ホストファミリーがあらわれた!
(こ、この人が……これから私の家族になる人?)
ホームステイ先の家族、『ホストファミリー』。
日本を発つ前に知らされていた情報では確か、この家には子どもがおらず、夫婦二人で暮らしているのだとか。
「Hello, Are you Misaki?」
ゆったりとした口調で、そう尋ねられた。
(あ、このくらいならギリギリ聞き取れる……)
こんにちは、あなたがミサキ?
短くて、簡単なフレーズ。
私が聞き取りやすいように、わざとスローペースで語りかけてくれているのだろうか?
「オー! ×××××! ×××××! ハハ!」
何がおかしかったのか、運転手の女性は相変わらずのテンションで何か言って笑った。
その圧に押されるでもなく、ホストファミリーの女性はやんわりと微笑する。
ああ、なんだか上品な人だなぁ。
年齢は三十代くらいだろうか?
もっと若そうにも見えるけれど、外国人の年齢は見た目だけだとよくわからない。
けれど大人びた感じからして、二十代ではないような気がする。
自然なウェーブがかかった金髪はけっこう長くて、首の横で一つに束ねられている。
瞳の色は、碧? ……というよりは、少しだけ灰色がかっているような。
何にせよ、綺麗な人だった。
「Nice to meet you, Misaki.」
私がぽーっと見惚れていると、女性はそう言って握手を求めてきた。
ないすとみーちゅー。
会えて嬉しいです、的な。
その言葉を理解してやっと、私は我に返った。
(あっ。な、何か返事しなきゃ……!)
それまでポカンと口を開けたままアホ面を晒していた私は、慌てて予習した挨拶の言葉を思い出す。
「な、ないすとみーちゅーとぅー!」
私も会えて嬉しいです、的な。
私が両手でガシッと女性の手を握りしめると、女性はちょっとだけ驚いたような顔をして、すぐにまた穏やかな微笑に戻った。
あ、いま一瞬笑われた?
……なんて思ったけれど、この人の笑い方は何だか嫌味がなくて、落ち着くというか、どこか心地いい。
そうして女性に促されるまま、私はこれから住むことになる家の中へと入っていった。
◯
女性の名前はレベッカといった。
呼ぶときは『レベッカ』でいいよ、と言われたのはわかった。
旦那さんはいま仕事に行ってていないということも、何となく伝わった。
そこから先は、なかなか話が進まない。
というか、
(いま何の話をしてるの……?)
あまりにも英語が聞き取れなさすぎて、話題自体が行方不明になっていた。
たまに単語だけ聞き取れることはあるものの、それ以外はちんぷんかんぷんのため、今は質問されているのかそうじゃないのか、それすらもわからない。
とりあえずは日本から持ってきたお土産を渡したかったので、会話の合間にスーツケースからそれを取り出す。
京都でそこそこ有名なお店から取り寄せた、お茶の三点セットだ。
私がそれを差し出すと、レベッカは嬉しそうに受け取った。
「オー、サンクス! ××××, 抹茶 ××××……」
……ん? いま明らかに『抹茶』って言った?
そういえば最近、海外でも日本食が健康的だとかいってブームを起こしてたりするんだっけ。
抹茶もその流行にうまく乗っかってるのかもしれない。
とはいえ、いま渡した三点セットは緑茶・ほうじ茶・玄米茶なので、残念ながら抹茶は入っていないのだけれど……まあ説明するのは難しいからいいや。
その後、ある部屋に案内された。
六畳ぐらいの白壁の部屋。
セミダブルくらいのベッドが中央にどーんとあり、壁際にはクローゼットと一人用の小さなデスクが備えられている。
「×××× your room, ミサキ」
ゆあるーむ。
あなたの部屋よ、的なことをレベッカが言った。
あと多分、好きに使っていいよ、的なことも。
(私の部屋……!)
これから四十日間、お世話になる自分の部屋。
レベッカが退室した後、私は極力音を立てないようにしてベッドの上に倒れこんだ。
(ああ、お布団ふかふか……)
緊張が一気に解れ、急激に睡魔がやってくる。
飛行機ではあまり眠れなかったからか。
まだ午前中だというのに、猛烈な眠気に襲われた私は、そのまま数秒のうちに寝入ってしまった。




