目覚めし古代の巫女と神々の秘密
リュミナリア、大魔王、そしてドレイゴースト
人々は「魔王」を恐れる。
人々は「大魔王」を災厄そのものと呼ぶ。
そして、「ドレイゴースト」という名を聞けば、誰もが震え上がる。
世界最悪の国。
決して近づいてはならない場所。
そう語り継がれてきた。
しかし、本当にそうなのだろうか。
千年前。
神々の戦争が世界を焼き尽くそうとしていた時、一人の巫女がいた。
その名は――リュミナリア。
神々と人々の狭間に立ち、争いを止めようとした最後の古代の巫女。
そして、もう一人。
人間から恐れられながらも、世界の終わりを防ごうとした者がいた。
大魔王ベルゼリオス。
魔王ヴァルゼノスの父。
後の時代では「この世から消えた」と伝えられている存在。
だが真実は違った。
彼は滅んだのではない。
逃げたのでもない。
世界を守るため、自ら永遠の鎖を身にまとい、誰よりも低い存在となることを選んだ。
自ら奴隷となることで。
その全てを背負うことで。
人々の憎しみも。
呪いも。
欲望も。
誰にも背負わせないために。
そして、そのために生まれた国。
それが――
「ドレイゴースト」。
そこは王国ではない。
帝国でもない。
奴隷の国と呼ばれながら、誰一人として好き好んで支配される者はいない。
罪人。
戦争孤児。
行き場を失った者。
呪いを受けた者。
誰からも見捨てられた者たちが集う場所。
そして、大魔王ベルゼリオスただ一人が、全ての苦しみを背負い続ける場所。
誰も知らない。
なぜ聖光教会が生まれたのか。
なぜ黒月病が存在するのか。
なぜ古代の巫女リュミナリアが千年を越えて目覚めたのか。
その答えは全て、ドレイゴーストに眠っている。
これは、世界から恐れられた者たちの物語。
そして――
若き貴族医師タクト・フォン・レーヴェンが、
長い孤独を生きた大魔王ベルゼリオスと出会い、
真実を知る物語である。
誰も知らない。
最悪の国と呼ばれたその場所に、
世界で最も優しい王がいることを――。
第十四話「目覚めし古代の巫女と神々の秘密」
「久しいな、ヴァルゼノス」
アリシアの口から発せられた声に、魔王ヴァルゼノスは愕然とした。
「その声は……!」
「まさか……」
「リュミナリアか!」
アリシアの身体に宿っていたのは、千年前の古代の巫女リュミナリア。
神々と共に生き、世界の秘密を知る最後の巫女だった。
「久しいな、若き魔王」
「いや、今は魔王王ヴァルゼノスと呼ばれているのだったな」
「若き魔王だと?」
リリアもエマも目を丸くする。
「おじいちゃん、若かったの?」
「失礼な!」
と魔王は珍しく慌てた。
しかし、リュミナリアの表情は重かった。
「黒月病……いや、教会病」
「それは病ではない」
「大魔王ベルゼリオスの呪いだ」
◇◇◇
「父上……!」
ヴァルゼノスは顔を曇らせた。
大魔王ベルゼリオス。
魔王ヴァルゼノスの父。
数千年前に姿を消した伝説の存在。
世界では「既に滅んだ」と伝えられている。
だが、リュミナリアは首を横に振る。
「死んではいない」
「自ら奴隷となったのだ」
「奴隷?」
タクトも驚く。
「何故ですか?」
「世界を守るためだ」
◇◇◇
千年前。
神々の戦争。
その中で生まれた最悪の国。
ドレイゴースト。
そこは真の「帰れない国」。
欲望、憎しみ、呪い。
全てを封じ込めるために作られた監獄。
そして、その国を内側から支えるため、大魔王ベルゼリオスは自ら鎖を身にまとい、永遠の奴隷となった。
「父上が……」
ヴァルゼノスは震えていた。
「誰も知らぬ」
「知る者は皆、口を閉ざした」
「そして……」
リュミナリアは静かに告げた。
「聖光教会を作ったのも、大魔王ベルゼリオスだ」
「えっ!?」
セレスティアも大司教バルディウスも息を呑む。
「嘘だ……」
「教会は神々の……」
「いや」
「人々を救うために作られた」
「だが千年の時の中で、その真意は失われた」
◇◇◇
「先生……」
リリアが不安そうにタクトを見る。
エマも震えていた。
「お父さん」
「怖いよ……」
タクトは二人を抱き寄せた。
「大丈夫」
「僕たちは医師だ」
「病気の人がいるなら助ける」
「苦しんでいる人がいるなら放っておけない」
フィリアも頷く。
「そうね」
「それが私たちの家族ですもの」
魔王ヴァルゼノスは目を閉じた。
「父上……」
「貴方は今も戦っているのか」
「ならば、息子として迎えに行かねばならぬ」
◇◇◇
その時。
グラ=ネヴァの空が黒く染まる。
空間が裂けた。
現れたのは黒い鎧の騎士。
「大魔王ベルゼリオス様の命により」
「タクト・フォン・レーヴェン」
「魔王ヴァルゼノス」
「古代の巫女リュミナリア」
「ドレイゴーストへ来られたし」
「我らは待っている」
そう告げると、騎士は消えた。
静寂。
そして。
「先生……」
「行くんですか?」
リリアが尋ねる。
タクトは微笑んだ。
「もちろん」
「患者さんを放っておけないからね」
エマは元気よく手を挙げた。
「私も行く!」
「リリアお姉ちゃんと一緒!」
魔王ヴァルゼノスも立ち上がる。
「父上を迎えに行こう」
こうして、
若き貴族医師。
白き王女。
笑顔を取り戻した弟子。
小さな娘。
古代の巫女。
そして魔王。
彼らは、世界で最も恐れられる国――
ドレイゴーストへ向かう決意を固める。
第十五話「奴隷の国ドレイゴーストと鎖に繋がれた大魔王」へ続く――。
タクトの真相
第十四話をお読みいただき、ありがとうございます。
これまで物語は、若き貴族医師タクト・フォン・レーヴェンを中心に進んできました。
人を救い。
魔族を救い。
敵味方を分けず。
ただ目の前の命を助けたいと願う青年。
しかし、それは前世が医師だったから。
ただそれだけなのでしょうか。
古代の巫女リュミナリアは、初めてタクトを見た時、驚きました。
魔王ヴァルゼノスもまた、どこか懐かしさを覚えていました。
大魔王ベルゼリオスが、なぜタクトをドレイゴーストへ招いたのか。
なぜ数千年の時を越えて、彼を待ち続けていたのか。
それは偶然ではありません。
もしかすると。
タクト自身が知らない「何か」があるのかもしれません。
なぜ、彼は誰よりも命を救おうとするのか。
なぜ、人間も魔族も区別しないのか。
なぜ、リリアを娘のように受け入れ。
アリシアを見捨てず。
大司教すら救おうとするのか。
その優しさは、前世の記憶だけで説明できるものではないのかもしれません。
リリアは言います。
「先生は、誰よりも優しい人です」
フィリアは笑います。
「それがあなたですもの」
エマは胸を張ります。
「お父さんは世界一のお医者さん!」
そして魔王ヴァルゼノスも静かに語ります。
「貴様と初めて会った気がしない」
「まるで、遠い昔から知っていたようだ」
若き貴族医師タクト。
彼の正体とは何なのか。
ただの転生者なのか。
それとも――。
その答えは、最悪の国ドレイゴースト。
鎖に繋がれた大魔王ベルゼリオス。
そして、千年前の真実と共に明かされることになるでしょう。
まだ、タクト自身も知らない。
自らの本当の物語を…。




