神手の医師エドガーと始まりの手術
タクト・フォン・レーヴェン
人は誰かを救うために生きる。
それがどれほど困難でも。
どれほど絶望的でも。
若き貴族医師タクト・フォン・レーヴェンは、そう信じていた。
前世は日本の医師、黒鯛拓真。
異世界に転生し、多くの出会いと別れを経験してきた。
妻フィリア。
娘エマ。
弟子のリリア。
そして人間、魔族、エルフ。
種族を超えて支え合う家族と仲間たち。
その旅の果てに辿り着いたドレイゴーストで、タクトは千年前の真実を知る。
白き賢医レオニス・ヴァレンハート。
大魔王ベルゼリオス。
神を喰らう者ネメシス。
三人が交わした約束。
そして、病に苦しむ忘れられた王女アイリス。
「必ず治す」
果たせなかった約束は、千年の時を超えて再び動き始めた。
だが、その道は決して平坦ではない。
終焉を望む神ゼロス。
世界を滅ぼそうとする神々。
そして、神手の医師エドガー・シュバリエ。
ライバルであり、同じ志を持つ医師。
「勝負だぞ!」
「でも、患者を助けるのが先だ」
恩師レオニスの教えを胸に、二人の医師は共に手術台へ向かう。
救いたい命がある。
守りたい未来がある。
だから、タクト・フォン・レーヴェンは諦めない。
これは、千年を超えて受け継がれる医師たちの願い。
そして――
一人の若き貴族医師が、世界と命を守り続ける物語である。
第二十一話「神手の医師エドガーと始まりの手術」
「肺の病巣が広がっている……」
アイリスの診察を終えたタクトは深刻な表情を浮かべた。
「薬だけでは間に合わない」
「手術が必要だ」
エドガー・シュバリエも腕を組む。
「厄介だな」
「肺の奥深くまで病巣が広がっている」
「しかも千年の眠りの影響で身体も弱っている」
フィリアは不安そうに尋ねる。
「助かるの?」
エドガーは静かに答えた。
「困難だ」
「成功する保証はない」
「私一人でも難しい」
タクトも頷いた。
「僕一人でも無理かもしれない」
「でも」
「助けたい」
◇◇◇
「ならば勝負だ!」
エドガーは笑った。
「どちらが優れているか!」
「いや」
「どちらが患者を救えるかだ!」
「勝負?」
リリアが首を傾げる。
エドガーは不敵に笑う。
「そうだ」
「貴様の腕と私の腕」
「どちらが患者の命を救うか」
「負けるつもりはない」
タクトも笑った。
「僕もです」
「でも」
「患者を助けるのが一番です」
「ふっ」
「気に入らん」
「だが、その答えは嫌いじゃない」
◇◇◇
手術室。
二人の医師が並ぶ。
周囲にはリリア、アリシア、フィリア、ベルゼリオスたち。
誰もが祈っていた。
その時だった。
エドガーの脳裏に、懐かしい光景が浮かぶ。
まだ幼かった頃。
ボロボロの自分を拾ってくれた男。
白き賢医レオニス・ヴァレンハート。
「先生!」
「一人で全部できる医者になります!」
若きエドガーに、レオニスは優しく笑った。
「エドガー」
「医者は一人じゃない」
「患者を助けるためなら」
「誰とでも力を合わせなさい」
「競い合うことは悪くない」
「だが」
「最後に勝つべき相手は病だ」
「患者じゃない」
◇◇◇
「先生……」
エドガーの目から涙がこぼれる。
「百五十年経っても」
「私はまだ先生を超えられません」
タクトが不思議そうに見る。
「エドガー先生?」
エドガーは涙を拭き、笑った。
「勝負だぞ、タクト!」
「だが」
「患者を助けるのが先だ!」
「はい!」
「一緒にやりましょう!」
二人は手を合わせた。
「必ず救う!」
◇◇◇
その瞬間。
天界。
終焉を望む神ゼロスが目を細める。
「愚かな医師どもよ」
「希望など無意味だ」
「だが……」
「その光」
「千年前のレオニスによく似ている」
そして、神の軍勢が動き始める。
一方。
手術台の上のアイリスは微かに微笑んだ。
「レオニス様……」
「いいえ」
「タクト様……」
「お帰りなさい」
そして。
千年越しの大手術が始まる。
第二十二話「千年の命と白き賢医の奇跡」へ続く――。
エドガー・シュバリエ
第二十一話をお読みいただき、ありがとうございました。
今回、神手の医師エドガー・シュバリエが本格的にタクトと肩を並べることになりました。
彼は負けず嫌いです。
誰よりも医術に誇りを持ち。
誰よりも恩師レオニス・ヴァレンハートを尊敬しています。
だからこそ、突然現れた「レオニスの魂を継ぐ者」を簡単には認められませんでした。
「勝負だぞ」
それは敵意ではありません。
医師としての誇り。
そして、患者を救うために自分を磨き続けてきた者の言葉でした。
しかし、手術室に立った時。
幼い日の記憶が蘇ります。
「医者は一人じゃない」
「競い合うことは悪くない」
「だが、最後に勝つべき相手は病だ」
恩師レオニスの言葉。
百五十年経った今でも、エドガーの心の中で生き続けていました。
ぶっきらぼうで不器用。
素直になれず、すぐ勝負を挑む。
それでも患者を前にすれば、誰よりも真剣になる。
それが神手の医師エドガー・シュバリエです。
そして彼は、まだ知りません。
目の前にいる若き貴族医師タクト・フォン・レーヴェンが、自分の尊敬する恩師の意志を受け継いでいることを。
「気に食わん」
「だが……悪くない」
そう呟きながら。
百五十年の孤独を抱えて生きてきた天才外科医は、初めて隣に並んで戦える相手を見つけたのかもしれません。
次回。
千年の眠りから目覚めた王女アイリスを救うため、
二人の医師による大手術が始まります。
果たせなかった約束。
受け継がれた想い。
そして――
白き賢医レオニスの奇跡が、再び世界に希望の光を灯そうとしていました。




