沈黙という名の金メダル〜浮気しない男〜
浮気しない男性は本当にいる。
だけど「その理由」や「その努力」は、意外と語られない。
なぜか?
語った瞬間、別の話に変換されてしまうからだ。
今回は、そのすれ違いについて、少しユーモラスに触れてみたい。
以前、「浮気をしない男性は確かにいる」という話を書いた。
あれはあれで本音だったのだが、ひとつ大事なことを言い忘れていた。
――浮気をしなかった“成果”は、絶対に報告できない。
これはもう、どんな誠実な男でも無理だ。
なぜなら、言った瞬間にこうなる。
「え、チャンス、あったの?」
「どういう状況?」
「誰?」
「なんでそんなこと言うの?」
「その人、今も連絡取ってるの?」
質問の洪水。
尋問の嵐。
謎解きゲームの開幕。
そして何より、こちらのメンタルが秒で沈む。
たとえば、勇気を振り絞ってこう言うとする。
「いや〜、この前さあ、チャンスはあったけど、ぐっとやり過ごしたんだよ」
はい、アウト。
拍手も感謝もない。
“ぐっとやり過ごした”という努力は一瞬で霧散し、
なぜか「チャンスがあった」のほうだけ強調される。
そう、
浮気をしなかったという努力は、
語った瞬間に“浮気未遂の告白”に変換される。
これはもう物理法則だ。
リンゴが落ちるように、
猫がパソコンの上に乗るように、
男が真実を言うと面倒になる。
だから我々は学んだ。
成果は黙って持ち帰る。
沈黙こそ最大の自己防衛。
なぜかって?
「浮気しなかった」という美談は、
“浮気しそうになった”という物語の前置きになってしまうからだ。
これでは語れない。
トロフィーはあるのに、
表彰台に上がると逆に怒られるようなものだ。
では、どうすれば評価されるのか?
――たぶん一生、無理である。
なぜなら、
やらなかった努力は、
“やらなかったこと”としてしか残らない からだ。
そんなわけで今日も、
浮気しない男性たちは静かに暮らしている。
心の中に、
誰にも知られない金メダルをひとつしまい込んで。
そして、
そのメダルの存在すら
決して言えないのである。
誠実を言葉で証明するのは難しい。
沈黙は評価されず、語れば疑われる。
結局のところ、浮気をしないという判断は、
誰にも知られないまま、当人だけの記録になる。
それでも、その沈黙のメダルは、
案外、悪くない重さだと思う。




