母の手術と絶望の宣告
天才貴族医師エレナ
王女として生まれながら。
人を救う道を選んだ一人の女性。
エレナ・フォン・アルシア。
王家から反対されても。
愛する人と駆け落ちし、全てを失っても。
彼女は医師であることを捨てなかった。
「命を諦めない」
それが彼女の信念。
そして今。
目の前には余命三日の少女リナ。
誰も成功させたことのない移植手術。
見つからないドナー。
尽きかける命。
天才と呼ばれても。
奇跡の医師と呼ばれても。
救えない命がある。
それでもエレナは諦めない。
患者が生きたいと願う限り。
医師は最後まで希望を捨てない。
だが。
運命は彼女に、最も残酷な選択を突きつけようとしていた――。
第四十話「母の手術と絶望の宣告」
手術室。
天才貴族医師エレナは、古びた医学書を閉じた。
少女リナを救う方法は一つ。
移植手術。
だが、そのためにはドナーが必要だった。
村人たちは沈黙する。
誰も名乗り出ない。
命を救うためとはいえ、自ら危険を背負う者はいなかった。
バーデラスは拳を握る。
「誰か……」
「誰かいないのかよ!」
◇◇◇
その頃。
タクトたちはアイオニアの見せる過去の記憶を見ていた。
フィリアは静かに呟く。
「もし今なら……」
「前の王都の第一王子アレスなら迷わず協力するでしょうね」
アレスは苦笑する。
「昔の私ならどうだったかな」
「だが今なら助けたいと思う」
ルクレシアの事件を乗り越えた彼は、少し優しい顔になっていた。
フィリアは微笑む。
「ええ」
「私も協力します」
リリアも前へ出る。
「先生」
「私もです」
「誰かを助けられるなら」
タクトは頷いた。
「リリアらしいね」
◇◇◇
記憶の中の過去。
しかし、その時代には彼らはいない。
エレナは必死に探し続ける。
そして現れたのは――
バーデラスの祖父母だった。
かつてエレナを追放した王家の者ではない。
村で静かに暮らしていた老夫婦。
「エレナさん」
「使ってくれ」
「え……?」
「リナちゃんは良い子だ」
「未来がある」
エレナは首を振る。
「危険です!」
「命を落とすかもしれません!」
老人は笑った。
「年寄りより」
「若い命だ」
◇◇◇
だが診察の結果。
適合しない。
手術はできなかった。
希望は消えた。
リナの呼吸はさらに弱くなる。
バーデラスは泣き崩れた。
「なんでだよ……」
「なんで助けられないんだよ!」
エレナも俯く。
天才医師と呼ばれても。
奇跡の医師と呼ばれても。
救えない命がある。
その現実が彼女を苦しめた。
◇◇◇
その夜。
リナは静かに目を開く。
「バーデラス」
「うん」
「泣かないで」
「でも……」
「ありがとう」
「友達になってくれて」
バーデラスは声を失う。
リナは微笑んだ。
そして。
「生きたいな……」
その一言が、少年の心を深く突き刺した。
◇◇◇
翌朝。
エレナは一枚の紙を見つめていた。
適合者の名前。
それを見た瞬間。
顔色が変わる。
「そんな……」
「嘘でしょう……」
バーデラスが駆け寄る。
「お母さん?」
エレナは震えていた。
適合者は見つかった。
だが。
それは絶対に選んではいけない人物だった。
「どうして……」
「どうしてこの子なの……」
絶望の宣告が下される。
そしてバーデラスは知る。
運命が、自分を逃がしてはくれないことを。
第四十一話「選ばれたドナーと少年の決意」へ続く――。
絶望の宣告
第四十話「母の手術と絶望の宣告」をお読みいただき、ありがとうございました。
少女リナを救うために必要な移植手術。
しかし、手術そのものより難しかったのは、適合するドナーを見つけることでした。
多くの願い。
多くの祈り。
それでも奇跡は簡単には起こりません。
そして。
ついに見つかった適合者。
本来なら喜ぶべき知らせ。
ですが、エレナの顔から笑顔は消えました。
「どうして……」
「この子なの……」
その言葉が意味するものとは何なのか。
なぜ天才医師エレナは絶望したのか。
そして。
バーデラスの運命は、どこへ向かうのでしょうか。
後に終焉神ゼロスとなる少年。
その優しい心に、最初の大きな傷が刻まれようとしています。
次回――
第四十一話「選ばれたドナーと少年の決意」
「僕の命で助かるなら……」
誰かを救うため。
少年は、自らの運命と向き合うことになる――。




