206:式典-3
「受け取ってはならない品……ですか」
ケッハメイ枢機卿の視線が鋭くなる。
「そうですね。例えばこれ、流れの神官が作った除草剤ですね」
私は数ある品物の中から、液体の入った瓶を手に取る。
「茨と封印の神の代行者として、庭仕事をする時に使う事が出来るのでは?あるいは植物系のモンスターと対峙する時に用いてもよい品だと思いますが?」
「贈った方もそう思われて、褒賞の品の一つとして出したのでしょう。私もその気持ちについては嬉しく思います」
「では何が……」
ケッハメイ枢機卿はいったい何処が駄目なのかと言う視線を向けてくる。
だが、この除草剤についてはそう言う問題ではないのだ。
「除草剤と言う撒いた範囲にある全ての植物を枯らしてしまう薬品の使用は、止むを得ない犠牲でない限り許容しないスィルローゼ様の御心にそぐわない物なのです。分かり易く言ってしまえばスィルローゼ神官限定で禁忌に触れる品なのです」
「「「!?」」」
私のスィルローゼ神官にとっては禁忌の品であるという言葉に神殿全体が動揺する。
当然だ、真っ当なルナリド神官……いや、神に仕える者であれば、禁忌に触れる行為がどれほど許しがたい行為であるか分からないはずが無いからだ。
「とは言え、これがこの場にあるのは品を選んだ方がスィルローゼ信仰に対して詳しくなかったためでしょう。それは選んだ方が無知であるというよりは、私たちスィルローゼ神官の布教不足もあります。ですから、品は受け取れませんが、気持ちはありがたくいただきましょう」
「そ、そうですか」
私は除草剤をケッハメイ枢機卿のお付きに渡す。
それと同時に、一部の人間から何様だと言わんばかりの視線が飛んでくる。
なるほど、少し読めてきた。
「他にも私に贈るには問題がある品が混じっていますね」
「は!?」
では、話を進めてみるとしよう。
私は小型の指輪を手に取る。
普通の指輪ならば宝石が填まっている部分には何かの液体が入っている。
「こちらの品はメンテナンスが必要な専用の容器にクレセートでしか作れない薬品を入れて用いる物です」
「薬品……特定の状態異常付与能力を一時的に得られるもののようですな」
「薬品は問題ではありません。問題は容器です」
「容器……」
中の薬品に問題は無い。
問題は容器だ。
「私は円と維持の神サクルメンテ様の神官でもありますが、サクルメンテ様の教義として、私の力ではメンテナンスや補給、あるいは再利用が難しい品と言うのは、出来るだけ受け取りたくないのです。そう言ったものは最終的に廃棄と言うサクルメンテ様の御心にそぐわない行動を取る必要が生じてしまいますから」
「な、なるほど……」
私に対する非難……いや、蔑みの視線が強まる。
まるでルナリド様以外の神などどうでもいいと言わんばかりの感情だ。
実に分かり易い。
「とは言え、この品もまた、基本的には善意からもたらされた品物です。これらの品程度であれば、式典を止める必要まではなかったでしょうし、私も後でこっそりお返しするだけに留めていたでしょう」
「……。まるで他にも問題がある品が混じっているような、それもこれまでとは比較にならないような物が混じっているような口ぶりですな」
「ような、ではなく混じっているのですよ。絶対に見過ごせない危険物が」
まあ、こちらについては後で対応させてもらうとしよう。
今はもっと対応の優先度が高い品がある。
「これはモンスター召喚のスクロールです」
私は一本の巻物を手に取り、それが何かを告げる。
モンスターと言う言葉に何も知らない普通の一般市民は息を呑むが、枢機卿やプレイヤーたちは何が危険なのだという顔をしている。
当然だ、モンスター召喚と言うと物騒だが、この手のスクロールで呼び出せるのは何かしらの稼ぎ用モンスターあるいは訓練用モンスターであり、危険がないとは言わないが、問題がある品物ではない。
私の信仰上の問題もないというか……モンスターを倒すという行為の都合上、ヤルダバオト信仰の信仰値を下げられるので、むしろ都合がいいくらいだ。
真っ当な品であるならば。
「それも時限式で勝手に発動すると同時に、推奨レベル70のPT向け通常モンスターを呼び出すという不正規品。悪質なヤルダバオト神官が攻撃の為に用意したものでしょう」
「「「!?」」」
今度こそルナリド神殿全体に動揺が走る。
そして、自分たちの正体がバレていると思っていなかったのだろう、スクロールの中に封じられているモンスターが私の言葉に慌てている気配がする。
「ローレム山地かポエナ山地か、あるいはペリビット海か。流石に封印されている状態では中身までは分かりませんね」
「エ、エオナ殿。時限式と仰られたが……封印が解けるのは……」
「この様子だと後数時間、と言うところでしょうか。式典が終わって一息吐いたタイミングで、と言うところでしょうか。まあ、後で対処するしかありませんね」
私は上書きする形で封印を施す。
これで勝手に出てくることは無いだろう。
「さて最後に……」
「まだあるのですか!?」
ケッハメイ枢機卿が半ば叫ぶような口調で言う。
うん、残念ながらある。
それも格段にマズい物が一つ。
私は一枚の銀色のメダルを手に取る。
「ルナリド様のメダルではありませんか」
「ええ、見た目はそうですね」
刻まれた模様はルナリド様を示すものであり、見た目だけならば何の問題も無さそうだ。
だが私はそのメダルを軽く捻り、銀色のガワを外す。
「ただし、中身はルナリド神官の血と骨で作られ、大量の怨みが込められたヤルダバオトのメダルです」
そしてこの場に集まっている人々に、血塗れの骨で作られたヤルダバオトの紋章を示した。




