襲来する使徒と生まれる命の約束
第一の使徒アザル
終焉神ゼロスに仕える第一の使徒。
その名は――アザル。
六枚の黒き翼を持ち、人々から恐れられる存在。
しかし、彼は生まれながらの使徒ではなかった。
千年前。
孤児だった少年アザルは、白き賢医レオニス・ヴァレンハートに拾われた。
兄弟子エドガーと共に医術を学び、人々を救うことを夢見ていた。
「先生のような医者になります!」
そう笑っていた少年。
だが、疫病と絶望は幼きアザルから希望を奪った。
救えなかった命。
消えていった故郷。
泣き叫ぶ人々。
そして彼は、終焉神ゼロスの囁きに導かれる。
「苦しみを終わらせればいい」
「世界そのものが終われば、誰も悲しまない」
その言葉を信じ、第一の使徒となった。
しかし。
千年経った今も、アザルの心の奥には消えない願いがあった。
「先生……」
「どうか、私を止めてください」
そして。
若き貴族医師タクト・フォン・レーヴェンは、苦しむ者を見捨てない。
それが病であろうと。
それが友であろうと。
それが敵であろうと。
希望の灯は、まだ消えていない。
第二十五話「襲来する使徒と生まれる命の約束」
「お母さん、大丈夫?」
エマはフィリアのお腹に耳を当てていた。
「うん」
「元気に育っているわ」
フィリアは優しく微笑む。
タクトも嬉しそうに妻の肩を抱いた。
「今度は弟かな?」
「妹かもしれないわよ?」
リリアも笑う。
「楽しみですね!」
エドガーは腕を組みながらそっぽを向いた。
「ふん」
「騒がしい家族だ」
「だが、悪くない」
その時だった。
ドォォォン!!
診療所の外で空が裂ける。
黒い羽。
六枚の翼。
漆黒の鎧。
赤い瞳。
「来たか……」
ベルゼリオスが立ち上がる。
「第一の使徒」
「アザル!」
◇◇◇
「久しいな」
「大魔王ベルゼリオス」
アザルは静かに降り立った。
ヴァルゼノスも険しい表情を浮かべる。
「ゼロスの犬め」
「犬ではない」
「我が主の意思だ」
アザルの目がタクトに向けられる。
「やはり……」
「その顔」
「その瞳」
「間違いない」
タクトは身構える。
「君は?」
「なぜ僕を知っている?」
アザルは小さく笑った。
「忘れたか?」
「無理もない」
「千年は長い」
「レオニス」
リリアたちが驚く。
「え?」
「先生を知ってるの?」
◇◇◇
ベルゼリオスは目を閉じた。
「そうか……」
「お前だったか」
「父上?」
ヴァルゼリオスが尋ねる。
「知っているのですか?」
「知っているとも」
「アザル」
「こやつは……」
「レオニスの弟子だ」
「え?」
今度はエドガーが叫んだ。
「馬鹿な!」
「弟子は私だけではなかったのか!?」
アザルは笑った。
「兄弟子よ」
「百五十年ぶりだな」
エドガーの顔が青ざめる。
「アザル……」
「生きていたのか」
◇◇◇
千年前。
孤児だった二人。
エドガーとアザル。
二人を拾い育てたのが白き賢医レオニス・ヴァレンハートだった。
「先生!」
「僕も医者になります!」
幼いアザルは笑っていた。
しかし。
ある日。
疫病で村が滅んだ。
助けられなかった人々。
泣き叫ぶ子供たち。
その時。
絶望したアザルの前に現れたのが終焉神ゼロスだった。
『救えないなら終わらせればいい』
『苦しみもなくなる』
『絶望も消える』
アザルは神の言葉に従ってしまった。
◇◇◇
「タクト」
「いや」
「レオニス先生」
「私は待っていた」
「先生なら」
「世界を終わらせる私を止めてくれると」
タクトは驚く。
「止める?」
「そうだ」
「私は……」
「助けてほしいのだ」
赤い瞳から涙が流れる。
「私は疲れた」
「終わらせたいわけではない」
「誰かに止めてほしかった」
ベルゼリオスは悲しそうに呟く。
「アザル……」
エドガーは拳を握る。
「馬鹿者」
「勝手に一人で苦しみおって」
タクトは静かに前へ出た。
「僕はレオニスじゃない」
「タクト・フォン・レーヴェンだ」
「でも」
「君を見捨てない」
「患者を見捨てないように」
「苦しんでいる友達も見捨てない」
アザルは涙を流した。
「先生……」
その瞬間。
天界。
終焉神ゼロスが目を開く。
「やはり」
「我が使徒も光に惹かれるか」
「ならば」
「第二の使徒を送ろう」
そして。
フィリアはお腹に手を当てながら呟いた。
「あなた」
「この子はきっと」
「希望を運んできてくれるわ」
タクトは優しく微笑んだ。
「うん」
「みんなで守ろう」
千年前の師弟。
千年前の悲しみ。
そして生まれようとしている新しい命。
その全てが繋がる時、
新たな試練が始まる――。
第二十六話「涙の使徒アザルと第二の使徒」へ続く――。
第二の使徒
第二十五話をお読みいただき、ありがとうございました。
第一の使徒アザル。
彼は敵でありながら、かつては白き賢医レオニスの弟子でした。
その悲しみと絶望は、タクトたちによって少しずつ癒されようとしています。
しかし、終焉神ゼロスは止まりません。
一人の使徒が揺らいだのなら。
新たな使徒を送り込むのみ。
そして、天界の深淵。
漆黒の扉の向こうで、一人の少女が静かに目を開く。
「お呼びですか、主様」
銀色の長髪。
蒼く冷たい瞳。
背中に生える四枚の翼。
終焉神ゼロスに最も忠実なる存在。
第二の使徒――
セレナ。
「第一の使徒アザルは弱くなりました」
「ならば私が、希望という名の幻想を壊しましょう」
その声に、ゼロスは静かに微笑む。
「行け」
「白き賢医の子孫に絶望を教えてやれ」
そして、地上では。
新たな命が生まれようとしていた。
新たな家族。
新たな弟子。
そして、新たな敵。
光と闇が交わる時。
第二の使徒セレナが、ついに動き出す――。




