202:いざクレセートへ-2
『教皇様の許可は下りた。やるなら、好きにしていいぞ。ただし、私たちは一切の責任を取らないからな』
ノワルニャンと合流したルナはそう言うと、私一人を残してサロメたちと共にクレセートへと入っていった。
そんなルナたちに向けられるのは称賛や羨望、憧れと言った良い視線……だけではなく、嫉妬や怒り、侮蔑、見下しと言った悪感情を含んだものから、篭絡や干渉を願うもの、中には肉体的な意味で下賤な欲望を伴うものまで含んだ良くない視線もある。
これはルナたちの姿がフルムスと言う都市を救ったメンバーとして相応しいだけの凛々しさと美しさを伴っていると同時に、たった六人でクレセートにやってきたために、数と言う目に見えて分かり易い指標においてルナたちよりもルナの敵たちが勝っている為に起きた現象だろう。
「さて、私もそろそろ行きますか」
うん、分かり易さ、と言う意味において数の多さと集団の大きさはやはり重要だろう。
だから私はそれを叩き折る事にした。
「全軍、行進開始」
頭と胴に大きな穴をあけることによって人形である事を分かり易く示した茨の人形百体をクレセートに向けて整然と進ませることによって。
「反応は……」
この茨の人形たちは、私の体から出した茨を『スィルローゼ・サンダ・ソン・コントロ・フュンフ』によって操っているだけのものであり、個別に操る面倒くささもあって、戦闘能力については大したことは無い。
だが、完全に同期して一糸乱れぬ動きでもってクレセートの正門からルナリド神殿に向けて真っ直ぐに伸びる大通りを歩くその姿は、見る者に多大な威圧感を与えるだろう。
「上々ね」
現に、行進する茨の人形を見た人々は誰も彼もが唖然としており、一歩進む度に私たちに向けられていた悪意と叛意が弱まっていく。
これならば、それなりに効果があったとみていいだろう。
しかし、これだけで終わらせてやるほど私は手緩くない。
「アイブリド・ロージス」
「「「ブメッコオオオォォォウ!!」」」
「「「!?」」」
私は『エオナガルド』からアイブリド・ロージスを呼び出すと、神々によって作られた存在である事を示す神気を周囲に放ちながら、茨の人形たちの後を歩かせる。
すると、茨の人形を目にした時以上に人々は畏れの気持ちを抱き始め、極自然にその場で跪いて、祈りを捧げ始めるようになる。
「最後は私ね。行くわよ、スリサズ」
「バウッ」
最後に私がスリサズに跨ったままクレセートに入っていく。
ただし、代行者としての姿を露わにして、濃密な薔薇の香りを周囲に漂わせながら。
装備できる全ての武器を装備して、背筋をまっすぐ伸ばすと共に、前に向けて油断のない視線を向けながら。
茨と封印の神スィルローゼ様の代行者として恥ずかしくない姿を見せつけながら、ゆっくりと大通りを進んでいく。
「なんと神々しい……」
「これが代行者様……」
「ありがたやありがたや……」
「次元が違う……」
「ははは、なんだこりゃあ……」
「こんなのありかよ……」
私の姿を見たクレセートの住民とプレイヤーたちの反応は様々だ。
だが、だいたいのクレセート住民は私の姿を見て涙を流し、プレイヤーたちは呆然としつつも笑みを浮かべている。
その身に抱えていた悪意と叛意の大部分を萎びさせ、潰えさせながら。
「到着ね」
やがて私はクレセートに存在するルナリド神殿の中でも一際大きな神殿、ルナリド本神殿と呼ばれる建物の前に作られた大きな広場に着く。
そこではルナたちが頬をヒクつかせながら待つと同時に、呆然とした様子の神官たちと住民たちが何十人と立っている。
「全員、ご苦労様」
「「「ブメッコ」」」
私は先に広場に着いていたアイブリド・ロージスを『エオナガルド』に帰すと共に、茨人形たちの操作も止めて、消す。
「さて……茨と封印の神スィルローゼ様が代行者エオナ、ルナリド神殿の教皇様の求めに応じて、参りました。この後にどうすればよいのか、誰か御教えになってくれませんか?」
スリサズから降りた私は周囲の人々に向けてそう言い放つ。
だが誰も動こうとはしない。
どうやら、少々インパクトが強すぎたらしい。
誰もが放心してしまっている。
「はぁ、仕方がありませんね。では、正面から堂々と参りましょうか」
私はルナリド神殿の正門を正面から押し開く。
門のサイズは人の三倍近いものであり、重量も相応の物であるが、私にとっては特に重い物でもなんでもないので、普通に開け放つ。
「お、お待ちくださいませ!エオナ様!」
と、ここでようやく放心状態から回復したのだろう。
ルナリド神官の戦士と思しき男性が集団の中から出て来て、私に声をかけてくる。
「何かしら?」
「た、只今、式典の準備をしておりまして、エオナ様たちには一度控室に行っていただく事になっております!どうか、付いてきていただけないでしょうか!?」
見れば、扉の向こう……ルナリド神殿の礼拝場と思しき場所では緑色の布を持った見習い神官が忙しそうに走り回っており、式典の準備が終わっているようには見えなかった。
「分かりました。では、案内をお願いします」
「か、かしこまりました!!」
そうして私たちは控室へと案内されることになった。
クレセートに漂うきな臭い空気に、根の分からない悪意と叛意はまだ消えていない。
だがそれでも機先を制する事は出来ただろう。
その証拠に、私たちが居る広場を見下ろせるテラスでは、うさ耳の生えた女性が青い顔をしているのだから。




