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転生しても貴族医師としてここを守る  作者: マーたん


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聖光教会の巡礼団と大司教の決断

少女アリシア


人は誰しも、救われることを願う。


それが王族であれ。


平民であれ。


人間であれ。


魔族であれ。


そして、聖女候補であっても変わらない。


聖光教会には、一人の少女がいた。


アリシア。


慈愛に満ち、人々のために祈り続けた少女。


誰よりも優しく。


誰よりも人を愛し。


いつか本当の聖女となり、多くの命を救うことを夢見ていた。


しかし。


ある日、彼女は原因不明の病に倒れる。


どんな神官も。


どんな医師も。


どんな治癒魔法も。


誰一人として治すことができなかった。


やがて教会は恐れた。


「不治の病だ」


「近づくな」


「もう助からない」


そうして、少女は人々から遠ざけられていった。


だが。


全ての者が彼女を見捨てたわけではない。


大司教バルディウスだけは、最後まで諦められなかった。


自らの過ちに苦しみながらも、一人の少女を救うため、若き貴族医師タクト・フォン・レーヴェンのもとを訪れる。


一方。


黒き大地グラ=ネヴァでは、魔王ヴァルゼノスが静かに目を閉じていた。


「千年前の悪夢か……」


「なぜ今になって現れる」


そして。


リリア。


フィリア。


エマ。


セレスティア。


家族と仲間たちは、眠り続ける少女を見つめていた。


「大丈夫ですよ」


「先生がいますから」


そう微笑むリリアの言葉には、かつて自分が救われた時の想いが込められていた。


これは。


世界から見放されかけた一人の少女と、


人間も魔族も区別せず救おうとする若き医師たちの物語。


そして。


千年前の悲劇と、封印された真実が再び動き出す物語。


誰も知らない。


眠る少女アリシアの中に秘められた力を。


そして彼女こそが、


未来の世界に希望をもたらす存在となることを――。

第十二話「聖光教会の巡礼団と大司教の決断」


黒き大地グラ=ネヴァ。


レーヴェン診療所には今日も人間と魔族が訪れていた。


「次の患者さんです!」


リリアが元気よく案内する。


「リリアお姉ちゃん、包帯持ってきたよ!」


エマも嬉しそうに駆け回る。


そんな穏やかな日々の中、空から巨大な飛行船が現れた。


「聖光教会の紋章……」


フィリアが顔を曇らせる。


飛行船から降りてきたのは、大司教バルディウスと巡礼団だった。


その後ろには、一台の馬車。


そして、一人の少女が横たわっていた。


◇◇◇


「タクト・フォン・レーヴェン」


バルディウスは深々と頭を下げた。


「頼みがある」


「教会は一人の人物を見捨てた」


「この世界の誰にも治せない病」


「我らには手の施しようがなかった」


タクトは眉をひそめた。


「見捨てた?」


「……はい」


「治せぬ者に時間を費やすべきではない」


「そう判断した」


「だが私は間違っていた」


馬車から運ばれた少女。


年は十三歳ほど。


白い髪。


やせ細った身体。


意識はなく、呼吸も弱い。


「この子は?」


「アリシア」


「かつて聖女候補だった娘です」


「病名すら分からぬ」


「教会は死を待つしかないと……」


「だが私は諦めきれなかった」


「もし、この娘を救えるなら……」


「聖光教会はレーヴェン家への干渉から完全に手を引こう」


◇◇◇


その言葉に、エルフ女王アリアンシアが立ち上がる。


「なんという男だ」


「一人の娘を取引材料にするか」


「命を条件にするなど、愚かにも程がある」


大司教はうつむいた。


「……その通りだ」


「私は最低だ」


「だが、どうか助けてほしい」


「私には、もうこの方法しか思いつかなかった」


◇◇◇


タクトは少女の脈を調べた。


「先生……」


リリアが不安そうに見つめる。


「助かるでしょうか?」


「分からない」


「でも」


タクトは優しく少女の手を握った。


「僕は医師だ」


「教会のためでも」


「条件のためでもない」


「この子が生きたいなら助ける」


フィリアも微笑む。


「それがあなたですもの」


エマも頷く。


「お父さんなら絶対大丈夫!」


魔王ヴァルゼノスも静かに腕を組む。


「面白い」


「数千年生きた我ですら知らぬ病か」


「ならば、共に考えよう」


◇◇◇


その夜。


診療所のベッド。


眠り続けるアリシアの指が、わずかに動いた。


「……たす……けて……」


その瞬間。


タクトの前世の記憶が激しく蘇る。


「まさか……」


「この症状は……!」


そして魔王ヴァルゼノスも目を見開いた。


「あり得ぬ!」


「それは千年前に滅んだはずの病!」


「『黒月病』……!」


誰も知らない。


その病が、世界そのものを滅ぼしかけた災厄であったことを。


そして。


眠る少女アリシアこそが、世界の運命を変える存在であることを――。


第十三話「眠れる聖女アリシアと千年前の黒月病」へ続く――。

黒月病


第十二話をお読みいただき、ありがとうございます。


今回、その名だけが語られた「黒月病」。


千年前。


世界を滅亡寸前まで追い込んだとされる災厄の病です。


発症した者は徐々に衰弱し、魔力も生命力も奪われていく。


治癒魔法は効かず。


神官たちの祈りも届かず。


当時、多くの医師や賢者たちが命を懸けて研究しました。


しかし、治療法を見つけることはできませんでした。


そして人々は病そのものを恐れるようになりました。


感染者を隔離し。


時には見捨て。


絶望の中で時代は流れていきます。


やがて病は姿を消し、伝説となりました。


だからこそ、魔王ヴァルゼノスは驚いたのです。


数千年を生きた彼でさえ、再び現れるとは思っていなかったからです。


しかし。


病そのものが悪なのではありません。


恐怖に負け、人を見捨ててしまう心こそが、本当の敵なのかもしれません。


かつて孤独だったリリア。


教会から見放されたアリシア。


罪を悔いる大司教バルディウス。


そして、長き孤独を生きた魔王ヴァルゼノス。


誰もが傷を抱えています。


それでも。


「まだ助けられる命があるなら、諦めない」


それがタクト・フォン・レーヴェンという医師の信念でした。


黒月病は、単なる病ではありません。


千年前の真実。


魔王ヴァルゼノスの過去。


聖光教会の秘密。


そして、眠る少女アリシアに秘められた運命。


全てを繋ぐ、世界最大の謎です。


果たしてタクトは、誰も治せなかった病に立ち向かうことができるのか。


そして、黒月病とは本当に病なのか。


その答えは、まだ誰も知りません。


ただ一つ確かなことがあります。


それは――


絶望の夜が深いほど、


夜明けの光は、より強く輝くということです。

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