黒き大地の診療所と魔王の願い
『転生しても貴族医師としてここを守る』
第十一話時点 登場人物
⸻
黒鯛 拓真
異世界名:タクト・フォン・レーヴェン
* 本作の主人公
* 前世は日本の外科医
* レーヴェン診療所院長
* フィリアの夫
* エマの父
* リリアの師匠
* 人間も魔族も分け隔てなく救う若き貴族医師
* 「全ての命を守る」が信念
⸻
フィリア・フォン・レーヴェン
元フェルディア王国第一王女
* タクトの妻
* エマの母
* リリアを娘のように愛している
* 診療所を支える存在
* 「白き王女」と呼ばれる
⸻
エマ・フォン・レーヴェン
* タクトとフィリアの娘
* 七歳
* 明るく元気な少女
* リリアを「リリアお姉ちゃん」と呼ぶ
* 難産の際にリリアに助けられたことで生まれることができた
* 将来は父のような貴族医師を目指している
* 魔王ヴァルゼノスにも懐いている
⸻
リリア・ノエル
* 十二歳
* タクトの一番弟子
* 教会孤児院出身
* タクトとフィリアを本当の家族として慕う
* エマにとって一番大切な友人であり姉のような存在
* 医師を目指して修行中
* 過去の苦しみを乗り越え、笑顔を取り戻した
⸻
セレスティア・ルミナ
聖光教会聖女候補
* 白銀の髪と黄金の瞳を持つ少女
* 人々を救うことを願う優しい女性
* タクトたちと共に旅を続ける
* 教会改革を望んでいる
⸻
魔王ヴァルゼノス
終焉の地グラ=ネヴァの支配者
* 数千年を生きる古き魔王
* 冷静沈着で理不尽を嫌う
* タクトの医術と心を認めている
* リリアを哀れみ、エマを孫のように可愛がる
* 「やり直しの場所」を作ることが本当の願い
* 人と魔族の共存を願う存在
⸻
アルベルト・フォン・レーヴェン
レーヴェン侯爵家当主
* タクトの父
* 王国最高峰の医師
* 「聖医」と呼ばれる存在
* 息子たちを誇りに思っている
⸻
エリシア・フォン・レーヴェン
レーヴェン侯爵夫人
* タクトの母
* 優しく穏やかな女性
* フィリアやリリア、エマを家族として愛している
⸻
レオンハルト・フェルディア
フェルディア王国国王
* フィリアの父
* 民を愛する名君
* タクトを信頼する
⸻
セレーネ・フェルディア
フェルディア王妃
* フィリアの母
* 慈愛に満ちた女性
* 孫のエマを可愛がっている
⸻
バルディウス
聖光教会大司教
* 六十歳
* かつてタクトと対立した
* 現在は教会改革を志している
* 自らの過ちを悔いている
⸻
アリアンシア・エル=アルヴヘイム
エルフ女王
* 六大王の一人
* 数百年を生きるエルフ族の女王
* タクトを見守る存在
* 人間とエルフの未来を案じている
⸻
リリアの実父
* 酒と煙草に溺れた男
* 娘を金で売った
* 村を崩壊させた張本人
* グラ=ネヴァで罪と向き合うことになる
⸻
リリアの実母
* 娘を見捨てた女性
* 放蕩生活を送っていた
* グラ=ネヴァで過去を悔いている
⸻
終焉の地グラ=ネヴァ
* 「帰れない国」と呼ばれる謎の大地
* 魔族と罪人が暮らす場所
* 魔王ヴァルゼノスが治めている
* タクトたちによって診療所が作られた
* 少しずつ希望の地へ変わり始めている
⸻
レーヴェン家
タクト
「人も魔族も、救える命は救いたい。」
フィリア
「家族は血だけで決まるものじゃないわ。」
リリア
「先生、お姉様、エマちゃん……私の宝物です。」
エマ
「リリアお姉ちゃん、大好き!」
魔王ヴァルゼノス
「家族とは、生んだ者ではなく、最後まで守る者のことだ。」
第十一話「黒き大地の診療所と魔王の願い」
終焉の地グラ=ネヴァ。
帰ることのできない黒き大地。
その地に、タクト・フォン・レーヴェンは家族と共に小さな診療所を開いた。
人間。
獣人。
魔族。
エルフ。
身分も種族も関係なく診る。
それが貴族医師タクトの信念だった。
そして今日も、診療所は賑やかだった。
「リリアお姉ちゃん!」
「待ってー!」
「エマちゃん、廊下は走っちゃ駄目ですよ」
「えへへ、ごめんなさい!」
七歳になったエマは、すっかりリリアに懐いていた。
フィリアも微笑む。
「本当に仲良しね」
「お姉様、エマちゃんは元気いっぱいですから」
リリアも笑顔だった。
昔のように、寂しそうな顔をすることはなくなっていた。
◇◇◇
そんなある日。
診療所の前に、やつれた二人の男女が現れる。
リリアの実の両親だった。
「た、助けてくれ……」
「食べ物を……」
「娘よ……」
エマは首を傾げた。
「この人たち?」
リリアは静かに答えた。
「私を捨てた人たちです」
エマは少し悲しそうな顔をした。
「そうなんだ……」
「じゃあ、お姉ちゃんが悲しくなることは言っちゃ駄目!」
「お姉ちゃんのことを泣かせる人は嫌い!」
リリアは優しくエマを抱きしめた。
「ありがとう、エマちゃん」
「でも大丈夫ですよ」
「もう私は泣きません」
◇◇◇
玉座の間。
魔王ヴァルゼノスは二人を見下ろした。
「愚かな人間よ」
「貴様らは今まで何をしてきた?」
「娘を愛したか?」
「守ったか?」
二人は震える。
「ち、違うんだ……」
「金が……」
「酒が……」
「浮気相手が……」
魔王は深くため息をついた。
「まだ言い訳をするか」
「今までの悔いを改めろ、人間」
「過去は消えん」
「だが、罪を知り、生き方を変えることはできる」
「それすらできぬなら、貴様らは人間ですらない」
その言葉に、二人は初めて声を上げて泣いた。
◇◇◇
夕暮れ。
診療所の庭。
エマはリリアの膝の上で眠っていた。
「すぅ……」
「エマちゃん、寝ちゃいましたね」
「リリアが好きなんだよ」
タクトは優しく笑った。
「エマが生まれたのは、リリアのおかげだから」
フィリアも頷く。
「私たちにとって、リリアは娘であり、妹であり、大切な家族よ」
リリアの瞳から、一筋の涙が零れた。
「先生……」
「お姉様……」
「エマちゃん……」
「ありがとうございます」
そして。
遠くから見守る魔王ヴァルゼノスは、小さく微笑んだ。
「タクト」
「貴様の願いは間違っていない」
「人も魔族も、やり直すことはできる」
「それこそが、我の願いだったのかもしれぬな」
長き時を生きた魔王は、初めて自分の願いを知った。
それは世界の支配ではない。
傷ついた者たちが、再び笑える場所を作ることだった。
そして、黒き大地グラ=ネヴァに――
新たな希望の灯がともり始めていた。
第十二話「聖光教会の巡礼団と大司教の決断」へ続く――。
終焉の地グラ=ネヴァとは
第十一話をお読みいただき、ありがとうございます。
「帰れない国」
そう呼ばれる終焉の地グラ=ネヴァ。
人々は恐れます。
罪人が送られる場所。
魔族が住む場所。
一度入れば二度と帰れない呪われた土地。
そう伝えられてきました。
ですが、本当にそうなのでしょうか。
数千年を生きる魔王ヴァルゼノスは、ある日こう語りました。
「罪を犯した者は裁かれるべきだ」
「だが、永遠に憎まれ続けるために生きるのではない」
「悔い改め、もう一度立ち上がる場所が必要なのだ」
グラ=ネヴァとは、元々は戦争によって傷ついた者たちが集まり、静かに暮らすために作られた大地でした。
しかし、長い年月の中で人々はその意味を忘れ、
「追放の地」
「魔王の国」
「呪われた場所」
として恐れるようになりました。
そして、誰も近づかなくなったのです。
そんな黒き大地に現れたのが、若き貴族医師タクト。
彼は人間も魔族も区別しませんでした。
「苦しんでいる人がいるなら診る」
「それだけです」
フィリアは笑って支えました。
リリアは一番弟子として走り回りました。
エマは誰とでも仲良くなりました。
そして、長い間孤独だった魔王ヴァルゼノスもまた、その姿を見て少しずつ笑うようになっていきます。
終焉とは、本当に終わりなのでしょうか。
もしかすると、終わりとは新たな始まりなのかもしれません。
帰れない国。
黒き大地。
終焉の地グラ=ネヴァ。
そこは世界から見捨てられた者たちが集まる場所。
しかし同時に、
傷ついた者がやり直し、
罪を悔い、
再び笑顔を取り戻すための場所でもあります。
誰にも必要とされなかった少女リリア。
長き孤独を抱えた魔王ヴァルゼノス。
そして、人も魔族も救おうとするタクトたち。
彼らの出会いによって、終焉の地は少しずつ変わり始めました。
絶望しかなかった大地に、
小さな診療所の灯りがともるように。
終焉とは、終わりではない。
新たな希望が始まる場所。
それこそが――
終焉の地グラ=ネヴァ。
そして、その物語はまだ始まったばかりなのです。




