210:代行者たち-3
「それにしても代行者が五人ね。ちょっとした街くらいなら片手間で廃墟に出来そうな戦力じゃないかしら」
「微妙かもー、マクラたちの戦闘能力はー低いしー?」
さて、期せずして代行者同士の顔合わせが出来たわけだが……此処からどうするべきだろうか。
「えと、そうなんですか?代行者ならてっきり皆さん、モンスターの軍勢を普通の攻撃で殲滅できるようなものかと……」
「どんな化け物よそれは……いや、そこの代行者様はそうかもしれないけど」
「ふむ、それは代行者であるかどうかではなく、信仰している神の得意分野の違いと言うべきだろうな。拙僧のようなサクルメンテ神官ならば、やはり専門は他のプレイヤーの支援であり、直接の戦闘は他の者に任せるべきだ」
「僕の信仰するグロディウス様についてもそうですね。僕自身が剣を持って戦ってもたかが知れていますが、蛇と策謀の神の代行者に相応しい地位として、戦略や搦め手を担当させてもらえれば、発揮できる力の量は大きく伸びます」
「なるほど」
今回の黒幕に直接喧嘩を売りに行くのは無理だろう。
そもそも黒幕が誰か分からないし。
「エオナがその辺りを得意としているのは、茨と封印の神スィルローゼの代行者だからだろうな。スィルローゼ神官は元々長期戦と対集団戦を得意としている。それが代行者になって大きく伸ばされれば、一定レベル以下の相手は取るに足らない存在になって当然だろう」
「逆に言えば、抑え込むのが精一杯なんて相手が出てくると、それしか出来なくなるでしょうね。エオナの攻撃力は代行者になっても、私の最大火力には到底及ばないし、防御方面もアレを考えなければ、たぶんどうとでもなるから」
「ま、私含めて高位プレイヤーになると、自分がどういう相手を苦手としているかが分かっているから、その苦手への対策は当たり前のようにしてあるんだけどニャー」
「ああ、エオナ様の絶殺陣とかですね。分かります」
ならば地道に捜査と言う事になるが……タイホーさんはともかく、イナバノカグヤさんたちが信頼できるかと言われたら分からないし、『エオナガルド』に確保した四人の尋問はそれなりに時間がかかりそうである。
「ちょっといいかしら。イナバノカグヤさん」
「何かしら?」
うん、少しずつ話を進めていくしかないか。
「貴方たち代行者のクレセート……と言うかルナリド神殿における立場はどうなっているの?」
「立場ね……後ろ盾となる枢機卿がそれぞれに付いているけれど、基本的には教皇様直属の部下として、ルナリド神殿及びクレセート守護の任に就いているわ」
「ふうん」
嘘は吐いていない。
けれど本当の事も言っていないと言うところか。
となると、イナバノカグヤさんたちの後ろ盾と言うのが、今回の件に私の敵として関わっていてもおかしくはないか。
そもそも後ろ盾と言うのは、何かがあった時に守ってくれる存在であると同時に、何もない時には機嫌を取っておかないといけない存在とも言えるものなのだから。
「あ、拙僧については後ろ盾はなしで、正真正銘の教皇様直属だな。おまけにその気になったら何時でもクレセートから出て行ってもいいと言われている」
「そうなの」
「そうなのだ」
うん、タイホーさんから補足と言う名の情報が来た。
そこで正真正銘だとか、何時でもなんて言う辺り、イナバノカグヤさんたち三人の中には教皇様よりも後ろ盾の機嫌取りを優先しなければいけない者も居ると言っているようなものだ。
「アタシからもいいかしら」
「何かしら?」
イナバノカグヤさんが片手を上げて、尋ねてくる。
「エオナ、貴方に狙われる覚えは……腐るほどありそうね」
「腐りすぎてドロドロの液体が生じて、異臭が立ち込めるレベルではあるわよ」
「エオナが怨まれていないとかあり得ないだろう。エオナだぞ」
「逆恨みならゲーム時代から散々買っているのは拙僧が保証する」
「否定したいのに一切出来ないのがエオナ様ですよね……」
イナバノカグヤさんも途中で気づいたし、他の面々からも散々言われているが、私が狙われる心当たりは幾らでもある。
心情や感情に基づくものを抜きにしても、フルムス攻略の立役者、スィルローゼ様の代行者と言うだけでヤルダバオト神官から狙われるには十分な理由だし、何かしらの方法で私がヤルダバオトの代行者でもある事に気づけば、それも理由になるだろう。
敵の最終目標が私ではなくルナだったとしても、戦闘能力を考えて、私の無力化を優先する可能性は否めない。
なので、私が狙われる理由から犯人を特定する事は不可能だと断言していい。
「カミア・ルナ巡礼枢機卿も同様ですか?」
「政治的な面で見るなら、エオナよりも私の方が狙われる可能性は高いな。そして、私が目標だとしてもエオナの排除が試みられるのはおかしくないだろう。目立つパレードもしたばかりだしな」
なお、サロメ、ノワルニャン、シュピー、メイグイに理由があったとは考えない。
そこに理由があるにしては、相手の手口が大掛かり過ぎるし、杜撰でもある。
「ま、そもそもとして、相手の攻撃目標が私たちではなく、ルナリド神殿……いえ、ルナリド信仰そのものである可能性もあるけどね」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味よ」
なんにせよ、そろそろあの件については話しておいた方がいいだろう。
「今回の相手はルナリド様の教えを捻じ曲げている。これはもう確定事項でいいわ」
そう、一部の者がルナリド信仰でない者に向ける差別的視線についての件だ。
10/13誤字訂正




