眠れる聖女アリシアと千年前の黒月病
『転生しても貴族医師としてここを守る』
第十三話時点 登場人物
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黒鯛 拓真
異世界名:タクト・フォン・レーヴェン
* 本作の主人公
* 前世は日本の外科医
* 若き貴族医師
* レーヴェン診療所院長
* フィリアの夫
* エマの父
* リリアの師匠
* 黒月病の正体を探るため診療室に籠もる
* 「決して命を諦めない」が信念
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フィリア・フォン・レーヴェン
* 元フェルディア王国第一王女
* タクトの妻
* エマの母
* リリアを家族として愛している
* タクトを支える存在
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エマ・フォン・レーヴェン
* 七歳
* タクトとフィリアの娘
* リリアを「リリアお姉ちゃん」と呼ぶ
* 明るく元気な少女
* アリシアに花を届ける優しい心を持つ
* 将来の夢は貴族医師
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リリア・ノエル
* 十二歳
* タクトの一番弟子
* 孤児院出身
* タクトとフィリアを本当の家族と慕う
* エマの大切な友人
* アリシアの回復を祈り続ける
* 「先生、一人で苦しまないでください」と支える存在
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アリシア
聖女候補
* 十三歳
* 原因不明の病に侵される
* 聖光教会から見放されかけた少女
* 黒月病に冒されているとされる
* 長い眠りについている
* 身体の中に謎の存在が眠る
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セレスティア・ルミナ
聖女候補
* 白銀の髪と黄金の瞳を持つ少女
* タクトたちと共に旅を続ける
* 教会改革を望んでいる
* アリシアの身を案じている
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魔王ヴァルゼノス
終焉の地グラ=ネヴァの支配者
* 数千年を生きる古き魔王
* 人間と魔族の共存を願う
* 黒月病の存在を知る数少ない人物
* アリシアの目覚めに驚愕する
* 千年前の悲劇を知る
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アリアンシア・エル=アルヴヘイム
エルフ女王
* 六大王の一人
* 数百年を生きるエルフ族の女王
* 世界の均衡を見守る存在
* アリシアの異変に危機感を抱く
* 「黒月病ではない」と気付く
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バルディウス
聖光教会大司教
* 六十歳
* 聖光教会最高幹部
* 黒月病を「教会病」と知る数少ない人物
* 教会の秘密を知る
* アリシアを救うことを願う一方、心の弱さに苦しむ
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アルベルト・フォン・レーヴェン
聖医
* タクトの父
* レーヴェン侯爵家当主
* 息子を誇りに思っている
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エリシア・フォン・レーヴェン
* タクトの母
* 優しく穏やかな女性
* リリアやエマを家族として愛している
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レオンハルト・フェルディア
フェルディア王国国王
* フィリアの父
* 民を愛する名君
* タクトを信頼している
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セレーネ・フェルディア
フェルディア王妃
* フィリアの母
* エマを溺愛している
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リリアの実父
* グラ=ネヴァへ追放された男
* 娘を金で売った過去を持つ
* 罪と向き合い始めている
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リリアの実母
* 娘を見捨てた女性
* グラ=ネヴァで後悔の日々を送る
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謎の存在
* アリシアの中で眠っていた存在
* 千年前から生きる何者か
* 魔王ヴァルゼノスを知っている
* 神々の秘密と深く関わる存在
* 黒月病の真実を知る鍵
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終焉の地グラ=ネヴァ
* 「帰れない国」
* 魔王ヴァルゼノスが統べる地
* 人間と魔族が共に暮らす場所
* レーヴェン診療所が建てられている
* 世界の秘密が眠る土地
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レーヴェン家の絆
タクト
「助けられる命を、僕は諦めない。」
フィリア
「あなたは一人じゃないわ。」
リリア
「先生、お姉様、エマちゃんが私の家族です。」
エマ
「リリアお姉ちゃん、大好き!」
魔王ヴァルゼノス
「終焉とは終わりではない。希望の始まりなのだ。」
第十三話「眠れる聖女アリシアと千年前の黒月病」
アリシアが運ばれてから七日。
レーヴェン診療所は静まり返っていた。
「先生……」
リリアは扉の前で小さく呟く。
タクトは診療室に閉じこもったままだった。
机の上には古い医学書。
魔導書。
エルフ族の記録。
魔族の伝承。
だが、どこにも書かれていない。
「ない……」
「どこにも載ってない」
「症例すらない」
前世の記憶を辿っても、こんな病気は知らない。
魔王ヴァルゼノスですら険しい顔をしていた。
「我が知る限り、千年前に滅んだ」
「記録も失われた」
「黒月病を知る者など、もう存在しないはずだ」
◇◇◇
一方。
診療室の外。
リリアは毎日、アリシアの手を握っていた。
「大丈夫ですよ」
「先生は諦めません」
「だから、アリシアさんも負けないで」
フィリアも微笑む。
「リリア」
「少し休みなさい」
「いいえ、お姉様」
「私には祈ることしかできませんから」
エマも眠るアリシアに花を飾る。
「アリシアお姉ちゃん」
「早く元気になってね」
◇◇◇
その頃。
大司教バルディウスは、一人、礼拝堂の奥で微笑んでいた。
「しめしめ……」
「やはりか」
「黒月病」
「今の世で知る者はほとんどいない」
「教会堂の最深部に仕える数人しか知らぬ病」
「別名――教会病」
誰も知らない。
それは神罰と恐れられてきた。
「病を発症した者は聖女になれない」
「そして静かに消えていく」
そう教えられてきた。
だが。
バルディウスの笑みはすぐに消える。
「いや……」
「違う」
「私は何を考えている」
「また過ちを繰り返すつもりか」
「この子は人間だ」
「一人の少女だ」
老いた大司教は頭を抱える。
「神よ……」
「私はまだ弱い」
◇◇◇
その夜。
タクトは三日三晩眠らず、診療室にこもっていた。
「分からない……」
「なぜだ」
「なぜ治せない」
すると。
コンコン。
小さな音。
「先生」
「入ります」
リリアだった。
「リリア?」
「ご飯です」
「エマちゃんも、お姉様も待ってます」
「少しだけ休んでください」
タクトは俯く。
「ごめん」
「治せないかもしれない」
リリアは首を横に振った。
「先生」
「昔、私が笑えなかった時」
「先生は言ってくれました」
『辛い時は頼っていい』
「だから今度は私の番です」
「先生、一人で苦しまないでください」
その言葉に、タクトは目を閉じた。
「ありがとう」
◇◇◇
その時。
眠り続けるアリシアの身体から、黒い光が漏れ始める。
魔王ヴァルゼノスが立ち上がった。
「まさか!」
「封印が……!」
エルフ女王アリアンシアも青ざめる。
「そんな……」
「黒月病ではない!」
「これは……」
「千年前、神々が隠した禁忌そのもの!」
そして。
眠るアリシアが初めて目を開いた。
紅く輝く瞳。
そして、誰のものでもない声が響く。
「ようやく……目覚めた」
「久しいな、ヴァルゼノス」
魔王は震えた。
「馬鹿な……」
「貴様は……!」
誰も知らない。
少女アリシアの中で眠っていた存在。
それが千年前の悲劇そのものであることを。
そして。
黒月病の正体が、病ではなかったことを――。
第十四話「目覚めし古代の巫女と神々の秘密」へ続く――。
大司教と教会病
第十三話をお読みいただき、ありがとうございます。
今回、静かに姿を見せ始めたのが「教会病」。
人々には知られていない病。
書物にも載らない病。
そして、聖光教会の最深部に伝わる禁忌でした。
かつて教会は、この病を「神罰」と恐れました。
治療法を探すよりも。
真実を知ろうとするよりも。
隠し、忘れ去ることを選んだのです。
大司教バルディウスもまた、その歴史の中で生きてきました。
救えない者を切り捨てること。
教会を守ること。
それが正しいと信じていました。
しかし、タクトと出会い。
フィリアの優しさを知り。
リリアの笑顔を見て。
エマの純粋な心に触れ。
そして、眠るアリシアを前にして、老いた大司教は初めて迷います。
「教会とは何だ」
「信仰とは何だ」
「私は誰を救いたかったのだ」
教会を守ることなのか。
権威を守ることなのか。
それとも。
目の前で苦しむ、一人の少女を救うことなのか。
若き頃の彼なら、迷わなかったでしょう。
ですが今のバルディウスは、迷いながらも答えを探しています。
それは弱さではありません。
人としての心を取り戻し始めた証でした。
一方、教会病とは何なのか。
本当に病なのか。
なぜ教会だけが秘密を知っているのか。
なぜ千年もの間、隠されてきたのか。
その全てはまだ謎のままです。
ただ一つ、確かなことがあります。
それは――
秘密を守るために命を見捨てる時代は、終わらなければならないということ。
そして、老いた大司教バルディウスもまた、
その終わりを望み始めていました。
「神よ……」
「どうか今度こそ、私は間違えたくない」
それが、長い時を生きてきた一人の大司教の、小さな祈りでした。




