26話
連合軍が所有する国境砦デルマルチの一室、そこは執務室になっており扉から正面の奥に大きなデスク、そしてその右隣には一回り小さなデスクが置いてあり、各デスクの横には各々の武器と思われる剣が立てかけてあった。そして部屋を覆うように本棚が並び、いくつもの書籍や書類の束が収まっている。窓は左側に小さいサイズのものが3箇所並んでいるが、外からの視認を避けるために曇りガラスがはめられている。その執務室には3人、大きなデスクに腰掛ける2メートルを越える全身に傷を作った緑色の筋骨隆々の男、通称ボブゴブリンと言われる種族の男。その右のデスクに腰掛ける成人男性ほどの体格に全身赤い肌に白い髪、2つの瞼は糸で縫い付けられ、額に存在する第三の瞳のみが開いている男、通称魔人と言われる種族の男。最後に扉から入ったすぐの場に立ち、坦々と報告を告げる人間の子供ほどの大きさの緑色の男、通称ゴブリンと言われる種族の男の3人だ。
ボブゴブリンは眉間に皺を寄せながら、ゴブリンの兵士の報告を聞いていた。
「……以上が、里より生き残った者達の話です。如何致しましょうか?」
ボブゴブリンは思案に時をかけると重く言葉を吐き出す。
「テメーの生まれた里を、我が物顔で蹂躙した化け物を野放しにしておく道理はねぇ。だが、軍籍にいる俺らが易々と軍を動かす訳にもいかねぇ。さて、ならどうすれば良いと思うよ?」
ボブゴブリンの問いに魔人が答える。
「ならば…未確認の化け物を発見した為、連合軍の脅威となるか、または協力関係を築けるのかを図る為の視察を駐屯軍最高司令官ゴルダンが赴くこととなった。そしてその護衛に現地に詳しいゴブリン部隊が追随。しかし発見の後、我が軍は謎の化け物により攻撃を受け、生き残る為に泣く泣く現場の判断にて討伐を開始。って事で本部には伝えておきましょうか?」
そのやり取りを聞いたゴブリンの兵士の表情が僅かに緩んだ。この地にいるゴブリン達の大半が壊滅した里の出身者の為、雪辱を晴らす機会がある事が嬉しいのだ。
「話がわかるじゃねぇか!さすが参謀課所属のエリート様だ!おい!んな訳だからよ、すぐにゴブリン部隊を集めろ!フル装備で討伐に行くぞ!!」
「討伐じゃないでしょう?今回の任務は視察ですよ?ゴルダン司令官。」
「おっと、そうだったな!すまねぇ!ルルアンル!」
「しっかりしてくださいよ。」
「ガハハハ!まぁ、んな訳だから1時間で準備させろ!」
ゴブリンの兵士は敬礼をすると急ぎ足で執務室を出て行った。そしてゴルダンは自分のデスクに積まれた書類をルルアンルに託し、武器を片手に執務室を去って行った。
ルルアンルは2人を見送った後、軽く溜息を吐きティーカップに紅茶を淹れ、飲み込んだ。
「さて、噛ませ犬を放ちましたし、どうなるか第三眼で拝見させて頂きますかね。」
ルルアンルは優しそうな笑みを浮かべ再び紅茶に口をつけた。
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奴隷商人の館の屋根の上で青白い市民服を纏った男ガララが、手鏡使い光を5度ほど街に建設された光の神の教会の塔に向かって反射させる。すると塔の方からも3度光の反射が返ってきた。そしてガララは再び2度光の反射を塔へ返すと、ガララの背後に黒とも藍とも紫ともとれる不思議な色をした渦が出現する。するとそこからは薄紫の長髪を後ろで一纏めにし、黒い衣装で身を包んだ妙年の女性が姿を現した。しかしその顔には異様な紋様が赤い塗料で描かれており、透き通るような白い肌と美しい造形の顔を隠している。
「お主から仕事の斡旋とは珍しい事もあるものよな。」
「ウロか。支部長直々のお出でとは珍しいな。」
「ほほほ。意趣返しされてしもうたな。して、報酬と内容はなんじゃ?」
「報酬は金貨300枚。内容は復讐殺害。未開の森に設けた奴隷商出張所が何者かによって廃墟とされ、そこにいた奴隷商の子息と従業員全員が殺された。」
「なるほどのぉ…。その額なら斥候、近接、魔導から各1名ずつ派遣してやるとするかのぉ。未開の森ならば…そうよなぁ。大凡、5日と言ったところかの?」
「わかった。依頼主にその件は伝えておこう。」
「良しなに。」
空間に渦巻いていた不思議な色の渦にウロが手を伸ばすと、吸い込まれるようにウロはその場から消え去った。渦が完全に消えて無くなるのを確認してから、ガララはその場に崩れ、呼吸を大きく乱していた。
「化け物め。味方にも関係なく殺気をぶつけやがって。あんな奴が支部長なんてやってたら、この町スクルトは廃墟と化すぞ。」
ガララは最近赴任してきた支部長ウロの事を毛嫌いしていた。ガララが契約を遵守するのに対し、ウロは気分で契約を簡単に破る無法者だからだ。だがその力は圧倒的で闇ギルド毒蛇でもトップ5に入る程と言われている。しかし力があろうとそのものを慕うのかと言うとそれはまた別問題だ。
ガララは呼吸を整えてから、支部長の話を伝える為に依頼主である奴隷商の屋敷へと戻って行った。
頑張ってもう一話投稿してみました。




