魔王からの招待状と黒き大地の真実
リリア
第十話「魔王からの招待状と黒き大地の真実」
終焉の地グラ=ネヴァ。
誰も帰ることのできない黒き大地。
その玉座の間で、魔王ヴァルゼノスは静かに笑っていた。
「面白い」
「本当に面白いな、人間とは」
その隣で、銀色の髪を揺らす少女が頷く。
「ええ、お父様」
少女の名は――
エマ・フォン・レーヴェン。
タクトとフィリアの娘。
七歳。
母譲りの金色の瞳と、父譲りの黒髪を持つ少女である。
「この人たちが、リリアお姉ちゃんの両親?」
「……情けない人たち」
リリアの両親は震え上がる。
「な、なんだこのガキ!」
「助けろ!」
エマは冷たく見つめた。
「リリアお姉ちゃんを泣かせた人なんて嫌い」
「お姉ちゃんがいなかったら、私はこの世界にいなかった」
◇◇◇
数年前。
フィリアが難産で命の危機に陥った時。
そばにいたのは、まだ幼いリリアだった。
「先生!」
「お姉様が!」
「血が止まりません!」
泣きながらも薬と器具を運び続けた。
タクトも必死だった。
そして母子ともに助かった。
生まれたのがエマだった。
だからエマは知っている。
「リリアお姉ちゃんがいたから、私は生まれた」
「だから一番大好き!」
◇◇◇
魔王ヴァルゼノスは笑った。
「血の繋がりか」
「くだらんな」
「タクトとフィリアは娘を愛し」
「リリアは娘を支えた」
「それが家族だ」
「一方、お前達は何をした?」
リリアの両親は何も答えられない。
◇◇◇
一方。
王都レーヴェン診療所。
「先生!」
「お手紙です!」
リリアが駆けてくる。
差出人は――
魔王ヴァルゼノス。
「魔王から?」
フィリアも驚く。
そこには美しい文字でこう書かれていた。
『若き貴族医師タクト・フォン・レーヴェンへ』
『貴様は面白い』
『この帰れない国グラ=ネヴァで働く気はないか?』
『無論、妻と娘、弟子も歓迎する』
『人も魔族も病に苦しむ』
『救える者は少ない』
『我は魔王ヴァルゼノス』
『医師を求めている』
『返事は自由だ』
タクトは苦笑した。
「魔王から診療の依頼か」
「初めてだな」
すると、七歳になったエマが目を輝かせた。
「お父さん!」
「私、グラ=ネヴァで働いてみたい!」
「人間も魔族も助けたい!」
「私、貴族医師の娘だもん!」
フィリアは笑う。
「エマったら、お父さんそっくり」
リリアも微笑む。
「エマちゃん、頑張ろうね」
「うん!」
「リリアお姉ちゃんは、私の一番大切な友達!」
「ずっと一緒!」
タクトは二人の頭を優しく撫でた。
「そうだね」
「みんな家族だ」
そして遠く離れたグラ=ネヴァ。
魔王ヴァルゼノスは空を見上げる。
「タクト」
「貴様なら、この黒き大地も救えるか?」
「我が千年待った答えを、見せてみろ」
その隣でエマは微笑む。
「おじいちゃん」
「きっと大丈夫」
「お父さんとリリアお姉ちゃんだもん!」
誰も知らない。
帰れない国グラ=ネヴァの真実。
そして魔王と若き貴族医師の出会いが、
人間と魔族、両方の運命を変えることになることを――。
第十一話「黒き大地の診療所と魔王の願い」へ続く――。
エマ




