217:巻物中のモンスター-5
「終わったわ」
私の中にある『エオナガルド』から『フィーデイ』へとマミラセンシシの魂が抜けていく。
勿論、『サクルメンテ・チェジ・ルール・リーン=メンテ=キプ・アウサ=スタンダド』によってマミラセンシシの魂に施された各種改造は解除されてあるため、この後元の生息地でリポップするマミラセンシシは通常のマミラセンシシに戻っている事だろう。
「お疲れ様ー?」
「まあ、疑問形よね。傍目にはメモを取っているようにしか見えないし」
さて、『エオナガルド』ではエオナ=トレインによる今回の戦闘における反省会を、実践を交えつつ、ゴトスたちと行っているわけだが、それは私の気にするところではない。
「どんなモンスターだったのー?」
「現れたのはマミラセンシシと言うポエナ山地の浅層と中層の間くらいに現れるPT推奨のモンスターね」
それよりも今はマクラさんに必要な説明をしてしまうべきだろう。
と言う訳で、私はマミラセンシシに関しての基本的な説明を一通りしてしまう。
「かなり面倒くさいー?」
「面倒臭いわ。ついでに言えば、こっちで現れていたら大惨事間違いなしだったわ」
そして、基本的な説明を行った上で、どのような改造を施されていたのかも告げる。
するとマクラさんにもゴトスたちが相手をしたマミラセンシシの危険性が理解出来たのだろう、ほんの僅かにだが眉間にシワが寄り、背中の小さな翼に力が入って持ち上がる。
「本当に危険な相手だったみたいだねー」
「まったくよ。最悪、アレ一匹でクレセートが更地になった頃になってようやく討伐と言うのも有り得たわ」
そう、翼だ。
今現在、この部屋には動くなと言われた私と、気絶したままのイナバノカグヤさん、そして私の監視兼イナバノカグヤさんの介抱役としてマクラさんの三人だけしかいない。
で、そのマクラさんだが……他に私しか目を覚ましている者が居ないからだろう、夜と睡眠の神ナトスリプ様の代行者としての姿を現しているのだろう、鬼のような角にコウモリのような翼と尻尾が小さくだが生えていて、どことなく妖艶な雰囲気を纏ってもいる。
一言でまとめてしまえば……夢魔のような姿をしている。
「んんっ……うー……んっ!?」
「で、イナバノカグヤさんは大丈夫なの?」
そして、そんなマクラさんの膝を枕にしているイナバノカグヤさんだが……時々、妙に艶っぽい声を上げ、顔を赤らめ、股間の辺りをすり合わせているような様子が見られる。
正直、マクラさんの外見から想像できる能力とイナバノカグヤさんの今の様子を合わせてみたら、私でも夢の中でそう言う事をしているのではないかと言う想像しか出来ないのだが……。
「カグヤはー、いつもいつも村の人たちとマクラたちのために働いてお疲れー。だったらー、夢の中でくらいリラックスしてー、気持ちよくなってもいいと思うんだよねー」
そう言うマクラさん……いや、もう呼び捨てでいいか、マクラの顔にはとてもいい笑顔が浮かぶと同時に、悦に浸っているようなものでもあった。
「……。まあ、ナトスリプ様とラビトリワク様が止められていないのなら、私が口を出す事ではないわね」
「そうだねー、お二人やルナリド様に怒られないように加減はしないとねー」
うん、これ以上口を出すのは止めておいた方が良さそうだ。
ルナリド様、ナトスリプ様、ラビトリワク様がお止めになられていないし、マクラもイナバノカグヤさんの疲労を取ることを第一としている。
ならば、部外者である私が余計な口を出すのは野暮と言うもの。
人と人の関係性はそれぞれだと聞いているし、気にはしないでおこう。
「それでー、さっきから書いているのは何ー?報告書じゃないよねー」
「違うわね。必要最低限分の報告書はこっちにもうあるもの」
マクラが私の手元に目をやってくる。
そこにあるのは……まあ、余り外には出せない内容のメモだ。
「じゃあ何ー?」
「簡単に言えば、改造にかかったコストの計算ね」
私の言葉でその内容のマズさを察したのだろう、マクラは一度だけ周囲に目をやる。
「心配しなくてもこの部屋に監視は付いていないわ。今回の件の黒幕が直接監視に来てたら別だけど」
「ならいいけどー……そのメモ、どれだけの犠牲が必要なのかが分かっているって事だよねー?」
「そうなるわね」
私の手元にあるメモの内容はマミラセンシシの改造にかかったコスト……言い換えれば犠牲になった人間や時間などを計算したもの。
これは普通なら絶対に割り出せない数字だが、元々のマミラセンシシのデータを保有しているエオナ=ライブラリが具体的な強化値を計算し、ヤルダバオトの代行者でもある私の中でも特にその面が強いエオナ=ロザレスがその強化に必要なコストを提示すれば、算出できる数字である。
で、ついでにマミラセンシシ自身がこれらの能力を自分の意志で習得するのではなく、誰かに教示されたパターンも考えて、諸費用を計算したわけだが……。
「でも、必要な計算でしょう?私たちの預かり知らぬ場所で村が幾つか滅びているかもしれないんだから」
「まあねー」
計算結果として、あのマミラセンシシ一匹を生み出すのに、最低と言うか最も簡単な手法を取ったとしても、普通のNPCが100人ほど住んでいる一般的なサイズの村が、かなり凄惨な方法で葬り去られる事になった。
ガチレズサキュバス・マクラ
ええ、マッサージです。ただのマッサージですとも。




