選ばれたドナーと少年の決意
選ばれたドナー
人を救うために。
誰かが犠牲にならなければならない。
そんな現実を、医師は何度も突きつけられる。
千年前。
天才貴族医師エレナ・フォン・アルシアもまた、その残酷な選択の前に立たされていた。
余命三日の少女リナ。
成功する保証のない移植手術。
そして、ついに見つかった適合者。
それは――
最も愛する息子、バーデラス。
母として。
医師として。
一人の人間として。
エレナは決して選びたくない運命を前に涙を流した。
だが。
少年は笑っていた。
「僕の命で助かるなら」
その優しさは、後に終焉神ゼロスとなる少年の本当の姿だった。
そして今。
その過去を見つめる若き貴族医師タクト。
彼の胸に、前世の記憶が蘇る。
「今度こそ」
「なんとかする」
過去を変えることはできるのか。
救えなかった命を救うことはできるのか。
運命を超える物語が、静かに始まろうとしていた。
第四十一話「選ばれたドナーと少年の決意」
忘却の間。
時の女神アイオニアが映し出す千年前の記憶。
エレナの手は震えていた。
「どうして……」
「どうしてこの子なの……」
その紙に書かれていた適合者。
それは――
バーデラス。
まだ幼い息子だった。
「お母さん?」
バーデラスは不安そうに見上げる。
「僕が……?」
エレナは息子を抱きしめた。
「駄目!」
「絶対に駄目!」
「あなたは私の息子よ!」
「母さん……」
◇◇◇
その光景を見ていたタクトの顔色が変わった。
「……あの時の記憶だ」
フィリアが振り向く。
「あなた?」
タクトは頭を押さえる。
「思い出した」
「前世で」
「同じことがあった」
救えなかった患者。
助けられなかった家族。
選択できなかった命。
星界の少女アステリアが涙を流す。
「先生……」
「また同じ悲しみが繰り返されるんですか?」
タクトは立ち上がった。
「違う」
「今度は違う」
「なんとかする」
エドガーも頷く。
「当然だ」
「諦めるには早い」
ミレイアは微笑んだ。
「それでこそレオニスの魂を継ぐ子」
ベルゼリオスも笑う。
「友よ」
「未来を知る者が過去を変えるか」
アイオニアは静かに首を振る。
「危険です」
「過去に干渉すれば、世界そのものが壊れるかもしれません」
「それでも!」
タクトは叫ぶ。
「子供にそんな選択をさせるなんて間違ってる!」
「医者なら!」
「親なら!」
「別の方法を探す!」
◇◇◇
記憶の中。
バーデラスは笑っていた。
「僕の命でリナが助かるなら」
「いいよ」
「駄目!」
エレナは泣き叫ぶ。
「母さん」
「リナは僕の友達だ」
「生きてほしい」
その優しい言葉に、エレナの涙は止まらなかった。
◇◇◇
その時。
第五の使徒の赤ん坊が突然立ち上がった。
「きゃっ!」
エマが驚く。
赤ん坊はタクトを見つめる。
「お父さん」
「先生」
「私が知ってる」
「もう一つの方法」
全員が凍りつく。
「え?」
赤ん坊の瞳が金色に輝く。
「お兄ちゃんを泣かせない」
「お母さんも泣かせない」
「だから」
「助ける」
アイオニアが立ち上がる。
「まさか!」
クロノスも震える。
「第五の使徒は……」
「未来を知っている?」
そして。
星界の少女アステリアは静かに微笑んだ。
「先生」
「今度こそ」
「みんなを助けてください」
その瞬間。
時の扉が開き始める。
過去と未来。
二つの時代が交わろうとしていた。
第四十二話「時を超える手術と二人の天才医師」へ続く――。
時を超える手術
第四十一話「選ばれたドナーと少年の決意」をお読みいただき、ありがとうございました。
ついに明らかになった適合者。
それは幼いバーデラスでした。
友達を救いたい。
誰かのためになりたい。
そんな優しい願いを持つ少年。
だからこそ、エレナは受け入れることができませんでした。
母として、息子を失うわけにはいかない。
しかし医師として、患者を見捨てることもできない。
答えのない苦しみ。
そして。
その記憶を見ていたタクトは、前世の後悔を思い出します。
「なんとかする」
その言葉に応えるように。
第五の使徒の小さな声が響きました。
「もう一つの方法」
未来を知る赤ん坊。
星界の少女アステリア。
時の女神アイオニア。
そして千年前の天才医師エレナ。
次回――
第四十二話「時を超える手術と二人の天才医師」
千年を超えて繋がる二人の医師。
過去と未来。
希望と絶望。
そして、一つの命を救うための奇跡の手術が始まる――。




