千年の命と白き賢医の奇跡
フィリア・フォン・レーヴェン
人は愛する人のために強くなれる。
フィリア・フォン・レーヴェンは、そう信じていた。
かつてフェルディア王国第一王女だった彼女は、身分や地位よりも大切なものを知った。
夫である若き貴族医師タクト。
愛娘エマ。
弟子であり家族でもあるリリア。
そして、人間も魔族も共に笑い合える未来。
それが、彼女の守りたいものだった。
千年前の王女アイリス。
その面影を感じるたび、フィリアの胸は不思議な温もりに包まれる。
「私は私」
「でも、あの人の願いも守りたい」
そう思うようになっていた。
そして今。
千年の眠りから目覚めたアイリスを救うため、タクトと神手の医師エドガーは命を懸けた手術に挑んでいる。
フィリアにできることは少ない。
ただ、信じて待つこと。
そして、帰る場所であり続けること。
そんな彼女の前に現れたのは、懐かしい顔。
幼い頃から可愛がってきた弟、レオン・エル・フェルディア。
成長した弟は、王族の道ではなく、人を救う道を歩みたいと願っていた。
家族の絆。
千年前から続く約束。
終焉を望む神ゼロスの脅威。
すべてが動き出す中で、フィリアは改めて心に誓う。
「私は、みんなの笑顔を守りたい」
これは、一人の王女であり、一人の妻であり、一人の母でもあるフィリア・フォン・レーヴェンが、大切な人たちと共に未来を歩む物語である。
第二十二話「千年の命と白き賢医の奇跡」
「メス」
「はい!」
タクト・フォン・レーヴェンとエドガー・シュバリエ。
二人の医師による大手術が始まった。
千年の眠りから目覚めたアイリス。
彼女の肺は病に侵され、壊死した部分も広がっている。
「ここだ!」
「病巣を切除する!」
エドガーが正確な手つきで病巣を切り離す。
「出血!」
「僕が止めます!」
タクトが魔法と医術を組み合わせて処置する。
リリアは汗を拭いながら補助を続ける。
「先生!」
「脈拍安定しています!」
フィリアは祈ることしかできなかった。
「アイリス様……」
「どうか……」
◇◇◇
その頃。
グラ=ネヴァから一人の青年がドレイゴーストへやってきた。
金色の髪。
蒼い瞳。
どこかフィリアに似た優しい顔立ち。
「姉上はここですか?」
衛兵たちが驚く。
「まさか!」
「フィリア王女の弟!」
青年は微笑んだ。
「元第三王子」
「レオン・エル・フェルディアと申します」
「姉上に会いに来ました」
◇◇◇
フィリアは目を丸くした。
「レオン!?」
「大きくなったのね!」
「姉上こそ」
「幸せそうで安心しました」
エマが首を傾げる。
「おじちゃん?」
「そうだよ」
「君のおじさんだ」
レオンは笑顔を見せた。
しかし、その視線は手術室へ向く。
「噂は聞いています」
「若き貴族医師タクト・フォン・レーヴェン」
「姉上の夫」
「そして……」
「神手の医師エドガー・シュバリエ」
◇◇◇
レオンは静かに頭を下げた。
「お願いがあります」
「私を弟子にしてください」
リリアが驚く。
「ええっ!?」
「王子様が!?」
「王子ではありません」
「今はただのレオンです」
「姉上を見ていて思ったのです」
「身分では人は救えない」
「人を救う力を学びたい」
「だから」
「弟子にしてください!」
◇◇◇
その時。
手術室からエドガーの怒鳴り声が響いた。
「馬鹿者!」
「弟子など後だ!」
「今は患者を救う!」
「タクト!」
「縫合だ!」
「はい!」
二人の医師は汗だくになりながら、命を繋ぎ続けていた。
そして――
ピッ……
静かだった魔導測定器に力強い音が戻る。
「脈拍正常!」
「呼吸安定!」
リリアが涙を流す。
「先生!」
「成功です!」
フィリアも泣いていた。
ベルゼリオスは空を見上げる。
「友よ……」
「約束を果たしたな」
すると、眠るアイリスの指が微かに動いた。
「レオニス……様……」
「いいえ……」
「タクト様……」
「お帰りなさい……」
その瞬間。
遠く天界で、終焉を望む神ゼロスが目を開く。
「白き賢医の奇跡か」
「ならば次は」
「神が相手だ」
そして、世界を覆う終焉の影が動き始める。
第二十三話「新たなる弟子と終焉神ゼロスの使徒」へ続く――。
エマ・フォン・レーヴェン
第二十二話をお読みいただき、ありがとうございました。
今回、千年越しの大手術は成功しました。
大人たちが涙を流し、安堵する中。
一番最初に笑顔になったのは、小さな少女でした。
エマ・フォン・レーヴェン。
タクトとフィリアの娘。
まだ幼い彼女には、千年前の約束も、神々の争いも、終焉の脅威もよく分かりません。
でも、エマには一つだけ分かることがあります。
「お父さんは人を助ける人」
「お母さんは優しい人」
「リリアお姉ちゃんは大好き」
それだけで十分でした。
「お父さん、すごい!」
「エドガー先生もすごい!」
「アイリスお姉ちゃんも元気になるよ!」
そんな無邪気な言葉に、大人たちは何度も救われてきました。
エドガーもまた、エマには弱いようです。
「おじちゃん!」
と呼ばれるたびに、
「誰がおじちゃんだ!」
と怒りながらも、頭を撫でてしまいます。
そしてエマは知りません。
自分が生まれたこと。
笑顔でいてくれること。
それ自体が、タクトやフィリアにとって、何よりの奇跡であることを。
「みんなでご飯食べよう!」
「みんなで笑おう!」
それがエマの願いです。
きっと千年前のアイリスも。
白き賢医レオニスも。
大魔王ベルゼリオスも。
そんな当たり前の幸せを守りたかったのでしょう。
次回。
新たな弟子を志願するレオン。
そして終焉神ゼロスが送り込む最初の使徒。
世界に再び迫る危機の中でも、
小さな笑顔は今日も変わらず輝き続けます。
「みんな仲良しが一番!」
それが、エマ・フォン・レーヴェンの小さな願いなのです。




