表す。
そして老人も席を立つと、お付きの者として正しい位置に移動し、ルナたちも諦めた様子でそれぞれの席に座る。
「一応聞いておきますが、どうしてこのような事を?」
「簡単に言えば、意趣返しかな。パレードでは僕もわら……」
「ゴホン」
「……。僕も随分と驚かされたからね。少しくらいの反撃はルナリド神官の教皇として試みさせてもらってもいいだろう?」
「なるほど」
どうやら教皇様は随分と愉快な性格をしていらっしゃるらしい。
流石はルナリド様に仕える神官と言うところか。
「で、逆に僕からも聞きたいんだけど、どうして僕がルナリド神殿の教皇だと分かったのかな?」
「どうしても何も……そちらのご老人ではクレセートとその周辺地域に住む数万のルナリド信者を統べるには善き人過ぎるでしょう」
「「「……」」」
「ぶはっ、げほっ、ごほっ……ひぃひぃ、人が良すぎるから教皇ではない、か。そんな判断をするのはエオナ、お前くらいだろうな。その返しは拙僧も想定していなかった」
とは言え、この返しは想定外だったのだろう。
私の言葉に私とタイホーさん以外の全員が絶句する。
まあ、そこの老人の悪意と叛意の無さを直接的に認識できるのはヤルダバオトの代行者でもある私だけなのだから、誰も想定など出来ない返しなのは当然だろう。
「そ、そうかい。なんにせよ、改めて挨拶をした方がいいかな」
「そうですね。お久しぶりです。ルナリド教皇様、フルムス奪還作戦後の事情聴取以来でしょうか」
「「「は……?」」」
そして、次の私の言葉で私と教皇様以外の全員が固まり、教皇様も頬をヒクつかせ始める。
「こ、根拠は?」
「魔法で変身する事で誤魔化しているようですが、骨格含め基本的な各種数字が完全に一致していますし、身長と体重についても誤差の範疇で収まっています。これで別人と言うのは無理があると思いますが?」
「「「……」」」
教皇様の額に汗が浮かび始める。
どうやらあの事情聴取でやってきた記録係が自分である事は、この場に居る面々では教皇様自身しか知らない事であったらしい。
お付きの老人が教皇様に向ける目が非常に鋭く、険しい物になっている。
この分だと、私に正体がバレていた事よりも、お付きの老人に自分の行動がバレた事の方がダメージが大きいのかもしれない。
「エオナ?お前、何時の間にそんな訳の分からない特技を……」
「少し前からね。具体的な数字として見えるわけではないけれど、目の前の人物が記憶の中にある誰かと同一人物かどうかや、どちらの方が大きいかくらいなら、人間限定だけど分かるわね」
「ほう。また妙な力をスィルローゼ様は授けたものだな」
「んー、これはスィルローゼ様じゃないと思うわよ」
さて、私が何時からこんな能力を得ていたかだが……明確には分からない。
が、恐らくは私の中に混じっている何処かの神様の血の影響だろうとは思っている。
他に心当たりは無いし。
「へ、へぇ……スィルローゼ様ではない。スィルローゼ様の代行者である君がそう言うんだ。では、一体どこの誰の力だというんだい?」
「そうですね。まあ、この場に居る皆様になら話しても問題は無いでしょうし……食事でもしながら話しましょうか」
なんにせよ、厨房のコックたちも今か今かと待っているし、この先は会食が始まってからでいいだろう。
と言う訳で、私は自分の席に着いた。




