207:式典-4
「ヤルダバオトのメダル……だと……」
「何故そんなものが……」
「いや、それよりも、あのメダルの材料は……」
流石にヤルダバオトのメダルなどと言うアウト以外の判定を下せない品が出てくるとは思っていなかったのだろう。
神殿の中に居るほぼ全ての人間が顔を青ざめさせ、これまでとは比較にならない程に動揺している。
その動揺具合は本当に大きく、枢機卿たちですら動揺の顔を隠せておらず、慌てふためかないのが精一杯のようだった。
「ヤルダバオトのメダル……ですか。どのような代物なのですか?」
「効果としてはアイテム欄に入れると、少しずつ所有者を弱らせていくようですね。完全に害意しかない品です」
ケッハメイ枢機卿の言葉に私は冷静に答える。
ただまあ……実を言えば、私にとっては効果がないアイテムである。
何せ私はヤルダバオト神官どころか代行者であり、この手のアイテムによるバフ効果は私の意志で拒絶しているが、デバフ効果についてはそもそも対象外である。
「尤も、素材を考えれば害意しかない事など明白ですが」
私は改めてヤルダバオトのメダルを見る。
その素材はルナリド神官の血塗れの骨だが、より正確に述べればルナリド神官の首の骨を生きたまま抉り出した物である。
つまり、この時点で最低でも一人は既に死者が出ている案件となる。
「式典を終わらせましょうか。流石にこれほどまでに穢れた品が出て来ては、続けるわけにはいかないでしょう」
私は壇上の老人へと顔を向け、式典を終わらせることを提案する。
それと同時に横目で神殿の中に居る人間を観察。
不自然な挙動を取っている者がいないかを見てみるが……残念ながらこの場に溶け込めていない動きをしている人間は居ない。
どうやら、これを仕掛けた誰かはよほど演技が上手いか、そもそもこの場に居ないようだ。
「わ、分かり……ました……。その、メダルは……」
「今は私が預かっておきましょう。ルナ」
「分かっている。これはもうルナリド神殿そのもの……いや、クレセートの街そのものに喧嘩を売っているに等しい話だ。誰が仕掛けたのか、調べさせてもらう」
神殿の中に居る一般人たちが神官たちに守られるようにして、神殿の外に出ていく。
そして私たちや枢機卿たちも、それぞれの控室へと誘導されていく。
こうして、フルムス奪還を祝う祭典は新たな災禍の幕開けを告げる場になってしまったのだった。
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「ヤ、ヤルダバオトのメダルですって……」
「は、はい。式典の場で茨と封印の神の代行者エオナ様が明らかにされまして、式典は途中で切り上げられることになりました」
式典の場で起きた出来事を使いから聞いた瞬間、兎の耳を生やした女性は全身の血の気が引く思いだった。
だがそれでも使いの前でだらしない姿は見せられないと判断したのだろう。
背筋を正し、顔色を戻し、口を開く。
「そうですか。アタシに協力できることはあるでしょうか?あるならば遠慮なく頼ってほしいと担当者の方にお伝えください」
「分かりました。誰が担当になるかは分かりませんが、枢機卿にはそのようにお伝えさせていただきます」
「お願いします」
そして使いが部屋を後にすると同時に……
「マクラアアァァ!助けて!無理!胃が死んじゃう!もう無理!!」
「よーしよーし、頑張ったねー」
女性はパジャマ姿の少女の胸元に顔を突っ込んで、大声を上げ始めた。
「何処の馬鹿よ!刺激しないでよ!アレが全力で暴れたらクレセートが更地になるとか言われてるのよ!!そんな化け物に直接的に喧嘩を売るんじゃないわよ、馬鹿アアアァァァ!!」
「そーだねー、大変だねー」
いつもの事なのだろう。
少女は女性の頭を優しくなで、声をかける。
そうして暫くの間女性は泣き叫び続け、やがて落ち着き、それから再びまっすぐ立つ。
「単刀直入に聞くわ。これからどうなると思う?」
で、この場に居る残りの二人、禿頭の男性とゴスロリ服の人物に声をかける。
「心配しなくてもクレセートが更地になるようなことはないだろう。拙僧が知る限り、エオナは無関係の人間を巻き込む事を嫌うし、そんな事をすれば、それこそ今回の件を仕掛けた何者かの思う壺だろう」
「僕も同意見ですね。今回のこれは第一案が知らずに所持したエオナさんの殺害、第二案が怒ったエオナさんが暴れるなどして、自分に無関係の人間に被害が出ればいい。そんなところだと思います」
「なるほど。参考になるわ」
二人の意見に女性は静かに頷く。
「まあ、問題はどの枢機卿が関わっているかだな」
「メダルを贈った枢機卿じゃないのー?」
「それはないでしょう。幾ら何でもリスクが高すぎる。メダルを贈ろうとした枢機卿はスケープゴートと見るべきかと」
「さっき言った第一案を実行しようとして、その実行犯が捕まってくれたりしたらアタシとしては楽なんだけど……」
女性がそこまで言った時だった。
ルナリド神殿中に響き渡るような爆音が鳴り……直ぐに収まる。
「ら、楽な展開キター?」
「いやぁ……どうでしょうか?」
「むしろより面倒なことになった気が拙僧にはしてならないな」
「諦めた方がいいー」
女性たちがお互いの顔を見合わせる。
「……。何にせよ、行くしかないわね。アタシたちはその為に居るんだし」
そして、一度頷き合うと、部屋を後にして、爆音のした場所へと向かっていった。
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