第一の使徒アザルと家族の診療所
家族の診療所
戦いが終われば、また誰かが病に苦しむ。
病が癒えれば、また新しい命が生まれる。
それが世界の営み。
若き貴族医師タクト・フォン・レーヴェンは、多くの仲間と共に今日も診療所を開いていた。
妻フィリア。
娘エマ。
弟子のリリア。
そして、神手の医師エドガー。
人間も魔族も、身分も種族も関係なく訪れるレーヴェン診療所は、いつしか「家族の診療所」と呼ばれるようになっていた。
しかし、平和を願う者たちを快く思わない者もいる。
王都では第一王子アレスが新たな婚約を結び、終焉神ゼロスは最初の使徒を地上へ送り出そうとしていた。
それでも。
笑顔は消えない。
希望は失われない。
そして、新たな命の訪れは、家族にさらなる幸せを運ぼうとしていた。
これは、守るべき人たちのために歩み続ける者たちの物語。
そして、家族の絆が世界を照らす物語である。
第二十四話「第一の使徒アザルと家族の診療所」
第一の使徒アザルが地上へ降り立ってから数日。
世界は静かな日常を取り戻したかのように見えた。
グラ=ネヴァにあるレーヴェン診療所。
「次の患者さんどうぞ!」
リリアが元気よく声をかける。
「お父さん!」
「私もお手伝いする!」
エマも包帯を運んでいる。
「慌てなくていいよ」
タクトは笑顔で娘の頭を撫でた。
エドガーも隣で腕を組む。
「ふん」
「見習いばかり増えおって」
「賑やかでいいじゃないですか」
「貴様は呑気だな」
そんな穏やかな時間が流れていた。
◇◇◇
一方、フェルディア王国。
第一王子アレス・エル・フェルディアの婚約が発表された。
相手は王都でも有名な大貴族。
ルクレシア・フォン・ヴァルディア。
美貌と知性を兼ね備えた令嬢であった。
しかし。
王都の民は歓迎しなかった。
「また政略結婚か」
「王女フィリア様の方がよかった」
「国王陛下は何も言わないのか?」
だが、誰も口には出せない。
第一王子に逆らう者はいなかった。
◇◇◇
「見せしめにしてやる」
アレスは冷たく笑った。
「タクトたちを呼べ」
「姉上もだ」
「私の婚約を祝わせてやる」
しかし、返ってきた返事は簡潔だった。
『患者の診療があるため、出席できません』
アレスは顔を真っ赤にした。
「断っただと!?」
「この私を!」
しかし国王アルバートは静かに笑った。
「当然だ」
「医師とはそういうものだ」
「患者より優先する祝宴などない」
「父上!」
「だから甘いのです!」
アレスは怒りに震えた。
◇◇◇
その頃。
フィリアは少し体調を崩していた。
「大丈夫?」
タクトが優しく尋ねる。
「ええ……」
「少し眠いだけ」
エドガーが顔色を見て驚いた。
「馬鹿者!」
「すぐ診察しろ!」
「え?」
「お前、医者だろう!」
「はい?」
しばらくして。
タクトは目を丸くした。
「本当……?」
フィリアは涙を浮かべる。
「ええ」
「あなた」
「第二子よ」
「え?」
エマが飛び跳ねた。
「妹!?」
「弟!?」
リリアも泣いて喜ぶ。
「おめでとうございます!」
ベルゼリオスは大笑いした。
「友よ!」
「めでたい!」
エドガーは顔を赤くしながらそっぽを向く。
「ふん!」
「騒がしい家族だ」
「だが……悪くない」
フィリアはお腹に手を当てた。
「また家族が増えるのね」
タクトは優しく妻を抱き寄せる。
「ありがとう」
「みんなで守ろう」
◇◇◇
しかし。
遠く離れた荒野。
六枚の黒い翼を持つ男が立っていた。
第一の使徒アザル。
「家族……か」
「くだらぬ」
「その笑顔」
「私が絶望に変えてやろう」
赤い瞳が輝く。
そして。
終焉神ゼロスの最初の使徒が、ついにレーヴェン診療所へ向けて歩き始める――。
第二十五話「襲来する使徒と生まれる命の約束」へ続く――。
新しい命
第二十四話をお読みいただき、ありがとうございました。
今回の物語では、戦いではなく「日常」が描かれました。
患者たちの笑顔。
家族との食卓。
弟子たちの成長。
そんな穏やかな時間こそ、タクトたちが守りたい未来なのかもしれません。
そして、フィリアのお腹には新しい命が宿りました。
エマにとっては弟か妹。
リリアにとっては新しい家族。
ベルゼリオスやエドガーにとっても、かけがえのない存在になるでしょう。
一方で、第一王子アレスは自らの道を進み続けます。
そして、終焉神ゼロスの使徒アザルもまた、静かに牙を研いでいました。
平和な日々の裏で近づく新たな脅威。
しかし、どんな困難が訪れようとも。
家族の笑顔がある限り。
仲間たちがいる限り。
若き貴族医師タクト・フォン・レーヴェンは立ち止まりません。
次回。
「第二十五話『襲来する使徒と生まれる命の約束』」
新たな命と、新たな戦い。
その先に待つ未来を信じて――。




