涙の使徒アザルと第二の使徒
第二の使徒セレナ
終焉神ゼロスに仕える第二の使徒。
その名は――セレナ。
四枚の翼を持ち、静かなる絶望を司る少女。
第一の使徒アザルとは違い、彼女は感情を持たぬ使徒として育てられた。
悲しみも。
喜びも。
愛することも。
全て不要だと教えられて。
ただ主の命令に従う存在。
それが第二の使徒セレナだった。
しかし、運命は残酷だった。
タクト・フォン・レーヴェン。
前世の名、黒鯛拓真。
彼と出会った瞬間。
忘れていた涙。
忘れていた温もり。
そして、忘れていた「お父さん」という言葉が蘇る。
「どうして……」
「どうして涙が……」
主であるゼロスに与えられた使命。
愛する者との再会。
二つの想いの狭間で、少女の心は揺れ始める。
それは絶望か。
それとも希望か。
誰にも分からない。
ただ一つ。
千年を超えた約束と、新たな家族の物語は、まだ終わらない。
第二十六話「涙の使徒アザルと第二の使徒」
「先生……」
第一の使徒アザルは膝をつき、涙を流していた。
「私は……何のために千年も……」
タクトは静かに手を差し伸べる。
「苦しかったんだね」
「もう一人で抱えなくていい」
エドガーも顔を背けながら言った。
「馬鹿弟子」
「兄弟子を差し置いて勝手に泣くな」
アザルは思わず笑った。
「兄弟子……」
「久しぶりですね」
◇◇◇
しかし。
天界。
終焉神ゼロスの玉座の前。
銀色の髪を揺らす少女が跪いていた。
第二の使徒――セレナ。
「主様」
「第一の使徒は光に堕ちました」
「ならば私が」
「希望を消しましょう」
ゼロスは微笑む。
「セレナ」
「その前に」
「会わせてやろう」
「?」
巨大な扉が開く。
そこには、一人の老人がいた。
白い髪。
優しい瞳。
どこか懐かしい笑顔。
「久しぶりですね」
「黒鯛拓真さん」
◇◇◇
その頃。
タクトは激しい頭痛に襲われる。
「うっ……!」
フィリアが支える。
「あなた!」
「大丈夫!?」
タクトの意識は白い空間へと引き込まれた。
「ここは……」
そこに立っていたのは、一人の老人。
「やあ」
「久しぶりだね」
「誰……ですか?」
老人は微笑んだ。
「私はクロノス」
「魂の案内人」
「君をこの世界へ送り出した者だ」
タクトは驚く。
「え?」
「僕を?」
「そう」
「交通事故で死んだ君を」
「この世界へ導いたのは私だ」
「なぜ!?」
クロノスは静かに答える。
「レオニス」
「ベルゼリオス」
「ネメシス」
「そしてアザル」
彼らの願いを終わらせる者が必要だった」
「だから君を選んだ」
◇◇◇
「ふざけるな!」
タクトは叫ぶ。
「勝手に!」
「家族も!」
「人生も!」
「全部失ったんだ!」
クロノスは悲しそうに目を閉じた。
「そうだ」
「だから恨んでくれて構わない」
「だが」
「君は失っただけだったかな?」
タクトの脳裏に浮かぶ。
フィリア。
エマ。
リリア。
エドガー。
アザル。
ベルゼリオス。
そして、お腹の中の新しい命。
「……違う」
「僕は」
「家族を手に入れた」
クロノスは優しく笑った。
「そうか」
「なら良かった」
◇◇◇
その時。
セレナが現れた。
「案内人クロノス」
「主の命令です」
「その魂」
「消えてもらいます」
「第二の使徒!」
クロノスは驚く。
「セレナ!」
しかし。
セレナはタクトを見ると固まった。
「え……」
「そんな……」
「あなた……」
「どうして……」
涙がこぼれる。
「お父さん……?」
タクトも驚く。
「え?」
クロノスが目を見開いた。
「まさか!」
「セレナ……」
「君は!」
第二の使徒セレナ。
彼女は、黒鯛拓真が前世で事故の日に助けられなかった少女。
その魂をゼロスが拾い、使徒として育てていた。
「やっと会えた……」
「お父さん……」
涙を流すセレナ。
そして。
終焉神ゼロスが静かに笑った。
「これで良い」
「希望は、最も愛する者によって壊される」
「さあ」
「第二の使徒よ」
「白き賢医を絶望させるのだ」
涙の再会。
運命の親子。
そして、真実を知ったタクト。
その先に待つものとは――。
第二十七話「第二の使徒セレナと忘れられた約束」へ続く――。
クロノス
第二十六話をお読みいただき、ありがとうございました。
ついに姿を現した、魂の案内人クロノス。
彼こそ、交通事故によって命を落とした黒鯛拓真を異世界へ送り出した存在でした。
しかしクロノスは神ではありません。
世界を見守り。
魂を導き。
時の流れを記録する者。
それがクロノスです。
だからこそ。
彼は知っていました。
レオニスの願い。
ベルゼリオスの孤独。
ネメシスの悲しみ。
アザルの絶望。
そして、タクト・フォン・レーヴェンが新たな家族を得る未来を。
「恨んでくれて構わない」
その言葉に嘘はありません。
クロノスもまた、多くの別れを見てきたからです。
しかし。
彼はタクトに問いかけました。
「失っただけだったかな?」
その答えは、フィリアの笑顔。
エマの笑顔。
リリアや仲間たち。
そして、お腹の中で育つ新たな命でした。
クロノスは願っています。
今度こそ。
千年前に果たせなかった約束が叶うことを。
そして――
彼自身もまだ知らないのです。
終焉神ゼロスよりも古く。
世界の始まりを知る「時の女神」が、静かに目覚めようとしていることを。
新たな運命は、すぐそこまで迫っていたのでした。




