新たなる弟子と終焉神ゼロスの使徒
レオン・エル・フェルディアと父
レオン・エル・フェルディアは、幼い頃から父の背中を見て育った。
フェルディア王国国王――アルバート・エル・フェルディア。
争いを嫌い、民を愛し、人間と魔族の共存を夢見た王。
その理想は、多くの者に愛された。
しかし、同時に多くの者から「甘い王」とも呼ばれていた。
幼いレオンは、そんな父が好きだった。
「王になる前に、人でありなさい」
「身分より先に、困っている人に手を差し伸べなさい」
「それがフェルディア王家だ」
父の言葉は、今もレオンの心に生きている。
そして姉フィリアもまた、父と同じ道を歩んでいた。
人を愛し。
家族を愛し。
争いよりも平和を願う。
だからこそレオンは決意した。
「僕も父上や姉上のようになりたい」
「義兄上のように、人を救える人間になりたい」
その想いを胸に、若き第三王子は王族の身分よりも「弟子」としての道を選ぶ。
知らず知らずのうちに、父アルバートの願いは、息子たちの中に受け継がれていたのである。
第二十三話「新たなる弟子と終焉神ゼロスの使徒」
「成功です!」
リリアの声が手術室に響く。
千年の眠りから目覚めたアイリス。
その命は、タクトとエドガー、二人の医師によって繋ぎ止められた。
「ふん」
「当然だ」
エドガーは汗を拭いながら笑う。
「勝負は預けておいてやる」
タクトも笑顔を浮かべた。
「また一緒に手術しましょう」
「誰が貴様なんかと!」
そう言いながらも、エドガーの顔はどこか嬉しそうだった。
◇◇◇
その頃。
ドレイゴーストに新たな客人が訪れる。
「姉上!」
「レオン!」
フィリアの弟、レオン・エル・フェルディア。
そして、その後ろから現れた男に、フィリアの顔が凍りつく。
「兄上……」
赤いマント。
黄金の王冠。
厳しい瞳。
フェルディア王国第一王子。
アレス・エル・フェルディア。
「久しぶりだな、愚かな妹よ」
「兄上……」
レオンは怒る。
「兄上!」
しかしアレスは冷たく笑った。
「クソな弟め」
「平和など願いよって」
「そんな甘い考えだから父上と同じになるのだ」
◇◇◇
アレスの視線はタクトへ向く。
「お前が貴族医師か」
「父上も妹も、ずいぶん気に入っているようだな」
「だが、認めん」
「平和だと?」
「人間も魔族も共存だと?」
「馬鹿げている!」
フィリアが立ち上がる。
「兄上!」
「その言葉は!」
「黙れ!」
アレスの怒声が響く。
「今後、フィリア・フォン・レーヴェン」
「お前の王都への出入りを禁止する!」
「そして!」
「タクト・フォン・レーヴェン!」
「貴族医師の資格は認める」
「だが、王都への立ち入りは禁止だ!」
エマがフィリアの後ろに隠れる。
「怖い……」
レオンは拳を握る。
「兄上!」
「姉上たちは人を救っているんだ!」
「魔族も人間も!」
「それの何が悪い!」
アレスは弟を睨みつける。
「父上と同じ奴め」
「甘い理想ばかり語りおって」
「だから国は弱くなるのだ」
◇◇◇
その時。
大魔王ベルゼリオスが静かに立ち上がった。
「ほう」
「我が友を追放するか」
アレスは凍り付く。
「だ、大魔王……!」
「人間の王子よ」
「我は平和を望む」
「それが気に入らぬか?」
ヴァルゼノスも笑った。
「ならば我ら魔族は、タクトたちを歓迎しよう」
「グラ=ネヴァも、ドレイゴーストも家族だ」
アレスは舌打ちした。
「化け物どもめ」
「好きにしろ」
「だが王都には二度と入れるな」
そう言い残し、転移魔法で去っていった。
◇◇◇
レオンは深く頭を下げた。
「すみません」
「兄上は昔から……」
タクトは優しく笑った。
「いいよ」
「いつか分かってくれる」
「だから、弟子志願は本気?」
レオンの目が輝く。
「はい!」
「人を救う力を学びたい!」
「姉上や義兄上のように!」
「なら歓迎する」
リリアも笑顔になる。
「後輩ですね!」
エマも飛び跳ねる。
「おじちゃんも家族!」
「おじちゃんじゃない!」
レオンは苦笑した。
◇◇◇
だが、その時。
天界。
終焉神ゼロスの前に、一人の男が跪く。
黒い鎧。
六枚の翼。
「我が主」
「命令を」
ゼロスは静かに笑う。
「行け」
「第一の使徒」
「アザル」
「白き賢医の希望を絶望に変えてこい」
赤い瞳が開かれる。
「御意」
そして、終焉の使徒が地上へ降り立つ。
第二十四話「第一の使徒アザルと家族の診療所」へ続く――。
アレス・エル・フェルディア
第二十三話をお読みいただき、ありがとうございました。
今回登場した第一王子アレス・エル・フェルディア。
彼は決して悪人ではありません。
しかし、誰よりも「国を守ること」に執着している人物です。
父アルバート王の理想。
妹フィリアの優しさ。
弟レオンの純粋さ。
それらを否定するのは、憎いからではありません。
むしろ逆でした。
優しすぎる父を見てきた。
民のために苦しみ続ける父を見てきた。
だからこそアレスは思ったのです。
「優しさだけでは国は守れない」
「強くならなければならない」
「平和など、力がなければ守れない」
その考えは、いつしか頑なな信念となりました。
そして、平和を語る者を見るたびに、父の姿を重ねてしまうのです。
「父上と同じ奴め」
その言葉には怒りだけでなく、誰にも理解されない孤独がありました。
第一王子として。
次代の王として。
彼もまた、自分なりに国を愛しているのです。
しかし、アレスはまだ知りません。
自らが嫌った父の優しさこそが、千年を超えて世界を救う力になることを。
そして、いつの日か。
兄妹が再び笑い合える日が来ることを――。




