209:代行者たち-2
「さてと、まずは自己紹介をするべきかしらね」
その後、私たちはタイホーさんに連れて行かれる形で、ある程度の広さがある部屋へと通された。
そこには幅広の机に全員分の椅子、それに果物や菓子の類が置かれていて、ノワルニャンが一通りの調査をして安全を確かめたところで私たちは椅子に座った。
「エオナたちについては必要ないぞ。拙僧たちの手元には予め今回の式典の参加者についての情報があるからな」
「そう、なら私たちの分は省いてよさそうね」
私は『エオナガルド』から熱々のローズヒップティーと人数分の茶器を取り出すと、メイグイにそれを配膳してもらう。
で、ついでに『エオナガルド』産の菓子……クッキーやブラウニーと言ったものも取り出して並べる。
「エオナ、貰うわよ」
「構わないわ」
サロメがさっそく私の菓子に手を着け、食べ始める。
なお、最近明らかになった事として、『フィーデイ』では『Full Faith ONLine』とは違い、甘い食べ物ならばだいたいMPの回復効率を数字に出ない形で上げられる事が分かっている。
これはMPが精神や魂と言ったものに端を発する事と、甘い物による精神の充足でもたらされる幸福感などの影響と言われている。
「ふむ、拙僧としては塩辛い物の方が好ましいのだが……」
「じゃあ、これなんてどう?アイブリド・ジャーキー」
「ではいただこう」
で、幸福感による回復速度の向上なので、個々人の好みを満たす食べ物でも効果は発揮される。
と言う訳で、私はアイブリド・ロージスの肉から作ったビーフジャーキーもどきをタイホーさんに渡す。
反応は……上々だ、どうやらお気に召してもらえたらしい。
「……。なんで極々普通に茶会を始めているのよ。アンタたち……」
「何でも何も今は貴重な回復タイムなのニャ」
「此処は既に敵地。何時何処で攻撃が仕掛けられてもおかしくないわ」
「補給できるときに補給しておくのは、長時間戦闘における基礎だと思うが?」
そんな私たちを兎の耳の女性は頬をヒクつかせながら見ている。
他の三人と違ってお茶にすら手を付けていないようだし、戦闘系ではなく職人系であるのかもしれない。
「これだからトップギルドの連中は……ああもういいわ。だったら、勝手に自己紹介と言うか情報共有と言うか、事情聴取をさせてもらうわよ!何があったのか分からないと、私たちの側としても動きようがないんだから。はいっ!と言う訳で先ずはあの場で何があったのかを話して!!」
「何と言われてもねぇ……さっきも言ったように自爆テロ?」
「自爆テロね」
「エオナ様に同意です」
「自爆テロって言うならもっと緊迫感を持って話しなさいよ!?」
ツッコミ所がそこなのか、と言うのはさておいて、私たちはまずあの場で何があったのかを伝えておく。
勿論、最初の自爆犯四人が『エオナガルド』に匿われている事は話さないが……。
「ふはははは、この世で出来たものとは思えない、実に美味いジャーキーだ。何処に居る誰が作ったのかを後で教えてもらいたいな。エオナ」
「機会があれば教えるわ」
タイホーさんはサクルメンテ様から『エオナガルド』について聞いておいてもおかしくはないか。
ま、タイホーさんなら知られていても問題は無いが。
「で?これが私たちの事情だけど、貴方たちは結局誰なの?」
「そうね。いい加減に話しましょうか」
さて、今の状況についての情報共有が出来たところで、次はタイホーさん以外の面々についてである。
「アタシの名前はイナバノカグヤ。兎と細工の神ラビトリワク様の代行者であり、この面々における責任者よ」
「あら、代行者」
まず一人目。
兎の耳を生やした女性はイナバノカグヤと言うらしい。
それにしても細工か……捉え方次第ではどちらの使い方も有り得そうだが、彼女が持つ悪意の小ささと叛意の強さを考えると、装飾品や細かい作業によるものと捉えてた方が良さそうか。
ほぼ間違いなくメインが非戦闘系のプレイヤーだろうし。
「マクラはマクラ。夜と睡眠の神ナトスリプ様の代行者だよ。レベルは80で止まってる」
「90の限界突破クエスト未攻略って事かニャ?」
「そう言う事ー、受ける前に飛ばされたからねー」
二人目、パジャマ姿の少女ことマクラは夜と睡眠の神ナトスリプ様の代行者か。
こっちはたぶんガチガチの戦闘系。
眠そうにはしているが、周囲への注意の払い方やさりげない所作が戦い慣れたプレイヤーのものだ。
なお、レベル限界突破クエストはレベル50以降に10刻みで用意されていて、これを攻略することによって最大レベルを上げる事が出来るようにあっている。
各レベルごとに複数のクエストが用意されていて、一つでもクリアすれば限界突破なのだが……まあ今の状況だと受けている余裕は無いか。
「僕はヤマカガシと言います。蛇と策謀の神グロディウス様の代行者ですね」
「グロディウス……聞いた覚えのない名前なのニャ」
「ははは、マイナーな神様なものでして」
三人目、ゴスロリ服はヤマカガシ、と。
名前も信仰も見事に蛇である。
タイプとしては戦闘系ではあるが……司っているものからして、指揮官系だろうか。
んー、私も初めて聞く名前の神様なので、実装されたのも最近の方なのかもしれない。
なお、ヤマカガシが嘘を吐いていないのは、代行者の能力で確かめているので確実である。
「最後に拙僧がタイホー。円と維持の神サクルメンテ様の代行者であり、今はクレセートに逗留させてもらっている流れの代行者である」
「この人が……」
「凄く丸い……」
「ふはははは、サクルメンテ様の代行者であるからなぁ」
最後はタイホーさん。
と言っても、こちら側で面識が無いのは、メイグイとシュピーの二人だけだが。
ついでに言っておけば、横と縦の長さがほぼ1対1なタイホーさんだが、その身に付いているのはほぼ筋肉。
『Full Faith ONLine』の頃や『悪神の宣戦』直後ならばいざ知らず、『フィーデイ』に来てから2か月以上経ってもこの体形と筋肉量を維持していると言うのは恐ろしいレベルの鍛え方である。
「以上、この四人がクレセートに現在滞在している代行者になるわ。茨と封印の神の代行者さん」
「なるほどね」
そして、この四人こそが、本来ならば式典後の会食で顔を合わせるはずだった代行者であった。




