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魔法の言葉と機関銃

 


       ◯




 その後、真依子の助けもあってなんとか外国人女性との意思の疎通を果たし、私たちは送迎の車に乗り込んだ。


「×××××、××××、××××××……」


 運転中にも関わらず、女性は相変わらず機関銃のように喋り続ける。


 私はもちろん、真依子もそれほど英語は得意ではないので、会話は成立しているのかしていないのか微妙なラインをふわふわとしながら続く。


「だめだ……わかんないよ真依子。私、ぜんぜん英語が聞き取れない……」


「そう悲観するもんじゃないって。わかんないときはさ、こう身振り手振りで伝えようとすれば何とかなるもんだって」


 こんな状況になっても、真依子の調子は変わらない。


 私が悲観的すぎるのだろうか?

 ここまでくるともう、私が一人間として重大な欠陥を抱えているようにしか思えない。


「あっ。そうだ、みさきち。イイこと教えてあげよっか」

「イイこと?」


 何かを思い出したように真依子が言った。


 私はそれほど期待せずに耳を澄ませる。


「魔法の言葉だよ。英語で困ったときはこれを使えばいいの。もしも相手の言葉を聞き逃したときは、このフレーズを使えばもう一度同じことを言ってもらえるんだよ」


「そ、そんなものがあるのっ?」


 聞き逃した相手の言葉を、もう一度再生させることができる奇跡のフレーズ。

 まさに魔法の言葉だ。


 といっても、私の場合は何度聞き直したところで一向に解決しないような気もするのだけれど。


「このフレーズだけはちゃんと覚えるのよ。きっと役に立つんだから」


「う、うん……。それで、そのフレーズっていうのは?」


「『パードゥン』よ」


「ぱーどぅん?」


「そう」


 言い終えるなり、真依子はさも大役を果たしたといわんばかりのドヤ顔をした。


「ぱーどぅん……かあ」


 私はその言葉を噛みしめるように口にする。

 短い言葉だし、これくらいなら私でも覚えられそうだ。


 そして、そんなやり取りを後部座席でやっている間も、運転手の女性は機関銃のように喋り続け、ひとりで爆笑していたのだった。




       ◯




 車がまずたどり着いたのは、私のホームステイ先の家だった。


 一階建ての小ぶりな家……に見えるけれど、敷地の奥を覗いてみれば、地下にも部屋があるのがわかる。

 というより、一階に見える玄関先が実は二階になっていて、奥へ行けば行くほど土地が低くなっているのだ。


(不思議な形の家だなぁ……)


 日本ではあまり見ない、変わった形の家だった。

 屋根や壁の色も明るくて、いかにも外国っぽい感じがする。


「ミサキ! ×××××!」


「!」


 運転手の女性が車を降りながら私を呼んだ。

 さすがに自分の名前くらいなら、多少日本語と発音が違っていても聞き取れる。


 私は恐る恐る車の外に出た。


「みさきち、がんばってねー。達者で暮らせよー!」


 ひとり車に残された真依子が、そう茶化すようにして私を激励した。


(うう、なんだか余計に緊張してきた……)


 ここから先は、真依子と離れ離れになってしまう。

 ホームステイ先には日本語の通じる相手はいない。

 私は今度こそ本当に、異国の地でひとりぼっちになってしまうのだ。


(落ち着け……落ち着け、私!)


 運転手の女性とともに門の前までやってくると、こちらの気配に住人が気づいたのか、玄関の扉がガチャリと開けられた。


「ひっ……!」


 別に何かされたわけでもないのに、私は堪らず短い悲鳴を上げた。


「オー! ××××××××!」


 扉の奥から姿を現したのは、アメリカ映画でよく見るようなふくよかなマダム……ではなく、スラリと背の高いグラマーな女性だった。


 

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