第二の使徒セレナと忘れられた約束
第二の使徒セレナ
終焉神ゼロスに仕える第二の使徒。
その名は、セレナ。
感情を捨てるよう教えられ、ただ命令に従う存在として生きてきた少女。
誰かを愛することも。
誰かに愛されることも知らない。
そんな彼女の心に、忘れていた記憶が蘇る。
「お父さん……」
前世の黒鯛拓真。
そして、今を生きるタクト・フォン・レーヴェン。
二つの魂が重なるその姿に、セレナは初めて涙を流した。
しかし。
愛する者を独り占めしたいと思う気持ち。
家族になりたいという願い。
それは時に誤解を生み、笑いを生み、そして新たな絆を生み出していく。
正妻であるフィリア。
娘のエマ。
弟子のリリア。
そして、新たに出会った使徒の少女。
誰も知らない。
終焉をもたらすはずだった少女が、やがて家族の温もりを知ることになるとは。
これは、忘れられた約束と、孤独だった少女が「おかえり」と迎えられる物語である。
第二十七話「第二の使徒セレナと忘れられた約束」
「お父さん……」
第二の使徒セレナの涙。
その言葉に、タクトは呆然としていた。
「僕は……」
「君のお父さんじゃない」
「でも」
「前世の僕は、君を知っていたのかもしれない」
セレナは泣きながら首を振る。
「違う!」
「お父さんは、お父さん!」
「ずっと会いたかった!」
◇◇◇
現実世界。
「第二夫人?」
フィリアの顔が引きつる。
「え?」
リリアも固まる。
「ええっ!?」
エドガーは吹き出した。
「ぶはっ!」
「貴様、何をやらかした!」
エマは首を傾げる。
「お父さん、お嫁さん増えるの?」
「増えません!」
フィリアは即答した。
「絶対に!」
◇◇◇
意識の世界。
セレナは涙を流しながらタクトに抱きつく。
「もう離れたくない!」
「私、お父さんのお嫁さんになる!」
「え?」
「第二夫人になる!」
クロノスは頭を抱えた。
「待ちなさい!」
「話がおかしな方向へ行っている!」
タクトも慌てる。
「違う!」
「君は娘みたいな存在で!」
しかし。
その光景を見たフィリアが意識の世界へ入り込んできた。
「あなた?」
笑顔。
しかし目が笑っていない。
「説明してもらえるかしら?」
「フィ、フィリア!?」
「第二夫人?」
「娘?」
「お嫁さん?」
「どういうこと?」
◇◇◇
タクトは真っ青になる。
「違う!」
「誤解だ!」
「僕にも分からない!」
フィリアは静かに怒る。
「あなた」
「私は怒っているわけじゃないの」
「ただ」
「少し嫉妬しているだけ」
「え?」
「だって」
「あなたは私の夫だもの」
「他の女の子が『お嫁さんになる!』なんて言ったら」
「妻として気になるわ」
タクトは冷や汗を流す。
「ごめん……」
「別にあなたが悪いわけじゃないわ」
「でも」
「正妻は私です!」
「は、はい!」
◇◇◇
その時。
エマが飛び込んできた。
「お母さん!」
「怒っちゃだめ!」
「家族になればいいんだよ!」
「エマ?」
「セレナお姉ちゃん、泣いてる!」
「お父さん困ってる!」
「みんな仲良し!」
ベルゼリオスは大笑いした。
「はっはっは!」
「友よ!」
「修羅場だな!」
エドガーも笑い転げる。
「勝負より面白い!」
アザルは涙を流す。
「先生……」
「相変わらず人を引き寄せますね」
◇◇◇
その時。
セレナはフィリアの前で頭を下げた。
「ごめんなさい」
「お母さんを困らせるつもりはありませんでした」
「私は……」
「家族が欲しかっただけ」
フィリアは目を丸くする。
「……え?」
「家族?」
セレナは泣いていた。
「一人は嫌」
「寂しい」
「誰かに『おかえり』って言ってほしかった」
フィリアの怒りは消えていた。
優しくセレナを抱きしめる。
「馬鹿な子」
「そんなことなら最初から言いなさい」
「え?」
「第二夫人は駄目」
「でも」
「娘なら歓迎するわ」
「お母さん……」
「私はフィリア」
「お母さんでもいいわよ」
◇◇◇
その様子を見ていた終焉神ゼロスは初めて顔を曇らせた。
「なぜだ」
「なぜ憎まない」
「なぜ愛する」
そして。
さらに古き存在。
時の狭間で、一人の女性が目を開く。
「ようやく始まったのですね」
「クロノス」
「私の番です」
世界最古の神。
時の女神――。
彼女が静かに微笑んだ。
第二十八話「時の女神と家族になった使徒」へ続く――。
フィリア・フォン・レーヴェン
第二十七話をお読みいただき、ありがとうございました。
今回は、少し複雑なお話でした。
突然現れた第二の使徒セレナ。
そして、「お父さん」「お嫁さん」「第二夫人」という、とんでもない言葉。
正直に言えば。
私は少し嫉妬しました。
だって、タクトは私の大切な夫ですから。
他の女の子に抱きつかれて平気な妻なんて、そうそういません。
でも。
セレナの涙を見た時、分かってしまったのです。
この子は誰かを奪いたいわけじゃない。
ただ、寂しかっただけ。
「おかえり」と言ってくれる家族が欲しかっただけ。
だから、第二夫人は駄目です。
それは絶対です。
でも――。
娘なら大歓迎。
エマもきっと喜んでくれるでしょう。
お腹の中の新しい命も、きっと優しい兄弟姉妹に囲まれて育っていくはずです。
そして、終焉神ゼロスでさえ理解できないものがあります。
それは、家族の愛。
血の繋がりだけではない絆。
それこそが、タクトたちが守ろうとしているものなのかもしれません。
次回。
「第二十八話 時の女神と家族になった使徒」
ついに、クロノスよりも古き存在。
世界最古の神――時の女神が姿を現します。
新たな運命と共に。
家族の物語は、さらに続いていくのでした。




